第136話 聖女は仕事を任される④

 しかし……書類上はクリスさんの姪っ子がドロシーさんというわけの分からんことに……そしてその姪っ子を兄が奥さんにするって事で……字面だけ見ればえらい青田買いだ。もしくは紫の上的な?

 でも実際はドロシーさんが一番年上という……貴族社会って複雑である。


 クリスさんは一旦下がって(まだ教育途中らしい。私に害が無い人間という事で私付という事になっているそうだ)再びお茶をいただきながらボーロのような食感のお菓子をもぐもぐ。

 これ歯にくっつきそうだな。後で歯磨こ。あ、衛生用品もいけるか?


 思いついてちょっとぐらいならいいかと吸収率のいいお高めのタオルを出してみる。

 ふかふかだ……こっちのってパイル生地じゃないからあんまり吸収が良くないんだよな。すぐにぺちゃぺちゃしてしまって。

 他にもペンとか紙とか基本的なものが……ペンはともかく、紙はいけるか?


 思わず置いていたノートを撫でる。引っかかりの無い滑らかな質感の紙。個人的に欲しい。いやでもパルプを作る行程を知らないしな……薬品と結構な圧力をかけてやってたような気がするし……んー……でも改良は……って、そういえば辺境伯様に渡したノートあれ、絶対目をつけてやろうとしてるよなあの人。じゃこっちでやっても微妙だな。出来上がるのを待とう。


 あとはあっちで出してないのは……基礎化粧品は出したから……薬用品の方向か?尿素系のクリームとか。出来るかどうかは別として調べてみるのはありか。


 各種クリーム系をガラスの器を作って出したところでちょっと使い過ぎた感じがした。


 ここまでだなと息を吐き、ソファに凭れて目を閉じる。魔力回復薬を出せばもっと出来るだろうが……そこまでやったら怒られそうだしなぁ……


 少し休んで、だるさは残っていたものの気力は回復した。戻ってきたシャルと夕食をいただいてちょっくら見てくれないかと早速寝室へ連れてった。


「…………」


 意気揚々手を引いてったら、所狭しと並べられた品々を前にシャルは無言になった。


「職を失った者が多いと言われていたでしょう?

 上下水道の工事は正直王都の復興を考えるなら短期間で終わらせた方がいいですし。そうなるとかなり魔法を用いたやり方になってしまいます。

 それに工事中は仕事があるかもしれませんが終わってしまうとそれまでです。次に活かせる技術であればいいんですが、みながみなそうというわけにも行きませんし。

 それならもう売れそうなものを開発して交易した方が手っ取り早いかなと。現状このレリレウスは農業で成り立っていますが、それ以外にも手札があればいいかなぁと。

 王家だけでなく、手を挙げた領地に任せて代わりに王都に支店を出させて復興に協力してもらうのもいいかもしれませんし、商人を抱きこんで出資させるのもありではないかと。ほら、ミルネストやラーマルナから巻き上げるにしても時間かかりるみたいでしたから、そうなると王家も財政はそこまで余裕はないでしょう?」


 確認した書類の事を上げれば、しばらく無言でいたシャルは額を抑えて苦笑した。

 

「それでこれらを出したのか」

「はい。これが売れるのかどうかもわかりませんが、一応反応見てみようかなぁと。

 何が使えそうかわからなかったのでとりあえず片っ端から出してみましたがどうですかね? 既にあるものでも多少特色を変えれば物珍しかったりすると思うんですが」


 という事で商品開発のネタになりそうなサンプル品、というわけだ。

 辺境伯領で下着やら化粧やらドレスやらネセリス様が主導でやられているそうだが、それをあちこちで出来ればいいなと。で、出来れば王都の職人や職を失った人をそれで雇えないかと。お金を生み出す循環を作れば副次的に仕事も増えるだろうし、上下水道という公共事業一本より継続して経済を回せる可能性がある。と、踏んでいる。簡単ではないとは思うけど。


「………すまない。何に使うのかもわからないものがある」


 眺めていたシャルが申し訳なさそうに言ったが、そりゃそうだ。

 とりあえず説明からだなと、ざっくり説明していく。


「この辺は食器類です。かなり装飾に偏ったものから、薄くて軽くて丈夫な実用品まで種類はいろいろですね」


 陶器に磁器、硝子と並ぶそれらは装飾重視のものから真っ白の実用一辺倒のものまである。


 シャルはそのうちの一つ、切子グラスを手に取って眺めた。


「これは……ガラスだろう? どうやってこんな模様を出しているんだ?」

「内側から目印に入れた線に沿って回転する刃を当ててるんです。削っていると言ったらいいですかね。角度が難しくて職人技になると思うんですけど、こういうのってこちらで見た事が無いので物珍しいかなと」

「そうだな……色付けはあるが……直線的な飾りは私も見た事は無い」

「あと、こっちは見た目はシンプルですけど持ってみるとわかりますよ」


 はいどうぞと白い磁器の皿を差し出すと、シャルは一旦グラスを置いてから受け取った。


「軽い」

「で、そこそこ丈夫です」


 指で軽く弾いてやると金属のような高いカンとした音が鳴った。


「ただ強い衝撃を受けると割れますし、割れたところは鋭利になって危険なのでそこは注意ですね」


 こっちは磁器ではなく陶器で食器は作られていて重いのだ。釉薬はあり、パッとした見た目がとても近い物もあるが持てば違いは一目瞭然。銀食器というのもあるが、あれは日常使いには使われていない。


「あとはこっちは釉薬の色合いが綺麗なものです」


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