第24話 聖女(軟禁)は三者面談をする④

「最初は普通に聖女の力を王家に紐づける建前で婚姻をと考えていたんだがな」

「そこは変わらないのか」

「そうでもしないと渡さない理由が無いだろうが。下手な相手だと相手ごと向こうに呼ばれる」

「それは……」

「それに本当の加護を向こうが知れば何が何でも欲しがるに決まっているだろ?

 高くついたとしても貴族院を買収するぐらいの事はするだろうよ。そうなれば離婚が成立し奪われる。そこからは何が起こるか想像もつかん。だからお前に縛り付ける必要があったんだ。絶対に離れられない方法で。

 まぁ、本当に『許し』が得られるかは五分五分だったがな」

「……そういう事であればそうと言えばいいものを」

「ついこの間、殺されそうになった奴のセリフかね。あいにくと確認出来る人間が一人しかいない現状ではまだ内部の精査が終わらないんだよ」

「だから情報を当事者にも秘匿して実行したのか」

「あぁ。一応お前にもそれとなく仄めかしていただろう?」

「……おい、ディートハルトこれ」

「………リーンスノー嬢?」


 呼びかけられて我に返る。


「それは、何かな」


 膝の上に溢れた物品を辺境伯様に指さされ、へらっとらしくもなく笑ってごまかそうとしてしまった。


「……えー、加護が『生える』ではなく『生じる』ならば出来るかなと思いまして、作ってしまいました」


 こほんと咳払いを一つして、石鹸、洗髪剤、トリートメント、ブラ(コルセット苦手だけど厚手の下着だけってのも垂れそうで嫌だった)、ジャージ(動きやすい服がこっちにはないので)、最後に重たい顕微鏡とテーブルに乗せる。


 一応洗髪剤とかトリートメントはこちらで見ても変ではないガラス瓶に入った状態でイメージしたが、ブラやジャージ、顕微鏡を出してる時点で終わっている。興奮し過ぎた。


「……言われてすぐ出来るものだったかな」

「出来るわけがないだろ。何年もかけて加護の力は磨くものだ」


 辺境伯様の呟きに突っ込む王弟殿下。

 お互い名前呼びしている事からもわかったが二人は元々仲がいいのだろう。


「何か説明してもらってもいいかな?」


 気を取り直した辺境伯様に、一つ一つどういうものかを説明していく。


「これは――汚れをよく落としてくれるものです。手を洗ったり身体を洗ったり、衣類を洗おうと思えばそれも洗えます」

「……ヒルタイト王国の鹸か? あちらの上級品に似ている」


 あぁ上下水道のヒルタイト王国には石鹸があるのか。

 なるほど衛生環境が進んでいる国らしいと納得しながら次へと進む。


「こちらのガラス瓶は髪専用の液体の……鹸?で、こちらは洗った後に髪が痛まないよう保湿するものです。これは女性用の乳当てでこちらが――」


 説明していたら、ゴフッと王弟殿下が変な咽かたをした。

 大丈夫かと見れば若干顔が赤く、視線を逸らされた。


「リーンスノー嬢。ハッキリ言うところは君の美点であると思うが、もう少し慎みを持った方がいいよ」

「……あぁ、申し訳ありません」


 まさか乳当てに突っ込まれるとは思わなかった。

 二人ともいい歳しているのだからコルセット(この国では胸腹部一体型)の一種だと思えば別に平気だろうに。下着ではあるまいし――いや、コルセットって下着の認識か。いかんな。この辺の感覚が恥じらいを失った前世のまま麻痺している。ドロワーズ姿でも走り回れる自信はあるが、周りは悲鳴ものだろう。


「こちらは伸び縮みする布地の服で、最後のこれは細かな物を見るための道具です」


 辺境伯様は一つずつ手に取り確認し(むろんブラも)私には見慣れた造形のそれを返す返す見ていた。完全に下着ではなく、物体として見ている様は年の功か。


「君はあまり刺繍に関心が無いものと思っていたが、そうでも無かったのか」


 暇つぶしに用意されていた刺繍セットに、ほとんど手をつけなかったのを報告されているのだろう。実際そんなに興味は無い。ブラの刺繍は見慣れていたからだ。


「いえ、自分でやるのは苦手です。それはイメージなので」

「なるほど。こちらはかなり珍しい生地だな。かなり伸びる」

「伸縮性のある織り方をしてありますから」

「こういうものに詳しいのなら一つ聞きたいのだが、刃を防ぐ布はあるだろうか?」

「刃を防ぐ……」


 防刃系の事だろうが……


「無理を言うな、君もわからなければそう言えばいい」

「あぁいえ王弟殿下、無くはないのですが完全なものとは言えないのです」


 見せる方が早いと私はいくつかの種類の防刃手袋を出してみた。

 

「これは包丁など調理中を想定したもので、そのぐらいのものなら耐えられるタイプです。こちらはのこぎりなど工具を想定したもので、ギザギザの刃に引っかからないようになっているタイプです。巻き込み防止ですね。で、こちらは刺突にもある程度耐えられるものです。

 いずれにしても絶対と言えるものではありませんし、何度も使用すれば耐久度はどんどん落ちていきます」

「これは織り方が特別なのか?」

「いえ、どちらかというと生地の繊維が特別です。ガラスの成分が入っていたり……まぁいろいろと」


 詳細は忘れたので濁す。


「これはもう少し薄く出来たりするだろうか?」

「……薄く。使用する状況に想定されるものがあれば教えて頂けますか?」


 場合によっては防刃系よりも防弾系がいい場合もある。


「服の下に着ても違和感が無いものがいい。出来れば首も守れるものが望ましい。式典に着ていてもおかしくないようなもので」


 なるほど、王弟殿下が狙われたからその対策か。


 確かにそれは今後も懸念される事だし、私も無関係ではなくなるだろう。

 しかしそうなると、この世界で防刃程度は心元ない気がする。何しろ加護や魔法という不可思議な力があるのだ。せめて胸腹部ぐらいはもっと頑強な――そう、姪っ子と見に行った映画で出てきたオークだかオーガだかの一突きも耐えられたような夢物語のようなもの……。イメージさえしっかりしていれば出来る気もするな。

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