第127話 裏側の攻防①
黒い玉子の形をしたそれを持ち、ドミニクの居る棟へと向かう。
ドミニクの指摘により、おそらくリーンと夜を共にすればとんでもない事になる可能性があると気が付いた日から、虚空に向かって何度もフィジーに呼びかけどうにか夢で接触しこれを貰った。
――まーた俺弱体化しちゃうよ~
そう言ったフィジーの言葉通りなら、この中に一時的にこちらに現れる瞬間の精霊を確保出来ている筈……確かに昨夜光が現れる事は無かったが……
教会側は最初、リーンを教会で保護する意見とそのまま私の下へ置く意見で分かれた。
それはフィジーが私に、もし嫌になれば手放してほしいと言ったあの言葉が原因だ。おそらくフィジーは精霊を呼ばなければという義務感に囚われる必要はないと言いたかったのだろうと思う。だが、教会の一部は厄介事が多い王家に囲われるぐらいなら教会内で安全に、安全な相手と結ばせた方がいいのではないかと言い出したのだ。
ジェンス男爵はリーンが子作りを受け入れている事、そして婚姻の証からその意志が私の元にあると言ってくれ、それを歪める事は心を歪める事になると反対してくれたのだが……実際に精霊が生まれるところを見なければ納得できないという者がどうしても一定数残った。かといって、今王宮に入れている神官達を交代させて順番に見せるというのも効率が悪いし、彼らの前で必ず見られるというものでもない。……私室なら割と頻繁なのだが、さすがにそこに入れる事は出来ないしな……
それにいくら神官とはいえ王宮の奥の人の出入りを増やすのはあまり好ましくない。
そこに今回この黒い玉子を貰い、どうせなら利用しようとドミニクが提案してきた。見たいというのなら、見せてやればいいと。
正直……リーンの心を覗くような行為でもあって拒否感はあるが、ここで抑え込まなければ都度口を出してくるのが目に見えている。これ以上邪魔されたくない思いもあって承諾した。
部屋につけば待っていたらしいドミニクはすぐに扉を開いて中に招くと閉めて鍵をかけた。
ドミニクの部屋である団長室には今再編された王立騎士団の団員に関する書類が山とあるが、全て整理されて綴じられ鍵付きの棚に仕舞われている。わずか一ヶ月で全ての団員について調べ上げ不穏分子をチェックしあえて泳がせている
普段の言動が軽いため軽んじられやすい傾向にあるが、あれも含めて狙ってやっているとまだ二十にもなっていない若者にノクサーが畏怖していた。おそらく、あと数か月もすれば泳がしていた不穏分子の後ろ含めて何らかの報告がなされるのではないでしょうかと言っていたが、実際そうなるかもしれない。ドミニクの能力の高さは姉上を見つけ出した事からも言える。他にも、何故そんな事を知っているのだという事まで知っているので、情報収集能力は極めて高い。加えて、そうは見えないが事務能力も高いのだ。王立騎士団にかかる維持費の書類を一日で目を通して前王立騎士団で横行していた賄賂の流れを把握し「はい証拠」と翌日に出してきたのには驚いた。継続して団員となった者への処罰方法も記載されており、ドミニクが彼らに個別に話すと結果的にほぼ全ての団員が納得して罰を受け入れ下級騎士となるか治安維持部隊に移動するか決まった。罰を受けるとなるともっと抵抗や反発があるものだが、何故か一様にドミニクに頭を下げているのだから意味がわからない。何を言ったのか聞いても「別に? 普通の事を言っただけだぞ」と変わらぬ様子で謎だ。
また、爵位持ちの者達には年齢と家格、言動のせいで侮られているドミニクだが、その容姿と親しみやすい人柄、そして何より団長を決める戦いで見せた圧倒的な強さに下働きをしている者や王都の民には絶大な人気を誇っている。
その魂がこの国を建てた始祖レウス王だというのは、私しか知らないが……どこかしらその能力は引き継がれているのかもしれない。ひょっとすると私などよりも王の素質があるのかもしれないが……言ったところで面倒そうな顔をするのが容易に目に浮かぶ。
「じゃいくぞ」
部屋に控えていた騎士に扮した神官に視線で合図を送ったドミニクは軽く言った。
「補助は?」
「近場だし俺とお前だけだから平気」
言うなり視界が歪み、一瞬後には王都の教会の一室に居た。
「こっちだ」
勝手知ったる様子で部屋を出ていくドミニクの後を追い、人通りのない廊下を歩いていくと階段をいくつも降りて地下へと入った。
「ここは神官達が集会を開くときに使うとこで、他の人間が出入りできないところだからおあつらえ向きだろ。招集はかけてるから覚悟がある奴……か、馬鹿な奴は来てるだろ」
「覚悟?」
地上の木造建築とは違い、石造りの重苦しい造りの地下は暗く先を歩くドミニクが使う照明魔法だけが足元を照らす。
「そーだよ。報告はあげてるんだ。少し考えればどうなるかぐらい想像がつくだろ。絶対やばい」
やばい?
何がやばいのかいまいちわからないが、そういえばと思い出す。
「ドロシーに求婚したらしいが」
「あぁしたぞ」
軽く答えるドミニクには照れも何もない。何かの思惑があってだろうかと疑問に思えば、こちらをちらっと振り返ったドミニクは小さく笑った。
「あいつの可愛いとこは俺だけが知ってればいいの」
………。それは、まぁ別に構わないが。
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