第18話 夕餉の風景

 俺らは冒険者ギルドの一軒家を借りることになった。

 すぐに安宿を引き払い、こちらに移ってきた。

 荷物なんてないから、身一つでの引越だ。


 足りない物は座会の商店で一式そろえる。

 座会の専属冒険者である為、格安で商品の提供を受けることができた。


 家具や雑貨が次々と一軒家に運ばれる。

 俺らはその対応に大忙しだった。


 自分専用の部屋ができることに興奮する。

 ベッドにタンス、机と椅子が配置された部屋。

 質素で普通の部屋だが、これで十分だ。


 孤児院を出ていった頃を思うと感慨深い。

 家なき子だった俺とウダユウは、野宿なんてザラだった。

 あまりの寒さにウダユウと抱き合って寝たこともある。

 なんと、苦い思い出だろうか・・・


「イチちゃん、見てみて!」


 キッチンには食材が並んでいた。

 色とりどりの野菜や果物、肉、肉、肉。

 トトさん、ちょっと肉が多めですね。


「イチくん、今日は肉多めカレーを作ります」


 そう言ってキリは数々のスパイスを見せてくれた。


 ときおりキリは経費の節約で料理を用意してくれた。薄味で具が少々のスープだったが、みんな、それが大好きだった。


 今日は訳が違う、キリは袖をまくって料理をする。

 キッチンに並べらた肉の前には、トトが陣取っていた。

 キリのお手伝いをしながら、肉を見つめている。


 俺らはひもじい思いをしてきたもんな。


 ウダユウは庭で草刈りをしていた。

 少し休もうぜと、誘ったが雑草が気になってしかたがないらしい。なので庭にテーブルと椅子を用意して茶を入れた。


「ウダユウ、紅茶に砂糖はいれるか?」

「2つだ」


 角砂糖を2つ入れてかき混ぜる。


「ありがとな」


 ようやく休息をいれた。彼は働き者だ。

 フーッ、と一息いれ手ぬぐいで汗を拭く。

 キッチンで料理をするトトとキリを眺めて彼はつぶやく。


「イチ、しばらくはこんな感じがいいな」

「ん、お前もそう思うか」

「ああ、とても穏やかでいられるよ」


 小さなキリは踏み台の上に立ち、キッチン食材を調理している。トトはキリの指示に従いテキパキと動いていた。


「あ、つまみ食い」とウダユウ。

「あはは、あれは怒られるぞ」俺が予想する。


 案の定、キリに見つかり怒られた。

 トトはニヘッと笑いペコペコと頭を上下している。

 あまり反省しているように見えない。

 キリがプンスカした後は笑顔になっていた。


「紅茶って美味いな」


 ウダユウは紅茶を味わいながら感想を述べる。


「トトがカンゾウさんから頂いたんだと」


 座会幹部のカンゾウさんに挨拶にいかないとだな。

 専属契約のお礼をしなければならない。


「近いうちにカンゾウさんに会いにいくぞ」

「ああ、そうだな。はやいほうがいい」


 そのうち座会から依頼もあるだろう。

 どんな依頼があるのか想像すると怖い。

 カンゾウさんは座会でも裏方だからな。

 最悪、俺だけでって訳にもいかないか、みんな契約したし、カンゾウさんには恩もある。


「なあ、俺達はかなり強くなったな」


 ウダユウは手のひらを見ている。

 唐突な問いかけだ。

 そうだとも俺らは急激に強くなってしまった。


 はて、お前も俺と同じように不安になったのかな?


「A級冒険者のおっさんを片手で投げるぐらいだからな」

「けど、ポポ様はまだ弱いと言った」

「土地神の基準がおかしんだよ」

「イチ、俺はもっと強くなりたいんだ」


 おふっ、不安じゃないどころか、もっと強くなりたいと、

 英雄願望でもあるのか?


「英雄にでもなるのか?」

「それは、イチお前だよ」


 断る。英雄なんてものにはなりたくありません。

 お前に譲る。俺は影法師で十分だ。


「お前に譲るよ。俺はそう言う気質じゃない」

「あはは、英雄か成れればいいな」


 そうか、その気があるのか。

 茨の道だと思うぞ。

 だが、お前が英雄になったら誇らしく思うだろうな。



「イチ、俺達の今後についてだが、あまりゆっくりとはしてられないだろう」


 放っといてほしいところだが、周りがそれを許さない。

 先日の高級アパートであった件は座会や冒険者ギルドに伝わっていた。冒険者達には突如現れた新星として伝播してしまったらしい。


「今日みたいな日常は続かないだろうな」

「俺達は何も知らなさすぎる。情報がほしいな」


 その通りだ。大きな問題を提示され、協力するからと言われても、途方に暮れるだけだ。


 太陽の塔、厄災、国造り・・・

 何をどーしたらいいんですか? 


「とりあえず、カンゾウさんに相談だ。俺らの中で1番信頼できるのは、あの人だけだしな」


 庭先まで、カレーの匂いが漂ってきた。

 食欲を刺激する。


「あまりサボってもいられないな」


 ウダユウは立ち上がると、庭に生い茂る雑草に向った。

 俺はティーカップとテーブルをしまう。




 状況を整理しないといけない。

 俺らの立ち位置を把握しないと酷い目に会いそうだ。

 座会の専属冒険者として何を求められているか、それを知る必要がある。


 ポポのことも気になる。

 運命には抗えぬぞ、土地神が言った言葉だ。


 太陽の塔へ行く。

 厄災を排除する。

 国造りが始まる。


 ポポが話した俺の運命。

 ウダユウ、トトにキリもその因果に縁があると言った。

 それは必然じゃ、と。


 トトの声が聞こえてきた。


「イチちゃーん、もうすぐ晩御飯だよー」

「すぐにいくよ」




 トイレ掃除に風呂掃除は切がついた。

 洗面所に手を洗いに行く。


 ごく普通の日常がずっと続けばいいのにと思う。

 ささやかな願望を抱きながら、みんなが待っているダイニングルームに足をむけた。



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