2-5
美夜に彼氏ができてから、私は前よりも積極的に、ひとと関わるようになった。同じ授業をとっている子たちだとか、同じ合唱サークルのメンバーだとか。
そのうちの何人かにはカミングアウトもした。話題が恋バナかなんかになった折に、ビアンだということを言ってみた。半ば自暴自棄のようになっていた私には、怖いものはなかった。
反応はまちまちで、あからさまに差別的な目線を向けてくる人などはいなかったけれど、どことなく距離をおかれることもあった。それに関しては、まあそういうものだと思って、仕方なく受け止めた。いつの世も、マイノリティというだけで肩身は狭いし、誤解を受けることも多い。
だから私はむしろそれを逆手にとって、友達関係をふるいにかけていたところがあった。それを受け入れてくれる人とだけ仲良くすればいいと、割り切っていたのだった。
そんな投げやりな態度だったけど、いつのまにか友達は増えていた。私はいろいろなサークルにいい加減に顔だけ出していたから、それぞれのサークルの中で気が合いそうな子たちに声をかけて、飲み会を企画したり、一緒にカラオケに行ったりした。
特に音楽系のサークルメンバーとは、趣味も合いやすくて、そしてなぜか恋愛相談を持ちかけられることも多くて、よく話した。たとえばチェロを弾いている亜弓や、歌が専門の実希なんかとは、特に仲良くなっていた。
一緒に遊ぶ中にはもちろん、菜穂美もいた。同じ部活だった期間なんて、春のほんのわずかな間でしかなかったのに、結局なんだかんだで、私たちは一緒にいることが多かった。
自分で自覚はあまりないのだけど、私はどうやら酔っぱらったときに、女の子にセクハラをはたらく癖があるらしい。菜穂美の目撃証言によれば、亜弓や実希にも、酔った勢いで抱きついたり胸を触ったりしていたらしい。
そういうことをしてしまった後は、ひどく自己嫌悪に苛まれたけど、皆が笑って許してくれていたので、なんとなく笑い話にさせてもらう。あまり真面目すぎる雰囲気にしてしまっても、かえって皆こまると思うし。
ほとぼりが冷めた頃、亜弓や実希と共通の友人である美夜も、集まりに呼ぶことにした。美夜とは色々あったけれど、表面上はふつうの友人で通していたし、あのことは菜穂美以外は知らないから、変に避けるというのもおかしかったから。
三年の夏休みに、実希がカナダへ行ってしまった。交換留学というやつだ。実希としょっちゅう恋バナで盛り上がっていた菜穂美は、ずいぶんと寂しがっていた。
「ねー、柚月、今夜うちに来ない?」
「いいけど……また?」
「いいじゃん。お酒飲もうよー」
そうやって誘われるのはまんざらでもない。なんだかんだと言いながら、私は一旦家にもどって、お泊まり道具を持って菜穂美の家に向かう。酷い日は、三日位連続で菜穂美の家に泊まって、そのままそれぞれが大学の授業にでたり、サークル活動に行ったりして、また菜穂美の家に戻ってきて、酒を飲んで語らって、一緒に寝る。そうやってしばらく自宅に帰らないこともあった。
菜穂美も私も、恋人がいなかったから、そうやってべったりとして過ごすことで困ることも、特になかった。
「柚月とばっかり一緒にいるから、ますます彼氏ができないよ」
そんなことを言うくせに、菜穂美は今日も私を家に誘う。一応、私の恋愛対象は女なんだけど、そんなことは全く気にしていないようだった。そしてそれが、私にとっては居心地がよかった。
「菜穂美は、どーいう奴と付き合いたいわけ?」
「えーそうだなあ……まず、イケメンで。それから身長が175cm以上で、楽器ができて、頭が良くて、細身だけど適度に筋肉もあるといいな。あと金銭感覚が合って、お酒が強くて……」
なかなか注文の多い女だった。彼氏がなかなかできないの、そーいうとこだぞ。
「柚月は? どういう子がいいの?」
「そうだなあ……。おっぱいが適度に大きくて、ウエストが締まってて、なんか色気があって、声が可愛くて、趣味も合うといいんだけど」
「それって……」
そこから先は言わずにおいてくれたけど、思い切り美夜の特徴だった。もう諦めたつもりではあるけれど、引きずっていないといえば、たぶん嘘になる。
「ねー、おっぱいのサイズって、何カップくらいがいいの? 私Cカップなんだけど、最近Dカップに近づいてる気がするんだけど、ちょうど良くない?」
「知らんがな」
要らない情報だった。菜穂美の胸のサイズなんて、いちいち気にしたことがなかった。実希のFカップおっぱいは触りがいがあるけれど、別に私は巨乳好きというわけでもないし。大事なのは形だと思う……って一体、何を考えているんだろう、私は。
そういう、馬鹿な話ばかりしているうちに、一年はあっという間に過ぎ、私達は大学四年になり、また夏が来た。
実希が留学から帰ってきたので、私と菜穂美、亜弓、美夜と五人で、どんちゃん騒ぎをして、無事の帰還を祝ったのだった。
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