3.事件は解決へ
「榛葉くん」
その声に振り向くと、木田 達也(きだ たつや)が立っていた。
ブレザーをキチンと着て、乱れた所は全くなく、まるで新品みたいな制服を身に纏って、黒い髪に少しだけ動きのあるスタイルで、黒縁のメガネをかけた、見るからに好青年。
そんな彼とは話をした事などないし、声をかけられる理由もないし、友達でもないが、只、メイとは楽しそうに話しているのを見かけた事があるので、顔と名前の認識はある。
「北川さん、今日、お休みだったけど、風邪ですか?」
「さぁ?」
「榛葉くんも知らないの?」
「てか、アイツが風邪だろうが、なんだろうが、休んだ事で、アンタに何の関係があんの?」
「あ、ごめん。誤解してる?」
「してねぇよ」
「それならいいんですけど・・・・・・」
「なに?」
「え?」
「だから何なんだよ!? メイに何か用でもあんの?」
わかっている、声が怒った口調になっているのは。
只、苛立っていて、そこに現れたコイツに苛立ちをぶつけてしまっている。
「ううん、只、お休みしてるから、ラインしてみたんだけど、既読にならなくて、ちょっと心配になって。榛葉くんなら知ってるかなぁって」
「・・・・・・」
ライン繋がってんのかよと、何故かショックが大きい。
そりゃそうだろう、オレの知っている奴ばかりと繋がっている訳じゃない。
オレだって、メイ以外の女の子とラインくらい繋がっている。
それはそうなんだけども、なんだか、コイツとメイの繋がりは、オレ以上の繋がりのような気がして、しかもどんなラインのやりとりをしてたのか気になってしまう。
オレより、コイツとの方が、メイは話が合いそうだ。
「・・・・・・じゃあ、僕は同好会あるんで」
と、去ろうとするから、
「同好会!?」
と、思わず、声を大にして、引き止めてしまった。そのオレの声に振り向き、
「え、うん」
頷いたので、
「それって部活みたいなもんだよな? 何の同好会?」
そう尋ねた。別に、この男に興味があった訳じゃないが——。
「パソコン同好会」
「パソコン!? パソコンって何すんの?」
「あ、興味あるならパソコン室に一緒に行く?」
「いや、何すんのかなって聞きたいだけ」
「ワープロ実務検定とかP検とか資格取得もやってるよ。パソコンのスキルアップも——」
「ネットに繋がる?」
「うん、繋がるけど・・・・・・?」
「調べたい事あってさ、スマホだと制限かかっちゃうし、オレんち、今時かもしんねぇけど、パソコンないしさ、ネットカフェ行くより学校で調べられるなら金かかんないし。協力してもらえると嬉しいんだけど」
「・・・・・・」
「メイ、行方不明かもしれねぇんだ」
「え!?」
「だから、その事について調べたくて」
「そうなんだ、わかりました!」
なんだよ、メイの名前だしたら、即答かよ。
コイツ、絶対にメイの事、好きだな・・・・・・。
「タク! ここにいたのか」
と、翔太が現れ、
「誰?」
と、木田を見るから、
「木田くん」
そう言ってみる。木田は翔太にペコリと頭を下げると、誰だろう?と言う顔なので、
「コイツ、翔太。三澤 翔太。オレの友達」
と、一応、紹介してみる。
翔太は木田に興味なさそうで、頭を下げた木田をスルーした。
「タク、帰んないの?」
「あぁ、ちょっとパソコンで調べようと思って」
「何を?」
興味アリアリで、そう聞いて来る翔太に、
「だからメイが消えた理由とか」
そんな理由、パソコンで調べられる訳ないだろうが、そう言うと、
「一緒に行く!」
と、笑顔で翔太は本当に興味アリアリだ。
ていうかメイがいなくなったと言うのに、緊迫感がない。
面白がってるなぁとは思うが、オレの不安な気持ちを掻き消してくれるので、一緒に行ってくれるのはいいかもしれない。
