「センパイ、持ってますか?」


「セーーーーフッ!」


「アウト寄りのセーフだ。早く席に着けー」


「なんでよ、カーティ! どう考えたってセーフじゃん!」


「だからセーフって言っただろ! それに俺の事をカーティと呼ぶな! とどろきだ!」


「うぇ〜〜、カーティに怒られたァ…」


なんて情けない声を出しながら私は席に座る。私から見て斜め前にいる親友のえみ(本名は須藤すどう えみ)がニタニタと笑ってこちらを見ている。


極めて不快である。くそっ。


「それじゃ結城も来たところだし、全員いるな〜。おっけ〜。今日の予定は…」


そう言ってカーティは出席簿を見ながら今日の予定を話す。それを右から左に流して私はバッグの中身を確認する。


…………やっぱり昨日の教科書のままだ…。しまった…。教科書、誰かに借りないと…。


「はぁ」、なんてため息を吐きながら私は頬杖をついてカーティの話を(仕方がなく)聞く。


私たちの担任。カーティの本名は轟 ひかる先生。彼女いない28歳。年齢より若く見えていわゆる童顔ってやつだ。どっかの女顔先輩と似ている。


車好きと苗字の轟からカー(車)と、ティーチャー(先生)の“ティ”から“カーティ”とみんなからは呼ばれている(本人は嫌がっているが)。


「んで、文化祭終わってもう12月になってきて寒くなるから着込んでおけよ〜」


カーティの言葉に私は「そうだ」と呟く。

もう12月だ。センパイと付き合って3ヶ月になる月である。


少し前にえみが言っていた“3ヶ月単位で別れる現象”…。気をつけなければ。


「それじゃ一時間目は数学な。お前ら頑張れよ〜」


カーティはそう言うと教室を出ていった。と、同時にクラスのみんながザワザワと騒ぎ出す中、えみがこちらへとやってくる。


その顔ははやりニヤニヤしている。


「優良〜、今日は遅かったね。どうしたの?」


「そんなニヤニヤしてる人に教えたくない」


「先輩と何かあったんでしょ」


「ないよ」


「3ヶ月近いから別れよう、とか?」


「それはないですぅ! ラブラブなんで!」


「じゃあなんでギリだったの?」


「寝坊」


「つまんな」


「聞いてきたのそっちでしょ…」


私はため息を吐きながらバッグの中を再度確認する。ガサガサ、と筆箱やらスケッチブックやらを避けて数学の教科書とノートを探す。


「あ」


「何、どうした」


「昨日、数学あった?」


「ないよ」


「終わった…」


えみの言葉を聞き、私は机に突っ伏した。数学の先生は厳しくない優しいおばあちゃん先生で、教科書はなくてもさほど問題は無いのだが…。

数学が苦手な私からすると教科書はあった方がいい。


「バッグの中身、昨日のままなんだよね…」


「隣のクラスから借りてきたら?」


「…………センパイ、持ってるかな?」


「さすがに一年の教科書持ってねぇよ」



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