第126話 聖女の下に送られた遺産
えー……昨夜はいろいろありました。
腰が痛い。足は主に内側が筋肉痛。声は掠れている。あっちは違和感がある(違和感程度でよく済んでるなと自分でも思う)。そして全身がだるい。
現在私は自分の部屋ではなくシャルの部屋で寝ている。私の方は今頃綺麗にされているだろう。詳細は省く。私がこちらのベッドに移動するまでの詳細も省く。あぁー……友人が周りに居てくれるのは心強い反面死ぬほど恥ずかしい。
ちなみにぐったりしている私に反してシャルはピンピンしていた。
寝起きのところにやりすぎたと頭を下げられたが、あんまりにも元気そうだったのでその理不尽さに思わず怒ってしまった。
シャルは最初こそ申し訳なさそうに謝ってはいたが、怒れば怒るほど謝りながらも笑み崩れかけ、ぽわぽわした雰囲気になっていくのでそこまで悪いと思っていないんじゃないかという疑惑が。
とはいえ……怒っているのは照れ隠しだと自分でもわかっている。正直、楽し気なシャルを見ていると良かったと思ってしまうのだから重症だ。
自覚するとコロコロとそちらに気持ちが転がりまくってしまうのだからなんともちょろい。前世、別れたひっついたと忙しない友人の思考がよくわからなかったが、ひょっとするとこんな感じなのか…?
それはいいとして、蓋をするとして、今日はいろいろと予定はあったのだが、それらはとりあえずお昼まで全て空けられていた。
本当は加護を使えば動けると思うのだが、それは兄からの伝言で止められたのだ。身体の回復力が衰えるかもしれないからいざという時だけにしろと。筒抜けなのが死ぬほど恥ずかしかった。
何でシャルは平然として言えるのか。普通義兄にそんな事言われたら気まずいのではないのか……?スケジュールが詰まっているらしく早々に着替えて行ってしまったが、もうその時点でいつも通りの真面目な顔をしていたのには、さすが王族と面の皮の厚さと切り替えの早さに舌を巻いてしまった。見習わなければ……
はぁと溜息をついて、まわりでずっとちらついている精霊に視線を移す。
なんか、今日はずっとこんな感じなのだ。精霊にすら揶揄われているのか、大盤振る舞いの状態で気づけばちらちらぴかぴか……まぁ物凄い発光とかはないから、イルミネーション的な気分で眺めている。
……眠くなってきた。あんまり寝てないしな……
うとうととしているうちに眠ってしまい、気が付けばお昼を少し過ぎていた。
控えてくれているドロシーさんに謝れば、ラシェル様が早い段階で午後の予定も空けてくださったらしい。あぁ申し訳ない……
なんとか座れる程には腰が回復して、生まれたての小鹿のような足でプルプルしながらテーブルに移動しようとすると止められた。
いやでもこれ、ただの筋肉痛だからと押し切ってテーブルについて用意してもらった食事を食べる。食べねばな。回復しないから。風邪の神は膳の下じゃないけど、何事も補給は大事だ。
もきゅもきゅとサラダを頬張り、あっさり目の野菜スープをいただいて、これまたあっさりめの白身魚のアクアパッツァをもぐもぐ。白いふわふわパンももぐもぐ。
そういえば監禁されてた時は重ための食事が多かったが、今は魚介系が多くて辺境伯領で食べていたものに近い。あちらからの物が上手い具合に流れてるのかな?そうだと嬉しい。重たいのもいいが、個人的にはあっさり系が好きなので。
食事を終えた後は筋肉痛になっている部分を軽くマッサージする。強くやると余計に酷くなるので、血流を促す様に。
ベッドの上でそうやっていると、午後まで寝ていたこともあって身体のだるさはだんだんと取れてきた。筋肉痛に関しては、訓練を入れてからお馴染みの痛みなのでそこまで苦ではない。慣れない場所がなっているので動きはぎこちなくなるが……
それも終わると本格的に暇になるので、部屋で出来るものやる。
基本的にはお勉強なのだが、用意された資料の中に何やら毛色の違うものが……
手に取って中をぱらぱらと捲ると、計画書を本に見えるように加工したようで……読み進めていくうちに、先王陛下が考えておられた上下水道の計画書であることがわかった。本物かどうかわからないが、直筆と思われるサインがあったのだ。
「あのドロシー、この本はどこから?」
他の行儀や礼法、式典の細かな内容についての、いわゆる王妃に必要となる資料ではないコレはあきらかに紛れ込んだものと思われた。
「そちらはアルニム子爵がリーンスノー様のお好きな読み物だからと送られてきたものです。細工など不審な点は見られなかったそうなので、お疲れでしょうから気分転換にとこちらに運びましたが……何かございましたか?」
「いえ、そうではないのですが……」
アルニム子爵といったら、あれだ。私がハゲの女神にされるきっかけとなった元同僚。確かに彼には私がヒルタイトの上下水道に興味を持っている事は話した事があるが……しかし、なんでこんなものを持っているのだろう?
疑問には思ったが、とりあえず最後まで目を通してみるとかなり先を見通した上で水道を引く事が考えられており、しかも飲水として可能かどうかの判断を行うのに加護を使わない方法を模索していた。貴族にありがちな、なんでも魔法や加護で済まそうとする思想がそこには無く、かといって全て除外するというわけでもなく人手で出来るところでも効率的な手法を優先的に使用する柔軟性もあった。要は魔法や加護と人の手とどちらでも出来る二本立てで計画されていたのだ。また、施工してからのメンテナンスなど長期的に維持するための設計思想も入っている。
これはちょっと辺境伯領に居るグライバルさん達技術者に連絡した方がいいかもしれないな……
現在王都では地方のトイレという習慣を取り入れている最中(聖女の威光を使いたいのか、私の名前で進められている)で、おそらく上下水道をいきなり導入出来る程の下地が無い。
だが辺境伯領ではその下地が既にある。なので規模から考えてみても先にあちらで建造したものをこちらにも建造する事になると思うのだ。
だから彼らに先にこれを伝えた方がいい。
「ドロシー、もしアルニム子爵に連絡が取れるようなら、どうしてこれを持っていたのか確認してもらえないですか?」
気になるのはやはり元同僚がこれを持っていた事だ。
彼は内務省にはいるが、こんな大がかりな計画に携わるような仕事は回されていなかったし、それにこの計画書が作られた時期は当然内務省にも居なかった筈だ。いったいどこから入手したのか……
ドロシーさんは承知致しましたと頭を下げ、今日ついてくれているもう一人の侍女(友人のネラー、私と同じ男爵家の御令嬢だ)に視線を送ってから下がった。
とりあえずシャルが戻ってきたら話そう。
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