パソコン室に入ると、既に数人が、パソコンに向かって何かしていた。
木田は、グランドの窓側のパソコンの所へ行くので、何も日向を選ばなくてもと思ったが、それが木田が普段から使っているパソコンなのかもしれない。
自由にどれでも使っていいのかと思っていた。
オレは窓から見えるブルーのシートが掛かった新しい校舎を見るが、赤い夕日に、ブルーのシートが反射して、光っていて、見え難い。
木田が、パソコンに電源を入れ、
「そっちの、自由に使っていいよ」
と、言うが、
「ごめん、オレ、パソコンいじった事ないんだ。翔太は?」
翔太を見ると、翔太も、
「兄ちゃんのPCをちょっとなら、いじったりするけど、あんまり得意じゃない」
と、首を振る。
「今時!?」
驚いて、そう声を上げる木田にオレも翔太もムッとするが、その空気を読んだのだろう、木田は直ぐに、
「そ、そうだよね、パソコンって家になければ、いじらないし、今はスマホでネットもできちゃうしね、必要ないって言ったら必要ないかもね」
と、苦笑いして、
「何を調べるの?」
そう聞いた。
「そうだな、えっと・・・・・・5月のお茶会?」
オレがそう言うと、パソコン画面を見ていた木田は振り向いて、オレを見て、
「・・・・・・なにそれ? 北川さんが行方不明って事を調べるんじゃないんですか?」
と、軽蔑するような目を向けてくる。
「メイちゃんは、この学校内で消えた可能性があるんだよ。で、七不思議の5月のお茶会ってのを調べたいって話だろ? な? タク?」
翔太がそう言うが、木田は翔太を無視して、勝手に行方不明で検索して、未解決の行方不明事件のサイトを出した。
「・・・・・・未解決の行方不明事件って、こんなにあるのか?」
オレは、事件の多さに驚かされた。
「行方不明事件って言うのは、余りいい気分じゃないよ。まだ殺人とかの方がホッとする」
「殺人とかの方が?」
「うん、だって、死んだってなると諦めもつく。だけど生きてるかもって思えば思う程、ならどうして現れてくれないのかって、どうやって生きているのかって、その希望さえ、苦しみになるから。北川さんは本当に行方不明なの? 遊び半分で、そう騒いでるだけなら、やめた方がいいですよ」
木田は行方不明と言う大変さを知らせる為、こんなサイトを開いて見せたようだ。
愉快な気分で、軽率に話すような内容でもないと言いたいのだろう。
「・・・・・・オレは本当にメイを心配してて、遊び半分でこんな事してる訳じゃない」
「そうですよね、榛葉くんは北川さんの彼氏だもんね」
木田のその台詞が、チクンと小さな針で胸を突かれたような痛みを感じさせた。
「それにしても、不思議な事件も多いんだな。まるで神隠しみたいな——」
「うん、そうだね、神隠しなんじゃないかって、そんな非科学的な事でしか説明できない事件も多々あるよ。でもさ、本当に説明できない事件は絶対に解決できないと思うよ」
「絶対?」
「うん、だってさ、説明できないんだもん」
「なぁ、変な質問だけど、神隠しって、やっぱ非科学的なのか?」
「突然、人が消えると言う事は、科学的にも、常識的にも、まず有り得ないよね。有が無になる事はないから。まぁ、現代科学では常識かな」
「そうだよな」
聞くまでもない事だったと、オレは溜息。そんなオレに、
「だけど無が有になる現象はあるよ」
などと言い出し、更に、
「それに神隠しって、説明しようと思えば、説明できると思うんだ」
と、木田は、パソコン画面から目を離し、振り向いて、オレを見て言った。
「無が有になる現象って言うのは、ある筈のないモノが、ふと現れる事。それが実体化してたら、完全な存在が目の前に現れた事になる。じゃあ、無が有になる現象があるって事は有が無になる事だって可能なんじゃないかって思わない? 例えばさ、ここに置いた筈のモノが無くなってたり、ある筈のモノが消えてたり、そういう事って、常日頃、僕達の周りで起きてる事だと思うんだけど、大したモノじゃないから、あれ? おかしいなぁ位で終わってるよね、でもそれも一種の神隠しじゃない?」
木田の言いたい事はわかるが、それとこれとは違うんじゃないかと思った。翔太も、
「それは誰かが持ってったとか、記憶違いで置いた場所を忘れたとか、そういうのじゃん」
と、神隠しとは違うと言う事を突っ込んだ。
「うん、でも、モノが消えたのは事実です。それは神隠しとどう違うのでしょう? 人とモノの違いだけじゃないのかなぁ。確かに人が一人消えたら、大変な事になるけど、モノはよっぽどのモノじゃなければ、消えても大事にならない。だから神隠しとは言わないで、誰かが持って行ったとか、記憶違いになる。で、それが神隠しの正体なのかもしれないって思わない? 人は自分で動けたり喋れたりするから、記憶違いの置き忘れって事は無理だろうけど、誰かが持って行ったって言うのは、有り得ない話ではないよね」
「つまり人攫い? 誘拐犯? でもそれなら警察の出番で、神隠しって言うのとは違って、犯人を捕まえればいいって話になるじゃん」
またも翔太が、木田に突っ込むが、
「僕が言いたいのは、誰かが持って行ったって事で、誘拐とは違うんだよ、誘拐なら犯人から身代金とか、もしくは何らかの痕跡や目撃者などもいると思うし・・・・・・」
などと、訳のわからない事を言い出す木田。
「もっとわかりやすく、言ってくれないか」
オレがそう言うと、木田は、
「つまり、人なんて大きなものが消えるって事は、誰かの手の平の中って訳にいかないよね。大声出すかもしれないし、暴れるかもしれないし、逃げ出すかもしれないし。だから、大声出しても、暴れても、逃げても、誰にも気付かれなくて、逃げられない場所が必要になる。勿論、そういう場所は、誰も使ってない山中や倉庫など、考えられる場所は幾つか浮かぶかもしれないけどさ、神隠しと考えた場合、少しでも逃げれる可能性がある場所では神隠しにはならないんじゃないかな」
「木田、遠まわし過ぎ。何が言いたいか、ハッキリ言えよ」
「別の世界へ持って行かれた・・・・・・もしくは、招待された——」
ハッキリと、そう言った木田の顔は真剣だ。
翔太が呆れた顔をしているが、多分、オレも似たような顔をしているのだろう、でも木田は、そんなオレ達を見て、またも真剣に、
「この世界と平行して、或いは同時に、別の世界が存在すると言うのは考えられる事です」
ハッキリと、そう言った。
そういえば、金曜の放課後、メイのクラスまで行く時、オレは静かなローカや教室が別世界のような気がしていたなと思い出した、その時、
「あ、こんな所にいたんだ、榛葉くん! この子、田辺 望(たなべ のぞみ)ちゃん。金曜の朝から昼まで、メイと一緒にいたみたい」
と、滿井がパソコン室のドアを開けたと同時に、そう叫んだ。
皆、静かにパソコンをしていたから、大きな声を出す滿井を見て、フリーズしている。
そして、滿井が引っ張ってきた田辺という女は、これまた大人しそうな、髪を後ろで三つ編みにして、背の低いぽっちゃりした体型の子だ。
「この子の話だと、メイちゃん、朝、仔犬を拾ったんだって」
滿井がそう言うと、田辺が、
「わたしも一緒に拾ったと言うか・・・・・・段ボールの中に仔犬が入れられていて、メイちゃんがほっとけないって、学校へ持って来たんだけど、どこへ置いておくかって事で、今、使ってない茶道室に置いておこうって、仔犬を茶道室へ置いて、そのまま授業を受けたんです。あの日、お昼に一緒に茶道室へ行って、仔犬にミルクをあげて、でも夕方、わたし、用事があったので、放課後は急いで帰りました。メイちゃんは、放課後に様子を見てから帰るって、昼に言ってました」
俯いたまま、誰とも目を合わさず、説明口調で、そう話した。
「なんだ・・・・・・そうだったのか・・・・・・」
あの日、メイが、突然、部活へ行くと言い出した理由が、ソレかと、あっけなく謎が解けたなぁとホッとする。
それならそうと話してくれれば良かったのにと思うが、話す仲だったのかと聞かれたら、わからなくなる。
実際、メイとは一緒に帰っていたが、2年になってから、一緒に昼も食べなくなり、土曜日曜も遊ばなくなり、気がついたら、メイがいなくても当たり前の日常だった。
それはメイも感じていたに違いない。
今、思えば、オレとメイの距離は、遠い。
付き合った最初の頃は、浮かれて、手なんか握ってたのになぁ。
ふと、メイに、どのぐらい触れてないのかなぁと考えてしまった。
「事件解決って感じ?」
翔太がそう言いながら、
「帰るか」
と、笑顔で言うから、頷こうとした瞬間、
「それで北川さんは、どこにいるの?」
木田にそう言われ、ハッとする。
そうだ、メイの不可解な部活へ行くと言う発言や足取りの理由がわかったとして、メイ本人はどこへ消えたんだ——?
「あの、それでメイちゃんは、マユくんとどこへ行ったんでしょうか?」
田辺が何故か脅えるように俯いたまま、そう聞いて来た。
多分、目線はわからないが、オレに聞いているような気がしたので、
「マユくんって誰?」
と、聞き返すと、
「え? あ、仔犬です、眉毛みたいな模様が目の上にあって、それでマユくんってメイちゃんが名付けたんです」
田辺は顔を上げて、そう言った。
「朝、メイちゃんお休みだと知って、お昼に茶道室に一人で行ってみたら、マユくんがいなくて。だからメイちゃん、マユくんと散歩で、どこか行ってて、授業に出てないのかなぁって思って。おうちには連れて帰れないって言ってたんです、お父さんが犬嫌いとかで。だからマユくんとどこへ行っちゃったのかなぁって。アナタなら彼氏だし、知ってるんじゃないかと・・・・・・」
彼氏だから知っている・・・・・・。
なんかオレ、情けない。
彼氏って肩書きばかりで、メイの事、何にも知らない。
知ろうとしなかったからだ。
オレがメイの事を好きじゃなくても、メイはオレの事が好きだと思っていた。
告白して来たのはメイだから、当然、メイはオレを好きなんだろう。
オレがメイを見てなくても、メイはオレを必ず見ている。
オレが振り向けば、必ずメイと目が合う。
オレが笑えば、メイも笑い返す。
オレがそっぽ向けば、メイは心配そうに、オレの視界へと入って来る。
オレが手を伸ばせば、メイも手を伸ばし、オレの手を握る。
オレが手を払い除ければ、メイは悲しそうに、手を引っ込める。
いつだって、オレの気分で、オレ本位で動いてきた。
オレは、何一つ、メイの事を知ろうとしなかった。
何故、オレなんかを好きになってくれたのか、それさえも知らない。
オレはメイに対して、全く興味を持たなかったんだ。
なのに、メイがいなくなって気付く。
オレはメイが好きで、メイがいなくなった事が悲しくて、メイに会いたくて仕方ない——。
ギュッと胸の奥が締め付けられるような気分になり、メイの笑顔を想い出していた時、
『榛葉くん』
と、遠くから流れてくるような微かな声が、耳に入った。
「メイ?」
オレが、突然、メイの名を呼び、辺りをキョロキョロしているので、翔太も滿井も木田も田辺も、きょとんとした顔をして、オレを見ている。
ヤバイ、メイがいなくなった事で、オレ、幻聴とか聴こえ始めてる?
「あ、いや、あのさ、犬がいなくなってたんだよね?」
誤魔化すように、田辺にそう尋ねると、田辺はコクンと頷いた。
「じゃあ、朝、来たのかな、アイツ、暢気だから、犬と散歩しながら遊んでて、どっかで一緒に昼寝でもしてんのかも」
そう呟くオレに、
「いやいや、そうとは限らないよ? 犬がいなくなったのって、メイちゃんが消えた金曜の放課後だったかも。つまり茶道室は金曜の放課後から、もともと誰もいなかったとか」
と、翔太が冗談にならない冗談を言い出す。
でも、それは考えられるかもしれない。
散歩できるくらい元気なら、ラインはできる筈だ。
スマホをなくしたりしてなければ・・・・・・。
「木田、10年前の事件って調べられる? ほら、5月のお茶会の犯人いるだろ、その人の事、知りたいんだよ、もう病院から出てたりするのかな? 今現在、その人がどうしてるのか、知りたい」
「え? なに? 5月のお茶会って?」
どうやら木田は七不思議を知らないようだ。
実話に基づいている5月のお茶会の話をすると、木田は猟奇的殺人を検索し、それらしいサイトを開くと、更に『カンニバリズム』と、書かれた場所をクリックし、サイトを開いた。
「カンニバリズム?」
なんだか楽しそうな音楽なのかと思い、口を吐くと、
「人肉を食う事をカンニバリズムって言うんだ」
木田がそう言うので、
「え? 人肉を食う事って、普通に、なんていうか、そういう言葉があるのか?」
オレは驚いて、そう聞いた。
普通に考えて、人肉を食うなんて考えられなかったから、そんなのは言葉にさえ、ないものだと思っていた。
「昔は人肉を食う風習だってあったんだ、そんな不思議な事じゃない」
当たり前のように言う木田に、オレは、そんなバカなと、皆を見回すと、皆、特に不思議がっているようではない。オレだけが驚いている事に、
「タクは怖がりだからな、そういうの避けて生きてるもんな。漫画とかにもカンニバリズムは出てくるし、映画や深夜ドラマにだって出てくる。人肉を食うからって、そんなホラー感もないよ、それで怖がって驚いてるのは、世の中、タクぐらいだって」
と、翔太がバカにするように言った。
「べ、別に怖がってはねぇよ!」
そうは言ったが、怖がってたりする。
ていうか、世の中、そういう方向なのか!?
それが普通って場所にいるのか!?
オレ、いつの間にか、置いてかれてる?
これからは、せめて、怖いドラマぐらいはチラッと見るようにした方がいいかな。
そして、カンニバリズムの人間が、こんなにも多くいる事に、オレはパソコン画面を見て、驚いていた。
見つかっているだけで、これだけなら、実際はもっといるかもしれない。
「あ、5月のお茶会の話しに近い話は、これじゃないかな、赤川 哲夫(あかがわ てつお)」
と、木田が画面に指を差し、赤川 哲夫の後に続く文を、オレは黙読する。
赤川 哲夫。
彼は、ある女学校の事務をしていた。
ある日、書類を持って、階段を上っていると、足を踏み外し、赤川は高い場所から転がり落ち、頭に重症を負い、知的に障害を持ってしまう。
記憶にも障害が出て、自分の名前すら言えない状態だった。
だが、簡単な事務仕事ならできると言う事で、校長は彼を辞めさせなかった。
その女学校では、5月にティーパーティーが開かれる。
赤川はそのパーティーに出席したかったらしいが、女生徒達は、知的障害を持った赤川を余り良く思っていなかった。
意味不明な発言や挙動不審な態度が、女生徒達を怖がらせたのだ。
その為、ティーパーティーには呼ばれず、だが、赤川は、中庭で行われるティーパーティーを見て、どうしても出席したくなり、自らティーパーティーを開く事を考え、パーティーに出席してくれないかと、ある女生徒に声をかけたが、断られ、しかも女生徒が余りに嫌がり、大声を出すので、口を押さえ、静かにさせようとした所、その女生徒は窒息死してしまい、赤川は、動かなくなった女生徒を食べる事にしたと言う。
