第92話 知らせと明るみになる事実②
咄嗟にディートハルトの思考を読んでいたというレティーナを見るが、首を横に振られた。
「いえ、そのような計画は伯にも無かった筈です。少なくとも最後にお会いした時にはそのような事を考えてはいませんでした」
「どこの者だ」
「……異国? 裾の長い服、剣がちょっと変わってる、曲がってるような」
曲がった剣――!
「ラーマルナか!」
「待ってください、伯の思考ではラーマルナは戦端を開いた後、宰相の支援としてくる筈では」
想定と違うと口にするレティーナの横で、ティルナが伝えられた事をそのまま読み上げるように呟く。
「王子が最初に矢で射られた? でも…リーンが助けて、陛下も矢で倒れて助けようとしたところを、誰かに止められた…」
あ、に…うえが、倒れた?
「宰相の知り合いみたいだったけど、何故か騎士が宰相の首を刎ねた? それで、みんな逃げようとしたけど侵入者が大勢きて、石槍魔法で殺されそうになって、でも誰かが魔法で守ってくれた。それで、だけど、脅されて、リーンだけ連れていかれた?」
一瞬頭が白くなりかけた。が、意識を繋ぎとめる。そんな場合ではない。
「陛下の容体は」
「……わかりませ――あ、え? は?」
「ティルナ、聞いたままでいい話せ」
「あ、はい。今、陛下の姿が消えたそうです」
戸惑った顔のまま伝えられたのだろう内容を口に出すティルナ。
「消えた? どういう事だ、連れ攫われたということか」
自分の中の余裕が段々なくなっていくのがわかる。
「わからないと。透明な壁でそれぞれ覆われて守られているようで、動けないそうです。陛下もそうだったようなのですが……気が付いたら、そこから消えていたと」
「レティーナ、フィリップにダスティンを連れてくるように言ってこい」
ダスティンは影の一人で『伝える』の加護持ちだ。ディートハルトとの伝令を務めている。ディートハルトは会場に影を仕込んでいる筈だから何らかの情報が得られれば……
私と問答している場合ではないと思ったのか、レティーナはすぐに踵を返して部屋を飛び出していった。
「ティルナ、他にわかる事はあるか?」
「かなり動揺していてめちゃくちゃに伝えてきているので……普通の子ですし……」
目を細め眉間に皺を刻むティルナ。おそらくこちらから落ち着くように伝えて情報を得ようとしているのだろう。
「団長!」
と、その時物凄い足音をさせてフィリップが飛び込んできた。
「門に陛下が!」
「……は?」
常日頃落ち着いた態度を崩さないフィリップが焦った顔をしている。その様子に冗談ではない事はわかるのだが、言葉の意味が頭に入ってこない。
固まる私を引っ張るように走り出すフィリップに、転びそうになって慌ててこちらも足を動かす。
「ちょっとまて! 今何と言った!?」
「ですから! 門に陛下が現れたのです!」
二度言われたが、それでも頭に入ってこない。
さっき王都で倒れたのではなかったのか?
何でその兄上がここに??
混乱したまま詰め所を出て城館の門へと走れば人だかりが出来ていた。
「どけ!」
フィリップの声にハッとしたように人垣が割れる。
その円の中に、青を基本とした正装姿の壮年の男が胸に矢を受け倒れているのと、その横で両手を地面につき荒い息をついている若い女が居た。その女の傍には何故かフィリップを探しに行かせた筈のレティーナが膝をついて支えている。
異様に艶やかな顔立ちをしているその女は、私に気づくと血のついた拳を突き出してきた……いや、違う、その手にぶら下がっているのは――
思わず駆け寄って膝をつきそのカメオを受け取ると、鎖の部分に血がついて――
「どこでこれを」
まさかと見た女はこちらを睨みつけ、ドスの効いた声で吠えるように叫んだ。
「お前らがあんなところに送り込んだ、妹が、託したもんだよ!」
「い、もうと?」
「ドミニク様、
団長、そちらの方は間違いなく国王陛下です。ご無事だと思いますがすぐに先生に見せてください。ドミニク様もここで話をするのは」
レティーナは早口で言い、女…ではなく、男?に魔力回復薬を渡していた。
「フィリップ、救護を」
思考が停止したまま機械的にやるべきことをと声を掛ければすぐにフィリップが部下と共に気を失っている男——兄上?を抱えて屋敷に入っていった。
「レティーナ、悪いがここに父上殿が居るはずなんだ。会わせてくれないか」
魔力回復薬をいっきにあおった男は、急激な魔力回復の感覚に耐えるように顔を歪めながら言った。
レティーナは頷き、私に小声で囁いた。
「リーンのお兄様です。ドミニク・ジェンス様。王都の会場からここまで陛下を伴って加護で飛んで来られたようです。あと、その血はリーンのものではありません」
ハッとしてレティーナを見れば、強く頷かれた。
「…団員を至急集めよ。捜索に出ている部隊も全て呼び戻せ。第一級警戒体制だ」
周囲の者に命じて散開したのを確認し、私は立ち上がろうとしている男に手を出した。だがその手はパシンと払われた。
「リーンがお前の事を信用しているから話すが、そうでなければお前となんざ話す気にもならん」
大きく息を吐いて呼吸を整えると、リーンの兄は怒りの滲んだ顔で視線を外した。
「ドミニク様」
「わかってる。今はこいつの協力が要るって事は……わかってる」
悔しそうに顔を歪め、自分に言い聞かせるように呻く姿に、まだうまく思考が追いつかず何も言葉がでなかった……
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