「センパイ、見過ぎです…」


「…………………」


「…………………」


ただでさえみんな真剣に作品に取り掛かっているため静かな美術室。私とセンパイが話さなくなったら余計に静かに思えてしまう。


「………………センパイ」


「……なんでしょうか?」


センパイはあくまでもスケッチブックから顔を上げては下げて、時折消しゴムで消したり、私をガン見したりを繰り返しながら私の呼びかけに応えた。


「………どのくらい出来ましたでしょうか?できればもう恥ずかしいので…」


「まだ五割も終わっていませんよ」


ピシャリ、と言い切られてしまった。

まぁ…そこまで言い切られてしまえばもう私は何も言う事が出来ない訳で。


「………………」


「………………」


また静けさが戻ってきてしまった。いいよ、静けさはもう帰れよ。なんて思うが静けさがそんな空気の読めるやつな訳なく、どっしりとその場に居座る。


不意にこちらを見ていたセンパイと目が合う。


「………………」


「結城さん、もぎれるかと思うほどの勢いで首を横に振らないで、元の位置に戻してください」


「……………ハイ…」


こっちは恥ずかしさでどうにかなりそうなんですよ!!! なんてセンパイに言えない私はただゆっくりと首を元の位置に戻した(仮に言えたとしても「早くしてください」と言われ、結局元の位置に戻していただろう)。


それから描き始めた事、三十分。

体感的には三時間に感じたが、どうやら時計を見る限り三十分のようだ。…壊れているとかではないんだよね?


「できました」


「その言葉を待ってました…」


内心半泣きしながら私は拍手をし、センパイから手渡されたスケッチブックを見る。


「………わぁっ」


そこには細部までしっかりと表現された私がいた。髪の細かいカールなんて難しかっただろうに。


「凄いです…! 本当に上手ですね…!」


「褒められると嬉しいものですね。ありがとうございます」


センパイはニコッ、と笑って「いい手慣らしになりました」と続けた。


「センパイ、部長の仕事とか、文化祭の準備で長期間、本格的には描けていなかったですもんね!」


「えぇ。今度は絵の具を使っても描きたいところですね」


「センパイの絵の具の使い方は勉強になるんで今度ぜひ近くで見させてください」


「ふふ。いいですよ」


そう言うセンパイにスケッチブックを返し、私は「そういえば…」と口を開いた。


「センパイ、今日の帰りは…?」


「一緒に帰れると思いますよ」


「よっしゃあ!」


センパイの言葉に思わずガッツポーズをしてしまう私。


「結城さんらしい喜び方ですね」


「おっと。失礼しました…、あはは…」



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