1-4

 缶ビールと酎ハイを数本空けて、柚月はだいぶいい感じに酔ってきたみたいだ。顔を赤くして、ちょっと汗をかいている。


「だーめだ。このへんにしとかないと、やばい」

「えー、もう終わり?」

「菜穂美が強すぎるんだよ」


 私はまだまだ顔色が変わらない。ほろ酔い、くらいな感じだった。


「柚月、恋バナしようよ」

「えー」


 もともと恋バナには、あまり気乗りしなさそうな柚月だったけど、酔った勢いでなら、色々話してくれるんじゃないかと、ちょっと期待していた。


「……んでさ、その子がもう、可愛くて」


 結局、酔っ払った柚月は簡単に陥落して、高校時代に片想いしていた女の子のことをひたすら語っていた。柚月いわく、そのとき好きだった女の子は、ちょっとだけ私に似ているらしい。それを聞いた時は、ちょっとドキッとした。


「うーん……そうだなあ。菜穂美をもうちょっと、いや、だいぶ、可愛くした感じだったなあ」


 前言撤回。なんて失礼なやつなんだ、と思う。


「菜穂美はどうなの? 昔好きだったやつとか、どうなの」


 柚月がそう言うので、私も昔片想いをしていた男の子の話をした。高校時代私が好きだったのは、同じ部活のトランペットの男の子だ。本当にかっこよくて。すごく大好きだった。私が今、慣れないトランペットを吹いているのは、ほぼその子のせいと言っていい。


「なるほどなあ……切ないねえ」


 酔っ払った柚月は、とろんとした目をして、聞いているんだか聞いていないんだかわからないような反応を返してくる。そろそろ布団にでも寝かせたほうがいいかな、なんて思ったのだけど。


「で、結局、今まで処女なわけか」


 はっきり、聞き捨てならないことを言われた。もう、気にしてるのに。


「どーせ、処女ですよ」


 でも別に、今どきそんなの、珍しくないと思う。でもあれ、そう言うってことは、柚月はそういうことしたこと、あるのかな。疑問に思っていると、柚月が口を開いた。


「好きな人なら、いるよ。今」

「え、誰、誰?」

「……誰にも言うなよ」


 柚月の好きな人は、同じ合唱サークルの、歌の上手い女の子らしかった。『美夜』という子らしい。


「やりたいことって、合唱サークルだったんだ。もしかして、その子がいるから?」

「いや、別に、そういうわけじゃないけど」


 途端にしどろもどろになる。図星だと言っているようなものだった。


「美夜ちゃんかー。今度、紹介してよ。そんなに可愛いなら、会ってみたいな」

「……同じ学内だから、そのうち会えるんじゃないの。私のことは言うなよ」


 美夜のこととなると照れてしまうらしい。そんな柚月の珍しい姿が面白かった。


「で、美夜ちゃんには、告白とかしないの?」

「いや、もうした」

「したの!?」

「んで今、うやむやにされてるとこ」

「そうなんだ……つらいね」


 聞けば、ふたりはずいぶんと深い関係みたいだった。なんとなく、柚月は私のほかに仲良い人がいるようには思えなかったから、なんだか意外だった。


「美夜とさ……もう、やってるんだよね」

「え……」


 それはつまり、えーっと、どういうことなんだろうか。


「まあ、そうだな。簡単に言うと。……ていのいい、セックスフレンドってとこ」


 柚月はそう言って、自虐的に笑う。


 あまりの衝撃ワードに、私はひたすら驚いて、かける言葉をなくしてしまうのだった。

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