4-1

 ひどい夜だった。学祭でコスプレ大会をして、その後皆でラーメンを食べたところまではよかった。問題はその後だ。


 いつものノリで、菜穂美の家でサシ飲みをすることになってしまった。正直、ちょっと困っていた。だけど、菜穂美があんまり押すものだから、ついつい家まで来てしまう。いつものパターンだった。


 菜穂美が甘い飲み物がいいと言ったから、カクテルでも作ってみようと思って、奮発してウオッカの瓶なんか買ってみた。ウオッカは飲みやすいカクテルが多いから、お酒に強くない自分でも楽しめるかな、と思ったのだけど。


 なぜか美味しい美味しいと言って、飲み過ぎた菜穂美が、先に酔っ払ってしまったようだった。


「あー、早く彼氏欲しい」

「出たよ、いつものやつ」

「だってしょうがないじゃん。早く彼氏作ってセックスして子供産みたい!」

「重っ……処女のくせに、いきなり子供とか、相手逃げ出すから……」

「えー、ひどーい!」


 処女の妄想力というのは酷いもので、理想のシチュエーションがどうとか、壁ドンされたいとかなんとか、私相手に実演してくるものだから、本当に心臓に悪い。


 別に菜穂美をそういう対象として見ているわけじゃないけど、だからといってこういうことをされて平気でいられるほど、自分は強い人間じゃない。


 なのに菜穂美は、困っているところに、さらに追い討ちをかけてくる。


「ねえ、……柚月は、私には手を出さないの?」


 なんでこんなことを言ってくるんだろう。本当に菜穂美の言うことはわからない。


「なに、そんなに手出されたいの?」


 平然を装って答えるけど、心臓がバクバク言っているのを感じた。


「なにそれー」


 菜穂美は笑う。まったく無邪気に、悪気なんてないというように。罪な女だ。いつもこんな風に、弄ばれてばかりなのだ。いちいち翻弄される、自分の衝動が、欲求が憎らしい。


 なにかと必死で戦っているところに、菜穂美の身体がしなだれかかってくる。本当に勘弁して欲しかった。


「ちょっと。菜穂美、酔ってるの? そろそろ終わりにしよ」


 だけどそれから、菜穂美はちっとも離れてくれなくて。それどころか、私にもたれかかったまま、寝落ちしてしまった。


 仕方がないからそのまま床に寝かせて、布団を上からかけてやった。さすがに成人女性を抱っこして布団に運べるほどの腕力は、私にはない。


 こういうとき、男だったらな、って思わなくはない。だけど、別に男の身体がほしいわけではないし、女の身体に違和感があるわけでもないから、自分はトランスジェンダーではないのだと思う。


 だけど、ほんの少しだけ、思ってしまう。さっき寝落ちする寸前に、菜穂美がつぶやいた言葉が、耳に残って離れないのだ。


 彼女はこう言ったのだ。


「柚月が彼氏だったらいいのに」と。


 頭を抱えながら眠った。なぜだかわからないけれど、目からぬるい液体がこぼれた。


 菜穂美のほうを見ないように、背を向けて横になった。全然、眠れる気がしなかった。

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