第101話 奪還②
全ての部隊が入る大鍛錬場には、まだ集まり切っていないが第一から第三までの部隊長は揃っていた。さらに鍛錬場の端には侍女姿ではなく、男装姿のドロシーまでいた。おおよそレティーナあたりから話を聞いたのだろう。リーンが引き合わせていて交流を持っていたのは知っている。
「殿下」
駆け寄ってきたドロシーに手を上げて止める。
「言いたい事は想像出来る。だが足手まといを連れていく余裕はない」
そのまま部隊長たちの前に行くと、整列していた団員が胸に手を当て動きを止めた。
「捜索していた聖女が見つかった」
その一言にざわっと、声は無いが静かな波のようなものが広がった。
「ミルネスト侯爵によって王宮に閉じ込められていたが、先ほどラーマルナによって連れ拐われた事が判明、これより奪還に動く」
なっ!?という驚きの声とわずかに姿勢が乱れるが、前に並ぶ第二部隊長のノクサーが強く足を踏み『鳴らす』と静まった。
「第二部隊から第五部隊は副団長に従いこの地の守護を、第一部隊は王都へと出発する。第一級戦闘装備、騎乗にて半刻以内に離れの館の前へ集合せよ」
「団長」
最も過酷な継続戦闘を考慮した装備の指示を出せば、ノクサーが一歩前に出た。
「第一だけでよろしいのですか?」
「すぐに向こうに送れるのが一部隊だけなのだ。それ以上は普通に王都に向かわなければならないため間に合わない」
「それはどういう」
「ノクサー、悪いが問答の時間は無い。フィリップの補佐を頼むぞ」
団で一番頭の切れるノクサーに告げればノクサーは一瞬沈黙した後、後ろを向いた。
「イルド、フラン、ネクサス、アンドレ、トム、前へ」
呼ばれた団員がすぐに前に出た。
「『駆ける』と『繋ぐ』の加護持ちです。お使いください」
部隊全体の移動速度を上げる事がわかった加護持ちの組み合わせだ。
すぐにそれを選び出すノクサーに感謝し頷けば、ノクサーは自分の部隊に第一部隊の準備を補助するよう命じて散会させた。
それを見て、第一部隊のケルンも部下に準備を命じて散会させる。
「ケルン、団長を頼むぞ」
「あ、ああ」
ノクサーの言葉に頷くものの、若干ケルンの方は戸惑いが強い。
「あの、団長。質問して申し訳ないのですが、送るというのは?」
「言葉通りの意味だ。どのようによってかは私も把握していないが教会が送ってくれる。そこは心配するな」
「……正直、まったくわかりませんが、わかりました」
首を傾げつつも頼めばその通りに動いてくれる実直さを持つケルンは敬礼をして離れた。
「あぁそうだノクサー、ティリアとレティーナも連れていくが手が離せないため準備を代わってやってくれ」
「だと思っておりました」
「それと協力してくれる者の足も用意してやって欲しい」
「離れに来られた客人ですね。そちらも承知致しました」
ノクサーは軽く敬礼をして離れたので、難しい顔をしている第三部隊長のアイルの肩を叩き顔を上げたところに、第四と第五の部隊長を宥めておいてくれと頼む。血の気の多いあの二人は、荒事があれば我先にと飛び出すので今回外されたとあっては後で文句を言ってくるだろう。実力は申し分ないが今は武力よりも統率を優先したいのでアイルに鬱憤の犠牲になってもらおう。
肩を叩かれたアイルは引き攣った顔をしたが、放置してそのまま離れへと急ぐ。
離れへと戻り執事の一人に表にケルンが来たら伝えるよう言ってドミニクが居る部屋へと入れば、女装を解いたドミニクと司祭、それと黒い服が特徴の教会兵が顔を突き合わせているところだった。
「お、戻ったか。部隊は?」
「この表へ集まるよう指示した。半刻程で整う筈だ」
「あいよ。って事だからハンネスよろしくな」
ドミニクの横に居た司祭のハンネスは急いでいたのか、少し服が乱れていた。
「承知致しました。
殿下、私の移送方法は円形の輪を離れた場所へと結ぶものですので、輪が現れたらその中を早く潜るようにしていただけますか?」
「わかった。輪を潜ればよいのだな?」
「はい」
「潜った後、どこに出るのか決まっているのか?」
「ドミニク様の話から王都の外壁の外、ナダ草原にする予定です」
「リシャール。城下に火を放たれた。今王都の教会でも対処しているが、俺たちはそっちには行けないからな?」
ドミニクの言葉に臍を噛む。
やはりやったか。その方が向こうにとっては混乱の中逃走しやすいだろうとは思っていたが……
釘を刺してくるドミニクに、わかっていると頷く。
「そちらは辺境伯が手を回すと思う。
一応部隊を展開して王都を封鎖しているところだから、ひょっとするとそれでリーンを確保してくれるかもしれない」
「それは望み薄だな。相手に『隠す』の加護持ちが居たんだ。狙ってきている事から考えてみても、たとえ見つかっても突破するだけの力を持ち込んでいるだろう」
まぁ……そうだろうな。だからこそ私も急いでいるのだが。
「心配するな。最初からその辺は期待してないんだ。
極論、俺が欲しかったのはペンダントを持ってるリシャールだけだしな。正直それ以外はどうでもいい。俺が居ればどうにかなる」
とんでもない自信だが、結い上げていた髪を解いて後ろで一本に縛り、メイドが用意したのだろう動きやすそうな男の服を身に纏ったドミニクからは威厳が溢れていて、本当にそう思わせるものがあった。
リーンとそう歳は変わらない筈なのだが。
「失礼します。ドミニク様、ティルナを連れて参りました。クリス様には既に話をして協力を取り付けております」
レティーナがティルナと共に部屋に入り、頭を下げる。
「おう、ありがとさん。このローファルがこっちの連絡係だから。連携して誘導してくれるか?」
「承知致しました。ローファル様、よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく」
栗色の髪の、やや面長の顔立ちの男は言葉柔らかく会釈してレティーナとティルナの方へと向かうと三人で落ち合う場所や移動方法などを話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます