第114話 聖女は目が覚める③
そんなところにあの騒ぎ、加えて火まで放たれて大混乱。
王都の精霊教会の人と、平民出身で構成された城下を持ち場とする治安維持部隊でなんとか民を逃がそうと回っていたところに辺境伯様の軍が加わったそうだ。
私が加護と水魔法を混ぜて蒔いていた熱反応式
兄の方にはすぐにバレたようであんな状況で無茶苦茶なもん作るな、自分の事を考えろ馬鹿とお小言を貰ってしまった。まぁいいじゃないか結果オーライで。
今は派閥の長である宰相が亡くなったため、辺境伯様とアイリアル侯爵が陛下の補佐についている状態だそうだ。
シャルも辺境伯領の騎士団長という役からは降りて一緒に陛下の補佐をする形を取っているらしい。但し、シャルに譲位するという話が出てないので、おそらくこの混乱を納めるためにそのまま続投されているのだろうなと話を聞きながら思う。
手を出してきたラーマルナはどうなったのかと訊けば、兄は一瞬言葉に詰まり歯切れが悪くなった。
曰く、ラーマルナは一部の貴族が暴走した結果という事で公国の総意ではないと弁明したらしい。あれだけの兵を動かしておいてそんな馬鹿なと思ったが、そういう事、としたかったらしい。莫大な金銭と資源をレリレウス側へと差し出す事で折り合いをつけたと。実質的に長く続いていたラーマルナとの戦争の勝敗が決したとも言える。
あの襲ってきた男(公子だった)はラーマルナ側からすると重要人物だったので返品されたそうだが、あちらに戻ると何故か魔法が使えなくなっており廃嫡されどこかに幽閉されたとかなんとか……レンジェルあたりがなにかやったのか……?魔法を使えなくするって聞いた事もないが、レンジェルならやれそうな気が……
「……悪かったな」
不意に謝られ、びっくりして兄を見る。
「なに、急に。兄さんが謝るとか天変地異?」
「お前な……さすがに肝が冷えたんだよ今回は。俺が最初に制圧していればと……」
気まずそうに視線を外しながらもごもご言う兄。とても珍しいが、言ってる事自体は自信家以外の何者でもない。
「いや無理でしょ。さすがに兄さんでもあの数は無理でしょ」
「ああ? お前あれしきの数を制圧出来ないとでも思ってんのか?」
冷静に考えてくれよと否定すれば、今度はガン垂れてくるとか近所の悪ガキ感が消えない兄。いつも通りでなによりです。殊勝に謝られるとか怖いわ。
「むしろ何故出来ると? どう考えても無謀でしょ。それに追加戦力があったらどうするの」
「んなもん、お前もいれば反撃可能だろうが」
「ええ?」
「防御はお前、攻撃は俺。完璧だろ」
「ええ……」
完璧か?どう考えても無謀度は変わらないと思うんだが……数の暴力って言葉を知らないのかね……いいのかこんな奴が王立騎士団の団長で。
「あ、そうだ。サリーさんは?」
「サリィ?」
「囮になってくれた人。酷い事になってない? 無事っぽかったような記憶もちょっとだけあるけど……」
「あぁ平気平気。あいつヒルタイトの暗殺部隊出身だぞ? 加護の使い方は怪しいが他はまぁ俺程ではないが、そこそこ強いからな。ラーマルナの兵なんか相手じゃねーよ」
「あ…あんさつ…」
まさかの単語が飛び出して言葉が続かない。
「三年前に抜けてこっちに来たからもう向こうと繋がりはないけどな」
「なんでまたそんな人と知り合いなの……」
「たまたま?」
偶々……で、会うだろうか?
放浪していた間どこで何をやっていたのか……本当に何をやっているのだろうこの兄は。
「すぐに復帰して仕事に戻ってるだろ」
「しごと……」
暗殺の文字がちらつくが、繋がりはないと言うのでそう言う方面ではないだろうと思っておこう。
コンコンコン
ノックの音に視線を上げると、ドロシーさんがものすごく微妙そうな顔をしながら入ってきた。
「お食事中失礼いたします。
リーンスノー様、廊下で殿下が彷徨っておられまして……入室いただいても宜しいでしょうか」
彷徨って……って、なにしてるんだ……
「……はい。大丈夫です」
とりあえず周囲の人に奇行を見られるのは不味かろうと頷けば、落ち着かない様子のシャルが入ってきて、兄に気づくと「あっ」と言って駆け寄ってきた。
「ドミニク、ちょっと来てくれ!」
「うわっおま、いきなり引っ張るな! ちょっ、悪いドロシーこれ持って」
スープの器を持っていた兄はドロシーさんにそれを押し付け、部屋の隅へと引っ張られていった。
あれ?兄ってドロシーさんと知り合い……なわけないよな。寝てる間に顔を合わせたのかな?
「さっきリーンの周りで小さな焔のようにゆらめいて!」
「声を落とせリシャール」
「あ…す、すまない」
隅で話始めたシャルと兄の距離感が妙に近い。あの基本的には気分次第のてきとーな兄と真面目一辺倒なシャルの組み合わせに物凄い違和感が……本当に呼び捨てで呼び合ってるし……いいのかそれ。さすがに他の人がいるところではやってないと信じたい……不敬にも程がある。
「まぁ驚く気持ちも――だがな――――で、間違いない――――」
「やはり――か」
真剣な顔をして考えているシャルの肩を、兄がニヤニヤしながらポンと叩いた。
「―――――」
兄がなにか囁いた瞬間、ハッとしたようにシャルがこちらを見た。かと思ったらさっと逸らされた。
……え、なに。それはどういう反応なんだ。というか、何を言ったんだ兄よ。
声をかけようとしたところでシャルは兄を掴んで一緒に出ていってしまった。
……なんだったんだ……?
なんとなくすごく仲が良さそうなのだけはわかったが……
「リーンスノー様、お気になさらず。さ、食べられそうでしたらこちらを」
兄に代わってドロシーさんが食べさせてくれたが、気にするなって無理だと思いますよ。
とか思いつつ素直に口を開く。食べねば回復しないからな。
そうして食べられそうなところまで食べたら今度はトイレに行きたくなった。絶望した。だってここ王宮。
どないしようと視線を彷徨わせているとドロシーさんが気づいたのか、いかがされました?と尋ねられてしまった……
仕方がなくぼそぼそと伝えれば、あぁと納得した顔をしてレティーナ様のお話の通りですねと微笑まれた。
「大丈夫です。辺境伯家のお屋敷程ではございませんが、こちらも急いで整えておりますから」
そう言ってドロシーさんはほとんど動けない私を――抱え上げた!?
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