4-2
それから、しばらく私は、菜穂美の家には泊まりに行かなかった。またあんなことになってしまったら、今度は自分がどうなってしまうか、わからなかったから。
どんなに思わせぶりなことを言っていても、菜穂美はヘテロだし、しかも処女なのだ。
全部妄想で言っているに違いない。私やそこいらの男の頭の中がどうなっていて、どういう目で菜穂美を見ているのか、彼女はちっともわかってやしないのだから。
だけど、本当に何も分かっていなかったのは、むしろ自分自身のほうだった。これだけ長い間菜穂美と一緒に過ごしていて、なのに今まで、彼女にだけは手を出してこなかったということが、どういうことなのか、今の自分にはもう、わかってしまっていた。
「……それで、私に相談しに来たの? 柚月は子猫ちゃんだから仕方ないねー」
私が久しぶりに助けを求めてしまったのは、よりによって、美夜だった。
「そういう言い方はやめてってば」
「ごめんごめん。それで、柚月はどうしたいの? 菜穂美とやりたいの?」
美夜は珍しく真面目な表情で話を聞いてくる。
「別に、やりたいとか、そういうわけじゃ……」
「ふーん。あくまでピュアな片想いってわけね」
……片想い、なのか。美夜は、思いもかけぬ言葉に言い淀む私を見て、ただ笑っている。
「いいんじゃない? 別に。押してみたら案外、ヘテロとかそういうの、関係ないかもよ」
美夜は無責任にもそんなことを言う。
「いや、関係なくないだろ。そもそもあいつはかなりの男好きだし」
菜穂美はイケメンが好きなのだ。それは変えようのない事実だと思うのだ。
「……それも、どうだかね。ひとのセクシャリティなんて、変わるもんだし」
小さくため息をつきながら、美夜は言う。
「そんなもんか……?」
「そんなもんよ。私だって、そうね……。柚月とああいう風になるまで、女もいけると思ってなかったしね」
「嘘つけ」
自信満々だったじゃないか、なんて言葉は引っ込めておいた。今は、なんというか、美夜とのことは思い出したくなかった。
「しかしね……」
私の思いも知らず、美夜はお構いなしに言うのだった。
「柚月が、手も出せないくらい、好きなんて、ね。ちょっと妬けるわ」
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