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そういうわけで、私は『レモン』のコスプレをすることが決まった。レモンは元気な女の子という設定なのもあり、ノースリーブの衣装だ。必然的に露わになるはめになる、二の腕のぷにぷにをなんとかすべく、私はダイエットに励むことにした。
「んで、菜穂美、お昼ごはんそれだけ?」
「だって、ダイエットしなきゃだし」
「あんまり無理すんなよ」
柚月はそう言って心配してくるのだけど、軽い食事制限に、筋トレを組み合わせているだけだから、なんということはない。
「……ちょっとくらいぷにっとしてたほうが可愛いと思うけどな」
柚月がひっそりとそう呟くのが聞こえたけど、聞こえなかったことにした。
筋トレと食事制限の成果もあって、私の二の腕は狙い通り、少しは見れるようになったと思う。学祭当日、更衣室で柚月に手伝ってもらいながら、私はレモンの衣装に着替えた。
「いいじゃん、レモン。可愛いよ」
珍しくストレートに褒めてくるもんだから、なんだか照れてしまう。
「柚月こそ、いいじゃん。『ライム』、似合ってるよ」
照れ隠しに、今度は柚月のほうを褒める。柚月は身長は私と同じくらいだけど、細身の身体に、ボーイッシュなライムの衣装が映えている。浮き出た鎖骨がなんだかエロい、と思う。
「ねえ、写真撮ろうよ」
気が早いけど、ついつい、提案してしまう。
「え、もう撮るの?」
「今なら、あんまり人もいないしさ」
美夜と亜弓と実希の三人は、まだ来ていなかったけど、私たちは一足早く、学内で写真を撮ることにした。
外に出て、建物と建物の間にある、広い芝生のほうへ歩く。早く来て屋台を準備している人たちや、派手な衣装でダンスのリハーサルをしている人たちで賑わっている。キャンパス内は、ふだんとは違う活気に満ちていた。
「ここがいいな」
準備をしている人たちを尻目に、私たちは正門にある学祭の看板の前で、自撮りする。ああでもない、こうでもない、とやっていると、実希たち三人がやってきた。
「おはよう。なに、二人とも、朝からもうイチャついてるの?」
実希が笑いながら言う。
「え、なにそれ、人聞きの悪い。写真撮る練習してるの」
言葉のチョイスがなんだか聞き捨てならないけど、なんとか普段のテンションに持っていく。確かに、アニメの中で仲の良い、レモンとライムのポーズを真似したりしていたから、イチャついているように見えるのもわかるけれど、なんだかそう言われてしまうと恥ずかしかった。
「さすが、実希。胸元エロいなー」
「でしょー」
胸元の大きく開いたベリーの衣装を着た実希に、柚月はさっそくセクハラをしている。実希の胸は確かに大きいけれど、なんだか気に入らない。実希は実希で、もうすっかりセクハラを当たり前に受け入れているから、ますます気に入らなかった。
「もう、セクハラ行為はだめだよ。小さい子も来るんだから」
「はいはい」
柚月は大人しく引き下がる。だけど、実希がまた、聞き捨てならない言葉を言う。
「なあに、菜穂美ってば、妬いてるの?」
「なにそれ、そんなことないもん」
本当に、実希は何を言ってるんだろう。なんだか顔が熱くなってきてしまう。
「レモンはライムのこと大好きだからね、仕方ない」
亜弓も私たちをキャラクターに見立てて、変に煽ってくるから困る。柚月も『そうかそうか、菜穂美もセクハラされたいのか』なんて言って、二の腕を触ろうとしてきたから、全力で拒否しておいた。
だけど、ただ一人、美夜だけは、そんな私たちのやりとりを、静かに笑って見ているだけだったから、少し気になってしまった。
美夜はもともとミステリアスな雰囲気があって、私にとってはちょっと近寄り難い空気がある。この五人のなかでも、多分一番、話している時間は短いと思う。
だけど私は一方的に柚月から美夜の話を聞くことが多い。一年のときのセフレ関係とかそういう話を知ってしまっているから、正直あまり印象が良くないところからのスタートで。どうしてもそれが、余計に私たちを複雑にさせるのかもしれなかった。
柚月もそうだ。亜弓と実希には隠しているみたいだけど、柚月は、美夜のことをまだ意識しているように見える。その証拠に、今日だって、亜弓や実希のコスプレ姿を大袈裟に褒めているけれど、美夜のことにだけは、そんなに触れない。ついつい、気になってしまう。
でも別に、これは決して嫉妬とか、そう言うんじゃないと思う。だって柚月と私は、仲がいいけど別にそういうんではないし、そもそも私はヘテロなんだから。
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