第115話 聖女は目が覚める④
「ド、ドロシーさん!?」
「ドロシーとお呼びくださいと申し上げた筈です。ご心配には及びません、きちんとリーンスノー様に教わった重力魔法で軽くしておりますから」
え。
「……ドロシー、もしかして自分以外に重力魔法を掛けられるんですか?」
「はい」
すごっ!
「ど、どうやったんです? 自分には出来ますけど、他人にはうまく出来なかったんですよ」
すげー!と抱えられたまま(ほぼ動けない)その横顔を見上げていると、ドロシーさんは少し頬を染めてこちらを見ずスタスタと歩き出した。
「な、何も特別な事はしておりません。ただ自分に掛ける場合と人に掛ける場合とでは魔力を相手に合わせる必要がありますので、それが少々難しいのかもしれません」
「なるほど……それはやった事がなかったです。そこが影響しているとは……ははぁ……よく気づかれましたね」
「ティルナ様の加護を受ける練習をしている時に気づいたのです。人それぞれ纏っている魔力がございますからそれに影響され自身の場合と誤差が生じるようです。さ、こちらがレストルームです」
染めた頬を元に戻し何でもない事のようにドロシーさんは言って、連れて来てくれたのは簡単な水回りまでついているトイレだった。こんなもの働いている時にも監禁されていた時にも見た事が無かったから驚いた。
ひとまず生理現象の方が優先なので、恥を忍んで手伝ってもらいながら再びドロシーさんにベッドに連れていってもらう。
「いつの間にあのようなものが出来たのですか?」
「レティーナ様がリーンスノー様をこちらに移すと決定してからすぐに動かれたのです」
レティーナ…………あなたは女神か!!
レティーナ教があったら入信します!すぐにでも!
心で涙を流していると、件のレティーナがなんとやってきてくれた。
「レティーナ! ありがとうございます!」
入ってくるなり感激を口にする私に、レティーナは一瞬目を丸くしたがすぐに笑って悪戯がバレたようにちろりと舌を出した。
「気に入ると思ってちょっとだけ辺境伯様を脅して急かしてしまいました」
照れたように冗談を言って笑う姿はまさしく小悪魔でとても可愛い。レティーナっておっとり美人さんだけど、そういうのも似合うなぁ。
ふふっと笑うレティーナは椅子に座りこちらの具合を尋ねる。
「先ほどドミニク様から目が覚められたと伺い様子をと思って来させてもらったのですが、どうですか?」
「大丈夫。寝すぎて身体が軋んでるけど、動かしていけば戻る……と思う。けど、もしかして兄さんと顔見知りだった?」
兄は私が寝ている間にいろいろな人と顔合わせしたのかな、とも思ったがレティーナの言い方が少し柔らかいような気がして、知人枠に兄が入っているような気がした。
「実は学園に入っていた頃お会いした事があるんです」
「え、そうだったの?」
「ええ。リーンの事が心配で様子を見に来ておられましたよ」
なんだそれ。全く知らないのですが。
「私を心配って……むしろ放蕩してる兄さんの心配をこちらはしてたんだけども……」
への字になった私の顔に気づいてか、レティーナは口元に手を当ててふふふと笑った。
「似たもの兄妹、というところかしら」
「うーん……無茶苦茶度は兄さんの方が確実に上だと思うから同列に扱われるのは承服しかねるんだけど」
「でも本当ですよ? 私、あの頃はまだ上手く加護の調整が出来なくて、間違えてドミニク様を『読ん』でしまったんです。本当に心配されていました」
「ちょ、レティーナ」
普通に話すレティーナに、私はとっさに部屋の端に下がっているドロシーさんに視線を向けた。
「大丈夫です。彼女には私の加護の事は話していますから」
「あ……そうなんだ」
なら良かった。さすがにレティーナの加護の使い方は特殊だからなぁ……というかドロシーさん、レティーナにそこまで信用してもらったのか……もともと頑張り屋さんだからなぁ……良かった。
ほっとしたところで、今度はレティーナの方が心配になった。
「それ兄さんにバレたりしてない? 大丈夫? 兄さん変なところで勘が鋭いから」
「それも大丈夫です。きちんとお話させてもらいましたから。ご納得もいただけています」
バレたんだな。あの兄、時々獣かってぐらい勘が働くから……
「まぁ穏便に済んでるなら良かった」
人の考えている事を読む力はやっぱり恐れられやすいし、利用されやすいものだからなぁ。兄ならば別に何かに利用しようとは思わないだろうが、それでも吹聴するような真似をしていないのなら良かった。
「そういえばレティーナ、所属変えたの?」
椅子に座っているレティーナの服装は、辺境伯領での緑の色を基調とした騎士服から青を基調とした騎士服へと変わっている。しかも王立騎士団とはちょっとデザインが違うような気も……あまり詳しくないから女性服だとこうなのかもしれないが。
「ええ。辺境伯領の騎士団は解体されて希望者は王立騎士団へ、残る者は辺境伯軍へとわかれたんですよ」
なるほど。今の辺境伯領に私設軍があったとしても王家は文句はないもんな。
じゃあ向こうに騎士団を王立騎士団に入れてしまえば質も上がるし人員確保できるし一石二鳥という事でそうしたのかな?
「私やティルナは新設された女性王族の護衛につく王立騎士団第六部隊に所属しています」
「女性王族……」
そういえばあの王妃と王子はどうなったんだ?と、今更に思い出した。
「リーン。忘れているようですけど、あなたが女性王族ですからね?」
………そういえば。一応私もそうなるのか。
目を丸くしている私に、しょうがないと言わんばかりの苦笑を浮かべるレティーナ。
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