それから一年後、またティーパーティーの時期、赤川は同じようにして、女生徒を食べた。
数年、それを繰り返し、新しい校長が、この学校へ訪れた年の5月、赤川は新しい校長に気に入られようとして、女生徒の太腿部分の肉を、その校長に『美味しいから』と差し出し、校長は、赤川に、どこから肉を持って来たのか尋ねると、赤川は悪びれもなく、『肉は沢山あります、ほら、あそこにも、そこにも』と、女生徒を指差したと言う。
その事から、女生徒失踪事件は、女生徒連続殺人事件として、終わりを告げた。
赤川は、『どうして食べてはいけなかったんですか? パーティーですよ? いつもよりご馳走じゃないとパーティーにならないじゃないですか』と、捕まった後も、悪びれる様子もなく話したと言う。
そして、『もしかして食用ではなかったんですか?』と、そう言った後、食用ではなかったと言う事をブツブツと呟き、何かに脅えるようになり、時折、大声で、『食用ではなかったなんて知らなかったんです』と、叫ぶようになった——。
そこまで読むと、気分が悪くなり、オレはパソコン画面から目を逸らし、口の中の唾を飲み込み、何度も飲み、それでも吐き気が治まらず、その場にしゃがみ込んだ。
「タク、マジで? これぐらいで?」
と、翔太は言うが、こんなのオレは知らなくていい世界だ。
知りたくもないし、知って、平気でいられる人間になりたくはない。
「重症の怪我で知的に障害が出たのは、わかるけど、なんで人を食うって思考になるんだ」
そのオレの小さな呟きに返すように、
「頭を強く打って、重症の怪我をした後、猟奇的殺人を犯す人間は結構いるもんです」
木田は、小さく、そう呟いた後、普通の声で、
「最後に赤川は病院送りになったって書いてあるし、多分、知的障害者だし、一生、退院の見込みはないでしょう」
そう言った。
「知的障害者って怖いねぇ、私さぁ、小学校の時にいたよ、知障の子。見た目、普通なんだけど、言ってる事とか、意味不明で、超怖いの。なんていうか、別世界の生き物?」
滿井がそう言って、怖いを連発で言い放つ。
「わたしも小学校の時に、同じクラスに知的障害の子がいました。わたし、世話係やってたんですけど、とてもイイコで、怖くなんかなかったよ」
田辺がそう言うと、滿井は、
「偽善者」
と、唇と尖らせ、田辺を睨み、そう言った。
「ぎ、偽善かもしれないけど、でも、わたしが知ってる子は、イイコでした!!」
田辺も負けじと滿井を睨んで、大声で、そう言った。
「まぁまぁ、二人共さぁ、そんな言い合いやめようよ。女の子は優しいのが一番だし!」
翔太が2人の間に入ると、
「私が優しくないって!?」
と、滿井が翔太を睨む。
「そ、そうじゃなくて、風香ちゃんの言う事もわかるし、えっと、キミ、なんだっけ、名前?」
翔太は、田辺を見て、名前を尋ねる。
「田辺です」
そう答える田辺だが、
「いや、下の名前。僕は女の子を下の名前で呼ぶというポリシーがあって」
どんなポリシーだと突っ込みたくなるが、
「田辺です」
と、田辺は翔太に下の名前を教えたくないようだ。翔太は空気が読めない訳じゃないので、
「あ、そう、田辺さんね・・・・・・」
と、直ぐに頷いた。
「田辺さんの言う事もわからなくはないからさぁ」
そう言いながら、翔太が滿井を見ると、木田が、
「知的障害者だろうが、健常者だろうが、悪人も善人もいる。悪人か、善人かっていう理由に障害も健常も関係ない」
一番、尤もな意見を言い、皆を黙らせた。
「そんな事より、僕は北川さんがどこへ消えたかって事の方が心配なんですよ」
木田が怒ったような声を出して、そう言うから、オレはとても不愉快な気分になる。
自分だけがメイを心配しているかのような台詞。
オレだって心配してるっつーの、つーか、一番心配してるっつーの!!
