第19話 トトとお散歩!

 そういえば俺、透明人間だったと思い出す。

 ちょっと、出かけてくると言って家をでた。


 行き先は、銭湯だ。


 いそがしすぎて忘れていた大志を実現しよう。

 俺は女風呂に行くのだ。


 ストレスがたまり過ぎたのだよ。

 本来の俺を取り戻すのだ。


 路地裏に入って辺りを確認する。

 誰もいない、スキル気配遮断と無音歩行を発動。


 職業スキルの影法師はLV5である。

 土台のスキルレベルが上がれば、そこから派生するスキルも強化されるのだ。気配遮断と無音歩行はそれに該当する。誰にも気づくことができない透明人間になれるのだ。




 誰にも言えない秘密は、俺にだってある。


 昨日、ウダユウは英雄への憧れを口にした。

 だが俺は、そういった高尚な資質はない。

 そうなんだ誰にも言えないが俺は変態だと思う。


 困った現実だが、仕方あるまい。

 どーしても女の人が大好きなんだ。

 それも裸にひどく反応してしまう。


 見たいのだが、世間がそれを許さない。

 だから仕方ないのだ。

 運命には抗えぬぞ。ポポはそう言った。

 このサガこそ運命そのものなんだ!

 許してくれとは言わない。俺は変態で行く!



 モンモンとしながら銭湯の前に立つ。

 誰も俺に気づいていない。

 赤い暖簾に【女】とある。


 武者震が起こる。

 男イチマツ、推して参る!




「イチちゃーん、見っけ!」


 ビクッ、と強く体が反応した


 なぬ、振り返ると、トトがニンマリとそこにいた。

 愕然とした。たくさんのおっぱいが儚く消えていく。


「トト、ど、どうした?」

「イチちゃんを探してたの。ふふっ」

「どうやって見つけた?」

「臭いからわかるんだよ」


 ああ、それは前にも聞いた。

 俺が臭いって、2回目だ。


 そうさ、変態で臭い最低な男だとも・・・


「トトはイチちゃんが臭いの大好きなんだ!」


 匂いフェチか! 

 俺の匂いが好きだったのか!

 言いかた、勘違いされない言いかたってのがあるだろ。


「トト、ちょっとこっちへ」


 独り言を話す猫獣人に衆目が集まっていた。

 俺は彼女を裏路地に誘導する。


 俺はスキルを解除して姿を表した。


「イチちゃん、何してたの?」

「ス、スキルの練習だ」


 キリがいなくてよかった。

 勘の鋭い彼女なら、この状況を瞬時に理解しただろう。


「トト、内緒だぞ」

「ん、わかった」


 トトはそう言って、俺と手を繋ぐ。

 ニヘヘ、と笑い。

「散歩しよ」と言った。




 彼女はお腹が空いたと言う。

 屋台が軒を連ねる通りに向った。


 ここらは座会の縄張りみたいになっている所だ。

 座会が運営する大きな商業施設の集客力は王都で1番だ。

 その周辺に大小の店が乱立している。

 商業地区として一等地になっていた。


 人、人、人ばかりだ。盛大に賑わっている。


 トトが迷子にならないように強く手を握ると、

 彼女も手を強く握り返してきた。


 んを、何ヲ! ドキドキしてきた。

 落ち着け俺、悟られるな。


「イチちゃん、肉が食べたい」

「おう、任せとけ」


 うん、知ってる。何時だってトトは肉だってこと。

 俺は彼女を食べたくなってきた・・・


 とりあえず彼女の欲求を満たすのだ。

 串肉の屋台に行く。

 すると彼女は大量の串肉を注文した。

 俺はその料金を支払う。

 

 え、えーっと、トトさんそんなに俺は食べれませんぞ。

 ウフフッと笑う彼女は俺に何本食べる? と聞いた。


「3本くらいでいいよ」

「はい、どうぞ」


 俺は串肉3本をいただく。

 彼女は5本ほど食べた。


 当然、串肉はたくさん余っている。

 ウダユウも、キリもそんなに食べれないと思う。


「イチちゃん、あっちに行こ」


 彼女は串肉の入った袋を片手で持ち、

 もう片方の手を俺に伸ばした。

 手を繋ぐと嬉しそうな顔を浮かべる。




 けっこうな距離を歩かされた。

 うん、もう気づきましたとも。

 ここはスラム街である。

 トトは孤児院を目指しているのだ。


 俺が女風呂を目指していたことは、もう何も言うまい。


 孤児院の敷地に入ると子供達が遊んでいた。

 1人がトトの姿を発見すると大騒ぎになった。

 彼女は素早く串肉の入った袋を俺に渡した。


「トトおねーちゃん!!」


 ワラワラと子供達が彼女に群がる。

 大人気だ。揉みくちゃになってるぞ。

 トトは嬉しそうに1人1人に声をかけていく。


「みんな、今日はね、

 イチお兄ちゃんがお肉を買って来てくれたよ!」


 彼女は俺を指差す。

 子供達はクルリと反転した。

 ドドドッと、その群れに襲われた。

 争うように串肉を取り合う。

 平等に分けるのに一苦労した。

 あっという間に串肉はなくなってしまった。


 孤児院の奥から、懐かしい顔が見えた。

 俺らを育ててくれたシスターだ。


「イチじゃないか!」

「シスター、久しぶりだな」

「ああ、大きくなったね。元気だったかい」

「元気だ」

「トトとキリから、ときおり話は聞いてるよ」

「そうなのか?」

「あんたとウダユウはちっとも顔を見せてくれないね」

「色々と忙しいんだよ」

「まあ、いいさね。串肉、ありがとう。助かるよ」

「気にするな。また持ってくるよ」


 トトが嬉しそうに会話を聞いていた。

 彼女とキリがちょいちょい、孤児院に通っていたのは知らなかった。


 トトが小袋をシスターに渡した。

 それは、寄付金だった。

 中身を確認したシスターがすごく驚く。


「こんな大金貰えない」と言った。

「全部、イチちゃんのお陰なんだよ」

「・・・それにしても」

「シスター、大丈夫だ。

 俺らは座会の専属冒険者になったから」


 シスターは手を口に当て、祈りの言葉を口にした。


「イチ、トト、感謝します。神の御加護を」

「シスター、

 俺は串肉を持ってきただけだ。

 これはトトが望んだことだよ」

「いいえ、これはあなた達、2人の行いだよ」


 それから、シスターは子供達を集め感謝の印しに讃美歌の合唱を俺らに贈ってくれた。


 子供達の歌は無垢で純粋だった。


 トトの行いは、俺を清廉にさせてくれた。

 なんと浅ましく愚か者だったのだろうか。

 家を出た時とは真逆な気持ちになっている。


 俺は子供達と日が暮れるまで遊んだ。

 もうヘトヘトになるくらい遊んでやった。





 帰り道、トトは腕を組んできた。

 それもピッタリとくっついてくる。

 彼女のおっぱいがヒジに当たる。

 思っていたよりも大きそうだった。




「ねえ・・・い、イチちゃん、ちょっと休んでいこ!」



 俺の清廉な気持ちは・・・反転した。




_________________________________________

 第一章が終了しました。

 明日から第二章を進めてまいります。


 お読みいただきありがとうございます!

 これからもよろしくお願いします。


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  感想もお待ちしております。

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