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 柚月と私が出会ったのは、大学一年生の春だった。大学のオーケストラ部の新入生歓迎会。私はトランペットで、柚月はフルートだった。ひとしきり飲んで騒いだ帰り道、それまで席が離れていた柚月と顔を合わせた。


「ねえ、柚月って生物専攻希望なんだって? さっき先輩に聞いたんだけど。私もそうなんだ! よろしくね」

「そうなんだ! よろしく」


 妙にフレンドリーなテンションで、先に話しかけたのは私だった。大した量は飲んでいなかったけど、場の空気に酔ったのはある。


 私たちは国際系の大学で、英語で会話することが多い関係で、ファーストネームで呼び捨てするのが普通だった。だからなんとなく始めから、距離は近かった。


「菜穂美って可愛いよね」


 柚月は柚月で、出会って早々にそんなことを言ってくる。


「わー、口説かれちゃった」


 私は私で、酔っ払ったテンションで喜ぶ。大学生の酔っ払い同士の会話なんて、適当なもんだ。


「このあと、カラオケ行かない?」


 柚月が誘ってくる。ぬるい南風が、桜の花びらと一緒に、彼女の髪を揺らしていて。浮き足だった心は、もちろん誘いに乗りたがった。


「いいなー、俺も行く!」

「私も!」


 他にも数名の同期や先輩たちと連れ立って、私たちは二次会のカラオケに向かった。


 移動の道すがら、柚月とは希望の専攻の話や、好きな音楽の話なんかをしていた。柚月は中学生の頃からのオーケストラ経験者で、クラシックの知識はそれなりにあった。私は吹奏楽出身だから、多少のジャンルの違いはあったけど、話は盛り上がった。

 それから、どうしてそうなったのかわからないけど、話題は恋バナになっていた。


「菜穂美って、付き合ってる人とかいるの?」

「えー、いないよ。ずっと片想いばっかり」

「そうなんだ。意外」

「柚月は?」

「私も片想いが多いかな」

「そっか。じゃあお互いがんばろう! 良い男つかまえるぞー!」


 やる気を出して吠える私に、柚月は笑いながら言った。


「私は、彼女のほうが欲しいな」


 ……驚いた。そういう人、存在はもちろん知っていたけど、実際に直接聞くのは初めてだった。


 だから、ちょっとだけ、ざわざわした。お酒を飲んでいて良かった。私はその場のテンションで、「そうなんだー、そっちかー」なんて適当に流すことができた。柚月のほうも、「この大学、可愛い子が多いから困っちゃうよ」なんて言って笑っていた。


 ちょうど良いタイミングで、私たちはカラオケボックスに着いた。席について早々に、生ビールの中ジョッキを人数分、追加する。この二次会に来ているメンバーは、そこそこにお酒が強いみたいだった。


 先輩方もいる中、柚月は何も気にすることなく、真っ先に曲を入れる。イントロが流れて、歌い出しの一フレーズ目で、鳥肌が立った。カラオケでこんなに上手いの、初めて聞いた。


「え、柚月すごい。プロ並みじゃない!?」


 先輩方も絶賛する。一番初めにこのレベルで歌われたせいで、二番目の人は歌いづらそうだった。


 柚月の声は、音程が合っているのはもちろんだけど、声そのものが艶々していて、妙な色気がある。この歌を聴かせて口説けば、コロッと落ちてしまう子もいるんじゃないか、なんて思ってしまう。


 私の番が来て、おそるおそる歌う。歌は別に苦手じゃないけど、柚月の反応は少し気になった。久しぶりに歌うのは楽しくて、気持ちいい。酔っているからというのもあると思う。


 私が歌い終わる頃に、柚月が隣にすーっとやってきた。


「菜穂美、声かわいいね」


 にっこり笑ってそんなことを言うので、照れてしまう。


「柚月こそ、歌うまくていいなあ」


 お互いに褒め合った。


「今度またカラオケ来ようよ」

「うん!」


 このとき、その誘いが、なんだかすごく嬉しかったのだった。


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