つーか、メイはオレの彼女だ!
木田に対し、ライバル心剥き出しで、そう思った瞬間、『榛葉くん』と、またメイの微かな声が、オレの耳に届いた。
「今、メイの声しなかったか?」
そう言ったオレと、皆の目が合う。
皆、耳を澄ましてるのか、それとも、バカな事を言っていると思っているのか、無言。
「・・・・・・メイはこの学校にいる」
真剣にオレがそう言うと、翔太が笑い出し、
「いないって! いないから、こうやって探してんだろ?」
と。
滿井も笑いながら、
「いたら、ちゃんと授業に出てたよ、メイはサボるような子じゃないし」
と。
田辺も、
「この学校にいるなら、今頃、マユくんと出てきてくれてると思いますけど」
と、オレの意見を否定する。が、
「僕は榛葉くんの言う通りだと思う、この学校に北川さんはいるんじゃないかな」
木田がそう言って、オレを見た。
オレはオレの意見と同じ木田が気に入らない。
木田はオレをどう思っているのか。
オレは、木田がオレの事を気に入っているとは思えない。
今、オレと木田は同意見だと言うのに、何故か、睨み合っている状態。
「木田くんだっけ? メイちゃんがこの学校にいるって言う根拠は?」
翔太が、オレと木田の間に入るようにして、木田を見て、そう聞いた。
「・・・・・・さっきも言ったけど、この世界と平行して、或いは同時に、別の世界が存在すると言うのは考えられる。例えば、静止画や動画でも、別世界からの住人が映ってる場合がある。みんなも、テレビで見た事あると思うよ、心霊写真とか——」
「心霊写真って、それは幽霊だろ」
と、翔太が突っ込むと、
「幽霊という別の世界から来た者だよ」
と、木田は表情を変えずに言う。呆れる顔をしている翔太と滿井だが、田辺は木田を黙ったまま、それこそ本当に表情を変えずに見ている。
オレは、そういう話は苦手だから参加したくない。
というか、メイを心配してんじゃないのかよと言いたくなるが、メイに対してその程度なんだろうと思う安心感もあって、ここは無言が無難だろうと思っている。
「幽霊って言うのが、あの世って場所に存在する者だとする。あの世って言う場所では、幽霊は実体化してるかもしれないが、この世に何らかの行き違いで来てしまい、この世の住人ではないから実体化できず、見えない状態でいる。だが、たまにカメラのレンズを通して映り込む事がある。いる筈もない者が。それはね、存在する世界はこの世だけではないと言う説に繋がります」
シーンと静まるオレ達に、
「あ、これを怖い話だと思わないで聞いてほしい。幽霊って例えを変えたら、御伽噺になりますから」
そう言った。
「へ?」
翔太は御伽噺の意味がわからず、変な声を発して、間抜けた顔をする。
「だから、妖精って言うのが、妖精の国って場所に存在する者だとして、妖精の国では、妖精は実体化してるかもしれないが、人間の世界に間違いで来てしまい、人間の世界の住人ではないから実体化できず、見えない状態でいる。でも実際に、この世界で、妖精を見たと言う人は存在する。つまり、妖精が住んでいる世界があるって言う事です」
「・・・・・・木田くんさぁ、メイちゃんが妖精の国に行ったと思ってるの?」
翔太が確信を口にした。
こういう時、翔太は無意味に勇気あるなぁと思う。
黙っている木田に、
「木田くんは妖精の国があると思ってるの?」
翔太が再び、尋ねると、
「何とも言えません。只、実在しない証明ができないなら、実在する可能性はあります」
と、木田は大真面目で言った後、
