第119話 聖女は顔合わせをする①

 あれから精霊をよく見るようになった。

 その出現頻度は結構高く、お前伝説上のものじゃなかったのかよと突っ込みたいぐらいにピカピカチカチカ出てくる。


 光って出てくるたびに一体どういう存在なんだろうかとしげしげ見ていたらドロシーさんやレティーナに妙に優しい、子供を見るような目で見られた………たまたま来た兄にも温い感じの目で見られたし……

 いやあの、不思議に思いません?

 このレリレウス王国って一応精霊に認められた人が国を起こした事になっている。という事はこの光と意思疎通を交わしたのだと思うのだ。試しに精霊っぽい姿を思い浮かべるとやっぱりそのイメージを取り込んでいるのか、光の中からその通りのもぐらっぽいのやコウモリっぽいのが出てきたりする。でもだからといって会話が出来る様子も、何かアクションを起こしてくる様子もない。どうやってこれに認められたのか……

 シャルはといえばその精霊に認められた末裔だというのに、全く精霊に対して興味が無さそうというか、むしろこちらを見て何か言いたそうなもにょもにょした顔をしたり、顔を逸らしたり、咳き込んだり……挙動不審だ。


 まぁ別段問題があるような気配も感じないので敢えて何なのか聞いてはいない。話す気があるなら最初から話しているだろうし。


 それよりもちょっと問題なのは私の身体の方だ。自律神経が崩れているのか甲状腺が機能不全おこしているのか、頻繁に不整脈が出そうなぐらいに脈が跳ね上がる事がある。あと、ほてりとか発汗とか、胸が締め付けられるような事もあって……幸い痛みはないのだが、嫌な疾患名まで頭にチラついて……

 おじいちゃん先生も兄も、笑って問題ないと言うので大丈夫だと思いたいが……さすがに何度も起きて不安だったのでシャルにもおかしなところはないかと聞いてみた。シャルは視線を彷徨わせながら特に問題はないと言うが……そんな視線を彷徨わせて言われても信憑性が……


 本当は何かあって、だけど心配させないようにおじいちゃん先生も兄も黙っているのではないかと思えてくる。


 とはいえ、本当にまずい事なら兄はきちんと話してくれると思うので、そこまで気にする事ではないのかもしれないが……


 ハッキリとしない自分の状態にもやもやしたものは感じていたが身体は順調に回復していった。

 侍女としてついてくれているドロシーさんと、辺境伯領から駆けつけてくれたアデリーナさん(ネセリス様からの開発されたブラ等下着含めた衣服類その他支援物資付)と、なんと学園の時の友人が侍女に志願してなってくれて支えてくれたのだ。と言うのも、元々王宮に居た侍女たちはその身元などを再度見直ししているところで絶賛人手不足中。

 あの騒ぎの時に会場にいた友人も居て、彼女はティルナから私が居れば知らせて欲しいと言われて事件にかち合い、必死でティルナに『伝えて』くれていたらしいのだ。まさかそんなルートからシャルに知らせがいったとは思わずびっくりした。

 ちなみに私が足を切られた瞬間もバッチリ見られていて、再会した時は顔を凝視された後(半刻程説明に要した)、足元を凝視されて問題なくくっついている事を確認されてから盛大に泣かれた。いやはやスプラッターなところを見せてしまって申し訳ない。


 そうして歩けるようになってようやく部屋を出れるようになってから、なんでか物凄く崇められるようになった。

 聖女としてではなく、女神の再来と言われて。


 何だ女神の再来って……


 さすがにハゲの女神で懲りているので、何でそんな事になっているのかすぐに確認すれば、精霊が原因だった。

 ちょくちょく光るあれが精霊だという認識が広まり、どうも私の周りで精霊が確認される事が多いため、私が精霊を生みだしていると噂されているというのだ。


 まじか。と焦った。

 ハゲの女神は曲がりなりにもちゃんと髪を生やしていたから、一応事実だった。

 だがこれは完全に勘違いだ。後で違うじゃねーかこのやろーと言われるのも嫌なので、訂正してくれとドロシーさんやレティーナ、シャルにお願いしたのだが、今は吉兆が国民を安心させるのでそのままでと言われた。いやいや困ると反論したのだが、どうせ精霊を生み出しているのかどうかなんてわかりっこないのだから利用してしまえばいいとレティーナに言い切られ、押し切られてしまった……。レティーナ、強し。さすが辺境伯様のとこにいただけはある。じゃなくて、騙しているようでものすごく気が引ける。

 

 参ったなぁと居心地の悪さを覚えつつも日常生活がぼちぼち送れるようになってからは、ゆっくりと現政権の首脳陣とも言える方々と顔合わせが始まった。


 まずは陛下へとシャルと共に挨拶に伺ったのだが、そこには側妃とされていたアイリアル侯爵家のラシェル様も同席されており驚いた。

 お二人ともロココな装いではなく辺境伯領で見た洋装に近い服装で互いの色を纏っておられ大変仲睦まじいご様子だ。


 以前兄に聞いた心を病んだというのは実は嘘で、王宮に居ると危険だと陛下が判断されてアイリアル侯爵家で保護する形を取っていたそうなのだ。

 橙色の温かみのある目をした楚々とした貴婦人のラシェル様は私の手を取って「陛下をお救いくださりありがとうございます」と額に当て、ゆっくりと腰を落とし最大級の謝意を表す礼を取られた。

 慌ててこちらも腰を落とそうとすると、私の顔に驚いていたらしい陛下が(未だに私自身もガラスに映る顔にびびる)我に返ったようにそのままでと止めてきて感謝すると頭を下げられてしまった。

 思わずシャルに助けてくれと視線を送れば、シャルは苦笑して兄上も義姉上もこれ以上はリーンが恐縮してしまうのでお止めくださいと止めてくれて、なんとか椅子に座る事が出来てほっとした。

 ラシェル様がこちらに戻ってきたのは安全だと判断された事もあるが、私の教育係として、また辺境伯家に次ぐ後見人としての役目を果たすために来てくださったらしい。その話を聞いて、あぁそういえば私王妃とんでもないものになるんだったわと気が遠くなった。

 ぐだぐだ言う気はないが今まで避けてきた苦手な項目が羅列していそうで……

 ただラシェル様が協力的なのはありがたい。高位貴族との繋がりなんて私個人にはないので、後ろ盾となってくださるラシェル様の人脈をある程度引き継げるのが大きい。実際は引き継げるかどうかは私に掛かっているのだが、そこはまぁ頑張ろう。うん。うん……怖いなぁ……

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