第113話 聖女は目が覚める②

「どうなさいました!? って殿下! 寝込みを襲うとは何事ですか!!」


 飛び込むようにして部屋に現れたのは、あ、ドロシーさんだ。

 ドロシーさんは王宮の侍女服を纏っており、鬼の形相でシャルを後ろから引っ張ってそのまま部屋の外へとぽいっとしてしまった。


 え、あの? ドロシー、さん? あなたそんなデリアさんみたいな事する人でしたっけ??


「大丈夫ですか、リーンスノー様。ご気分は? お身体の具合はいかがです?」


 シャルを追い出したドロシーさんは一転、不安そうな顔でこちらに駆け寄り私が寝やすいようにクッションを取っ払い枕を整えてくれた。


「あ、ありがとう。大丈夫、です」

「お顔が赤いですがお熱があるのでは?」


 失礼しますと言って私の額に手を置くドロシーさんに、え、まじでと思う。

  

 心拍数急上昇の上に顔が赤いとかって……それじゃまるで……更年期障害じゃないか……。ええ? 私閉経してないよな? ストレスか? ストレスでホルモンバランス崩れた? それとも甲状腺の問題??


 前世で経験した突然のほてりや発汗、心拍数の増加、意味もなく落ち込んだり怒りっぽくなったり、症状に振り回された嫌な思い出が次々に思い出されてちょっと青ざめる。


「……先生を呼んで参ります。どうぞそのままお休みなっていてください。大丈夫です。殿下は入れませんので」

「え、あ、はい」


 ドロシーさんはこちらを安心させるようにか一度微笑んでから、颯爽と部屋を後にした。


 ドロシーさん、魔法と加護の訓練をしている時も侍女と主人の壁を作って絆されてなるものかっていう様子を醸していたのだが……なんか壁はそのままに思いっきり絆されてくれているような気が……何があったんだ?


 しばらくすると先生と、何故か兄も来てくれて診てもらったのだが特に問題はないと言われた。喉のあたりの臓器が異変を起こしているかも~と聞いてみたのだが、そこも大丈夫だと兄にも太鼓判を押された。とりあえず良かった。


 ほっとしたところでドロシーさんがスープを持ってきてくれて、それを少しずつ兄に手伝ってもらいいただく。いきなり食べたら胃がびっくりするから、ゆっくりねとおじいちゃん先生に言われたのだ。

 ドロシーさんはおじいちゃん先生に気をつける事はないか隣の部屋で追加で話を聞いてくれている。頼れるお姉さん感がすごい。アウェイの王宮で顔見知りがいるだけで心強いが、それ以上だ。拝んどこう。なむなむ。


「何やってんのお前」


 もぞもぞと動かしづらい手を動かしていたら突っ込まれた。


「気にしないで、ただの感謝の表れだから。

 ところで兄さん、こんなところに居て大丈夫なの?」

「なにが?」


 ベッド横の椅子に腰かけた兄はスプーン片手に首を傾げた。


「なにがじゃなくて王宮でしょ? ここ。

 そんな我が物顔で居ていいの? 親族枠――ってのも無理だろうし」


 確かに兄とは兄妹で生家繋がりではあるけども、貴族としては私の家は辺境伯家という事になっているのでその線で居座るのは難しく、そして男爵の嫡男にしか過ぎない兄が居座れるような所ではない。


「あぁ平気。俺、王立の騎士団長になってるから」

「へぇ、そうなん―――騎士団長!!?」


 勝手気ままな兄とはどこをどうとっても似つかわしくない単語に思わず声がでかくなってしまった。


「おう。前任者がラーマルナの刺客にあっさりやられててな。っていうかそもそも王立騎士団の奴らって大抵が箔付けのための子弟ばっかで全く使えない状況だったんだよ。で、それじゃまずいって事で第一回騎士団長決定戦が行われたの」

「なにその頭悪そうな名前」

「ああ? 文句ならリシャールに言えよ」

「まじですか。シャルが考えたのか。というかリシャールって呼び捨てにしないでくれませんか。不敬だから」

「いや考えたの俺。承認したのがリシャール。本人がリシャールっつったからいいだろ別に」

「やっぱり兄さんじゃないか! そんで何で呼び捨て許可してるんだよシャルも!」

「承認した時点で同列だ。俺が義弟って認めてやったからじゃね?

 そんで時間が無いから指揮能力はもう度外視して求心力をって事で腕に自信ある奴が名乗り上げて総当たり戦をした」


 名前が名前なら中身も中身だった……筋肉こそパワーの頭悪そうな戦いだ。

 そしてなんでそんなに偉そうなんだ兄よ。


「で、俺勝った」


 なんてこったい。それでいいのかレリレウス王国。


 無茶苦茶な展開に呆然としてしまったが、今更私が文句を言ったところでどうしようもない。レリレウスの将来を危惧しながらスープをちびちび食べる。


 そして今更だが、確かに兄の着ているものは青を基調とした騎士服だ。無茶苦茶似合っているのがなんともまた複雑な気分にさせられる。それらしくビシッとしてたらこの上なくそれっぽく見える詐欺具合が酷い。顔だけはいいんだよ顔だけは。


 兄は私の微妙な視線など気にせず、せっせとスープを運びながら何が起きたのかを説明してくれた。


 まず先ほど話していた王立騎士団にも関わる事なのだが、王立騎士団と魔法省の上層部がラーマルナが紛れ込ませていた刺客によってあの日殺害されていたらしい。やはり、そういうことだったかと暗澹たる思いになった。

 王立騎士団と違い魔法省の方は手練れもいたのだが、その腕を買われて入省した人達がそれぞれ宰相によって王都外へ指令を下されていたため手薄な所を狙われたそうだ。何で宰相がそんな事をしたのかと言えば、王都から離した人々がどちらかというと辺境伯様やアイリアル侯爵家側の人間だったから念のため園遊会で邪魔をされないようにという事だと推察されたそうだ。

 加えてその日食事にも下剤やら眠り薬やらいろいろと混ぜられていたようで、大多数の下働きや下級官吏、騎士達が体調不良で使い物にならなくなっていた。よくそんな状態で園遊会なんてものを開けたなと思ったが、園遊会に直接関わるような上級の使用人には毒が蒔かれていなかったから断行したのだと。まぁいきなり中止とかには出来ないからなぁ。そんな事したら権威に傷が付くし。

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