「あ、いや、北川さんが妖精の国へ行ったとは言ってませんよ? 妖精の国と言うのは例えです。つまり、北川さんは、この世界とは別の世界に紛れ込んでしまったんじゃないかって。さっきも言ったけど、この世界と平行して、或いは同時に、別の世界が存在すると言うのは考えられる事ですから」
更に、そう話したから、
「じゃあ、メイは、どこの世界に行ったって言うんだよ?」
オレがそう聞くと、木田は俯いてしまった。
「適当な事言って、混乱させないでくれ。オレはメイの事が——」
本当に心配なんだと、言おうとした時、
「救急車が止まってる!」
と、突然、翔太が、そう叫び、窓を開けた。そして、窓の淵にヒョイッと飛び乗り、
「工事で事故でも起こしたんかなぁ?」
そう言って、夕日で目を細めながら、グランドを見ている。
「そんな所に乗って危ないわよ」
滿井も、そう言いながらも、椅子の上に立ち、窓から身を乗り出している。
「サイレン鳴ったか?」
静かだったよなと思い、そう問うと、
「サイレンを鳴らさないように来てもらったんじゃないでしょうか、学校で、救急車を呼ぶなんて、パニックになるかもしれないから」
と、木田が説明し、オレは、あっそと頷くと、翔太同様、窓の淵に飛び乗り、グランドを見る。
「危ないって言ってるでしょ!」
と、滿井が言うが、こんな事、いつもの事だ。
先生の目の前では、こんな事はしないが。
グランドには、結構な人だかり。
数人の生徒が、こちらへ向かって歩いて来るのを見て、
「ねぇー!!!! アレ、なんかあったのー?」
と、救急車を指差して、翔太が叫んで聞いた。
もしかしたら先輩連中かもしれないのに、翔太のこういうとこ、本当に勇者だと思う。
「なんか2年生の女の子が新校舎に入って、怪我したみたいだよ」
と、叫び返してくれたが、2年生の女の子って、もしかして——!?
「なんかねぇ、中で立て掛けてあった鉄板が倒れて下敷きになったみたい。その子、金曜の放課後、犬を追いかけて現場に入ったのを見た人がいて、それからずっと誰にも発見されてなかったから、重体とからしいよ。もしかしたら死んだかもとか」
更に、そう叫び返してくれた事で、間違いない、メイだとわかる。
平ちゃんが、新校舎に入り込んだ可能性もあると言っていたが、まさか、本当にそうだったとは。
あっけなく事件は解決したが、オレは、どうしたらいいんだろう。
「榛葉くん! メイが運ばれる病院どこか聞いて、行った方がよくない?」
滿井がそう言ってくれた事で、そうかと、直ぐに窓から飛び降りようとした時、
「お前等、なにやってんだぁ!?」
と、パソコン室のドアが開いた途端、先生が窓の淵に立っているオレと翔太に怒鳴った。
瞬間、翔太の口がヤベッと動いたのと同時に、翔太は体勢を崩し、オレは、
「あぶっ!」
危ないと最後まで言えず、翔太に掴まれたまま、そして、誰かが、オレを掴んでくれたのだが、よくわからないまま、ドサドサドサとオレの上に数人が落ちて来た事がわかった。
というか、オレと翔太は窓から落ちたのだろう、そして、他にも落ちたのだろう。
でも、誰が落ちたのかなど、わからない。
只、落ちたなと思っただけ。
それよりも、オレは消えゆく意識の中で、メイの事ばかり考えていた。
メイにラインをしても既読にならなかった事、もっと重要に考えるべきだった。
そしたら、メイは金曜の夜には見つかっていたかもしれない。
事件は解決へ向かったのかもしれないけど、オレは、こんな解決、納得いかない。
こんなの、オレが望む結末じゃない!
メイは笑顔でオレの前に現れてくれるんだ。
『またね』
それは別れの挨拶じゃない、明日へと続く約束なんだから!!
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