第137話 聖女は仕事を任される⑤

 青とか白とか。あとは絵付けが綺麗なのと。中国と日本の有名どころの焼き物をいろいろ出してみた。再現できるのかは不明だけど。


「で、こっちは木で出来たものです。漆があるかわからないのですが、艶があって綺麗でしょ?」


 はいこっちと今度は漆塗りのお椀を差し出せば、皿をひっくり返して見ていたシャルはまたそれを置いて受け取った。


「お盆とか、小物入れとか、木をこんな風にして扱うのは物珍しいかなと」

「質感が木には思えないな」

「水にも強いですから丁寧に使えば持ちはいいですよ。あ、でも食器は微妙か。ナイフやフォークだと傷をつけてしまいますから……箸の文化ないですしね。じゃあ小物入れとかかな?」


 サクサク行こうと次の木工品を手に取る。


「これは結構面白いですよ。開けるのにちょっと手順があってですね……」


 箱の形をしたそれをスライドさせたりずらしたりを繰り返して蓋を開けて見せる。


「寄木細工の秘密箱って言うんです」


 元に戻してはいどうぞと渡すと、シャルは先ほど私がやったようにしてみるが……上手く出来ないようだ。


「大事なものを入れておいたりするんですけど、子供の遊びとしても面白いかなと思いまして。結構夢中になりません?」


 知恵の輪的な感じで。

 シャルはどうにか開けようと無言で頑張っているが、やがて諦めたらしい。そっと置いていた。


 どことなく面白くなさそうな顔に笑いを堪え。続けて子供向けのおもちゃやゲームの道具を使ってみせると物珍しそうに手を出して動かしていた。動物の木の積み木やパズルとか、コロコロと上から落ちていくやつとか。盤のゲームも出したが、これはこちらにも似たようなのがあるので、将棋とか囲碁には結構興味がありそうだ。意外とそういうのが好きなのかな?


「こっちは楽器ですね」


 次に行こうと手に取ったのは胡弓。

 前世の祖母がお師匠さんで、琴、三味線、胡弓にはそこそこ触る機会があったのだ。

 ちょっと失礼しますねとその場に正座して音を確かめる。低い方からシミシの音だが……出来るかな?さすがに前世ぶりなので自信が無いが……まぁ大体という事で。膝の上に手ぬぐいを敷いて(さすがに部屋着用の簡易なドレスとはいえ生地が良さげなので怖い)胡弓を置き弓を持ち毛束を張るように中指と薬指で支える。

 左手は親指と人差し指の間で胡弓の首を軽く支え、毛束を弦に合わせて動かす。

 定番のさくらだ。それから姪っ子の興味を惹こうと覚えたアニメの歌。魔女っ子みたいな女の子が主人公の主題歌を。


「不思議な音色だな」

「そうですね。こちらのものはわりとハッキリした音色ですからね」


 近いので言えばバイオリンか。少し形は違ってアクムと言う名の楽器だが、使い方はバイオリンそのものだ。

 三味線もついでに少し鳴らして、あとは四十過ぎてから習ったウクレレ。

 ピアノも少しなら弾けるが流石にこの部屋に置くには大きいので今回は出していない。こちらにも似たような楽器でポックルというものがあるが、あれはチェンバロに近い感じなのでピアノが出来ればまた違う楽器として扱われるのではないかと思う。どこかで試してみるのも面白そうだ。

 

 音学関係で次はオルゴール。手回し式で、上に木工の人形が乗ってくるくる回る工芸品だ。オルゴールの発想が無かったので、これにはちょっとびっくりしている様子。中の構造はそこまで難しくないので、いけるかな?

 小物のカスタネットやタンバリン、トライアングルやリコーダー。フルートはちょっと難しいので横笛。個人的にはハーモニカもいいが、あれも再現が難しそうなので今回は無し。

 大物もある事は伝えておいて次に行く。サクサク行かねば。


「こっちは衣類関連です。民族衣装で、どれがどこのだったか忘れましたけど、いろんな国の衣装です」

「……それは」


 ふとシャルが指差したのは桜の絵柄の着物だった。


「これは私の故郷の民族衣装ですね。着物と言って、反物、長細い布地から作っているんですよ」


 ちょっと着てみますねと着物の一式を手に取って――


「あの……すいません。後ろ向いててもらえますか?」


 お願いしたら、笑われた。


 はい。わかってますよ。シャルの目の前で何度着替えたかわかりませんよね。わかってますよ。自分でも何言ってんだと思いますよ。でも恥ずかしいんだからしょうがないじゃ無いか!そこの精霊も野次馬に来るんじゃない!


 笑いながら後ろを向いてくれるシャルにくそーと思いつつ礼を言って、ワンピースタイプの簡易ドレスを脱いで襦袢を手に取る。それから着物を合わせて裾を調整し腰で一旦止めてお端折りを作って、帯を手に取る。……お太鼓さんぐらいしか一人じゃできないな。まぁいいか。留袖だし。

 よいしょと帯を肩に掛けて腰に巻いて、枕を当てて止めて、太鼓の形を整えて帯締めを締める。で、えーとこの辺に出しておいた簪で……髪を適当に留めてと。


「出来ました」


 声をかけるとシャルはこちらを向いて、少し目を見張った。


「前もですけど、着物って後ろからも見栄えがするのが個人的にいいところだと思うんですよね。まぁこの国では服の形として違いすぎて微妙だろうなとは思ってますけど」


 後ろを見せて顔だけシャルに向けて言うと、片手に顔を埋めてため息をついていた。やっぱり感性が違いすぎるか。


「……いや、綺麗だと思うぞ。その柄にある花はなんと言うんだ?」

「これですか? 桜というんです。春にほんの少しの期間だけ咲いて散っていく花なんですよ。よく日本人……故郷の民族の心だなんて言われてました」

「好きなのか?」

「そりゃまぁ私も日本人の端くれでしたから。風が吹いた瞬間花びらが舞って視界が薄紅色に染まるんですけど、本当に綺麗なんですよ」

「あぁそれは綺麗だ…――ろうな」


 変なところでイントネーションが切れるシャルになんだ?と思ったが、まだまだ物はあるので次にいく。

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