第140話 聖女は自分で仕事を増やす①
寝室に並べた物品は母から送られてくる物品と入れ替える形で外へと運び出す事になった。
むろんうちに王宮に上げるような物を揃えるお金なんてないので祖父持ちだ。
……なんか父の肩身が狭くなっていってないかと不安が。ごめんよ父。
心の中で手を合わせて謝っておいて、本日は王都の精霊教会へとやってきている。
例の木造建築で建てられた教会は辺境伯領で見た物よりも威容があり、祈りを捧げる人の数も比例して多かった。そして被災した今は表で炊き出しもしていてとにかくわちゃわちゃしている。
ハンネスさんからの話では、精霊教会への寄付が集まっているらしく慈善活動は今のところ継続して可能だと聞いた。
何で寄付が集まっているのかというと、あの野次馬精霊達が各地でちらほら目撃されるようになったからというのだ。私の女神話と相まって信仰が高まっているのだとかなんとか……えらい誤解されたままだが……後が怖いが……役に立っているのならまぁ…いいか……と、思うようになりました。
今日はちょっと精霊教会にお願いがあってやってきたのだ。
今回も外出する事をシャルには渋られたが、元々この国にもあればなと思っていた構想を伝えるとこれまた渋々許可がもらえた。
護衛はレティーナと女性騎士三人に、侍女としてドロシーさんが来てくれている。
もっと護衛をつけられかけたけど、レティーナが揃っている状況で私の防御を突破できる相手は今この王都ではレンジェルと兄ぐらいなのだ。そこは兄も太鼓判を押してくれたので、なんとかこの数で収まった。
先触れを出したので私達が到着するなりすぐに奥へと招き入れられた。
先導してくれている人はアイライ様という司祭様で、ゆったりした服装はハンネスさんの物と同じだ。
時折すれ違う教会の人はみな一様に少し脇に下がって頭を下げてくれているが……まるで王宮と同じ対応に、王族ってすげえなと思った。辺境伯領でも丁寧な対応は受けたけどここまで人が居なかったからより顕著というか。
今回お願いをするにあたってちゃんと精霊教会について確認したのだが、精霊教会は権力に阿る事は今まで一度として無かったらしい。
要職者が全て貴族出身だというのに、一度として無いというのは異例だと個人的には思うがこの国ではそれが当たり前のようだ。教会に入れば俗世からは切り離されるという感覚かな?と勝手に納得している。
とまあそんなわけで私がお願いしに来ても、すげなく断られる可能性がある。そうなったら……また資金をどこかしら作って自前で頑張るしかない。
ただとりあえず保育の機能だけは臨時でもいいので作りたい。
「こちらです」
アイライ様が扉をノックすると中から年配の男性の応答があり、どうぞと扉を開かれた。
面会相手は精霊教会のトップ。大司祭のレアンドル様だ。
護衛をつけられていないので、こちらもドロシーさんだけを伴って中へと入る。
レアンドル様は六十五歳の方で、この国ではかなり年配に部類される。
白髪に染まった髪を後ろで纏められており、白い服も相まって全体的に白いなという印象のお爺ちゃんが机に座ってニコニコされていた。
「初めまして。リーンスノー・エモニエと申します。
大司祭様とお会い出来ました事嬉しく思います」
「初めまして。レアンドルと申します。大司祭などと呼ばれておりますが、どうぞ気になさらず楽になさってください」
おぉ……王族に楽にせよと言うとは……すごいな。見下しているわけではないのは態度からわかるから、ここに来るまでに受けた扱いとの差を感じる。これが精霊教会本来のスタンスなのだろう。
「ありがとうございます」
どうぞと椅子を勧められて机の前に設けられているテーブルセットに座ると、レアンドル様はよいしょと机から立ち上がって目の前に座られた。小柄だ。
視線を手元に感じて、左手の中指にある婚姻の証が目に入った。そういえばこの方にシャルとの婚姻を結ぶ時に『許し』を得たんだっけ。
「その節はお世話になりました」
左手を軽く上げて言えば、ニコニコと首を横に振られた。
「綺麗に咲きましたね」
咲いた? って、あぁなんか花弁の模様だったから。
そう思って改めて左手の中指を見てあれ?と思う。以前見たものと形が違う気がした。
「わざわざこちらへお越しいただいたという事ですが、どのようなお話なのでしょう?」
「あ、はい。これから避難地に住居を建てていく予定なのですが、建設中に子供たちを集めて面倒を見てもらう人員を配置していただけないかとお願いに参ったのです。可能であればその中で文字の読み書きや、計算を教えていただけないかと」
孤児院の運営も一部やっていたので、ノウハウはある筈。
「子供たちを?」
「避難している方にも建設を手伝ってもらう予定なのです。ですからその間、子供たちの世話をしてくださる方を探しておりまして」
「なるほど……しかし、読み書きや計算となると別の意味を感じますが」
そうですねと私はレアンドル様の言葉を肯定して話を続ける。
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