第118話 聖女は目が覚める⑦
徐々に動かせるようになってきた手を持ち上げて指さそうとしたら、その手を握られ反対の手でシャルの方を見るように頬を押さえられた。
「リーン?」
ど、どうでもいいから言えと?
何故か心拍数が元気よく階段を二段飛ばしで飛び上がるように跳ね上がり、身体ものぼせたように体温が急上昇した。
「い、異論はないのです、が」
こ、これやっぱり甲状腺の機能に問題出てるんじゃないですかね……?!
なんかすごい手汗が出てるような気もするし、心臓がどんどこ煩いぐらいで不整脈が出そうな気が……! ものすごくこの感覚に覚えがありますよ! 四十代後半から悩まされた奴に!
「が?」
目力すごいシャルに迫られて、はっと我に返りその目に押されて反射的に頷く。
「い、いえ、ないです」
「良かった」
ほわっと、シャルが笑った。
大抵真面目な顔で、笑う時も苦笑が多いのに――嬉しそうなその顔に何故か胸が締め付けられるように熱くなる。
カッ
「うわ!」
「っ!」
いきなり閃光が弾けたような光が溢れて目に突き刺さった。
すぐに目を閉じたがちょっと痛い。なんなら目を閉じてもまだ眩しい。と思ったら暖かいものに包まれて光が和らいだ。たぶんシャルが光から庇ってくれているのだと思うけど、まってくれ。何かの攻撃だとしたらむしろシャルを守らねばならない。
そう思うのだがこんな時なのに私の身体はおかしくなっているのか血が昇ってきて、なんかうまく考えられなくて、息も浅くなるし、なんでか涙まで出てくるし、
「っ――リーン、落ち着け。大丈夫だから、深呼吸しろ」
し、深呼吸?そうだ、深呼吸。自律神経を整えて……なんか深呼吸したら思い切りシャルの匂いを嗅いでしまった――私変態じゃないか?いやそんな場合ではない。でもちょっと甘い石鹸みたいないい匂いだな――何考えてるんだ私は。変態か?変態だな!でもどうしたら?鼻で吸えない。じゃあ口?変態度上がってないか??なんで口と鼻でしか息が出来ないんだ!
「おお~これはまた派手に出てきたな」
いきなり聞こえてきた声は、兄だ。
すん。と妙に冷静になった。
「あ、納まった。ほれほれリシャール、お前がひっついてるから余計に派手になったんだろ」
シャルが離れるのを感じ、ゆっくりと目を開けると部屋の中には淡い色とりどりの光で溢れていた。
「な…なにこれ」
魔法か?加護か?と警戒していると、兄はあっさりと言った。
「これ? 精霊」
………精霊?!これが?!
「おいドミニク」
「いいのいいの」
「いいのってお前」
「下手に隠す方が露見するって」
二人でわちゃわちゃ何か言ってるが……何か……思っていたのと違った……
甥っ子姪っ子がやっていたゲームに出て来そうな羽の生えた小さな女の子だったり、魚や鳥や動物の形をしている、こう水っぽかったり火っぽかったり、そんな透き通ったものを勝手にイメージしていたが――と、思ったら光の中からイメージしたようなものが飛び出してきた。
「あ。これは――何か取り込んだか」
「取り込んだ?」
私の疑問をシャルが口にした。
「お前が言ったんだろ、フィジーも真似たとか。精神体だっていうならこっちの何かを取り込んで形を作るんじゃないのか?」
「あぁそういえば……じゃあこれは」
二人が話している内容は半分わからないが、半分で十分想像出来た。
何故かはわからないが、どうもこの精霊というものは私のイメージを取り込んだらしい。
酷く可愛らしい熱帯魚みたいな感じの鰭をヒラヒラさせてる水っぽい精霊とか、トカゲの形で尻尾がちろちろと燃えている火っぽい精霊とか、蝶々の羽を生やした小さな女の子っぽいなにかとか……非常に、メルヘンです。
これ、私がイメージしましたと自己申告するのが何やら恥ずかしいのだが……すべき?黙っててもよいでしょうか?
精霊とやらはこちらにすーっと寄ってきて、実際に触れる事は無いのだが戯れるように舞った後ふっと消えていった。
「………」
「消えたな」
「どこに行ったんだ?」
「姿を消しただけでその辺を漂ってるだろ」
ちょっと冷静になって気づいたのだが、精霊ってあんなに大量に現れるものなのか?
そもそも精霊なんてものを見たって人を聞かないのだが……正直眉唾ものだと思ってたぐらいで……
にしても……
「なんで精霊なんてものが……」
思わず呟けば、兄はあっさりと言った。
「面白そうなもんでもあったんだろ」
なんだそりゃ。
と、思ったがそれよりもあれを一発で精霊と断定する方が気になった。
「兄さんって精霊を見た事があったの?」
「無いぞ」
無いのかい。じゃあ『視る』で何か視えたのか……
「あ、疑ってるんだろ」
「疑ってはないけど、精霊を見たっていう人を聞いた事がなかったから…」
あぁまぁいないだろうなと兄はいい、それよりもと話を切った。
「リシャールはあれ、言質取ったのか?」
「あぁ」
「よし。これで一旦抑えられるだろ」
「助かる」
兄はシャルに肩を竦めて見せて、こちらに近づくとポンポンと頭を撫でてきた。
「ちゃんと休めよ」
そりゃまぁ動けないから休むしかないが……
じゃあな~と手をひらひらとして出て行く兄の背を見送り、ふとまたシャルと二人になった事に気づいた。
心拍数が上がった。
……まさか心不全とかないよな?
この年でそれとか本当に嫌なんだが……
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