第17話 か、絡まれたんですけど!

 マリエさんに鍵を借りて、

 まずは、高級アパートを見学に行く。


 5階建ての白い建物だ。


 受付らしきところにコンセルジュと書いてある。

 なんだそれはと、ウダユウに確認しようとしたが、


「お待ちしておりました。イチマツ様ですね」


 と、中から女の子が出てきた。


「コンセルジュのダリアでございます。冒険者ギルドのマリエ様からご案内するように承っています」


 ふむ、コンセルジュと申すダリアが案内してくれるみたいだ。


 受付を抜けると広間があり、見知った冒険者が何人かいた。

 一方的に俺らが知っているだけで、向こうは知らないだろう。

 だって、さっきまでD級冒険者だったし、C級でもここは敷居が高いのだ。


 彼らはA級冒険者である。


 新参者なので軽く会釈をすると、おっさんが反応した。


「坊主共、掃除の依頼か? 俺の部屋もキレイにしてくんないか。嬢ちゃん2人に頼むわ!」


 コンセルジュのダリアがそれを制するように前に出た。


「ソールバルト様、こちらはお客様でございます」

「へっ、このガキ共が客だってよ。アハハハ」


 誰だ、この感じの悪いおっさんは? 非常に不愉快だ。


「そこの猫獣人の嬢ちゃん、俺と遊ばないか?」


 トトは自分が呼ばれたことに反応する。


「おじちゃん。臭いからやだ!」


 ブッホ、臭いからやだって言ったよな。

 俺にはそう聞こえたぞ。


 広間にいた冒険者が一斉に笑う。


「ソールバルト、臭いってよ! ウハハハハッ」


 臭いおっさんの顔がみるみる赤くなってきた。

 プルプル震えながら立上がる。

 おっさんの体は大きく、俺らを威圧的に睨む。


 短気すぎるだろと思うが総じて冒険者とは、そういうものだ。荒くれ者が多い。

 だが、A級ランクの冒険者は比較温厚である。経済的余裕と社会的な地位がその人格を矯正するからだ。


 ソールバルトは例外らしい。


「ソールバルト、辞めておけ。少年少女を怖がらせてどうすんだ?」と、まともな意見が飛ぶ。


「ライアン、俺は臭いか?」


 え、そこ聞き返すんだ。


「ああ、臭いな」


 と、ライアンと呼ばれた人物は即答する。

 酷い仲間だ。間髪いれずに煽りが入りました。


「嬢ちゃん、ちょっとこっちこい!」


 と、おっさんの手がトトに伸びた。

 俺とウダユウが反応して動くが、トトは一瞬で距離を取った。


「おじちゃん、臭いから近寄らないでほしい」


 辛辣な言葉が飛び、広間に爆笑が起こる。

 俺らはあまり笑えないのだが・・・


 おっさんは猪突猛進とばかりにトトめがけて走り出す。

 その予想外の行動に、短絡的な思考に驚いた。

 バ、バカなのか!


 だが、ヒーローが現れた。


 そのおっさんの突進をヒーローが片手で止めた。

 え、ウダユウ兄さん!


 その光景を理解するのに数秒かかる。


 15歳の少年が猪突猛進する大きな臭いおっさんこと、憤怒のソールバルトさんを片手で止めたのだ。


 なぜに、片手で止めた? その余裕はどこからきた!


 劇的な瞬間なので2回言う。


 大きな臭いおっさんこと、憤怒のソールバルトさん。

 15歳の少年はその猪突猛進を片手で受け止めた。


 ウダユウはおっさんを持ち上げると向こうに投げた。

 え、おっさんを投げおった。


 ドッギャシャーン!!!


 おふっ、器物破損である。

 見学にきただけなのだが、大騒動になってしもうたがな。


 コンセルジュのダリアさんは、目を大きく見開いて硬直している。


 ウダユウが止まらない。ズカズカと近づくと、臭いおっさんに馬乗りになり殴り掛かろうとした。


 おお、激怒である。冒険者は総じて短気だと聞くが、

 ウダユウ、お前もか!


 おっさん以外の冒険者が立ち上がり、臨戦態勢を取った。これはあかん、怒りが波及した!


 俺は慌ててウダユウを取り押さえる。


「キリ、リラックスだ!」


 キリはリラックスを唱えた。


 高級アパートの広間に静寂が訪れる。

 一部の興奮した大人達が鎮静化した。




 パチパチパチッ、


「あはは、いいものを見せてもらったよ」


 あ、この人は、

 ・・・ギルバート・ノーマン!


「もっとはやく止めればよかったね。面白かったから、つい仲裁が遅れてしまった」


 王都フィッツベル冒険者ギルドのエースである。

 しかも座会と専属契約を結んでいる、お仲間だ。


「僕はギルバート・ノーマンだ」

「し、知っています。俺はイチマツと言います」

「やっぱり、そうか! 座会のカンゾウさんから話は聞いている」


 すると、ギルバートは握手を求めた。

 俺はその手を握る。


 ギルバートは振り返り広場に向けこう宣言した。


「みんな、この子たちは座会傘下の冒険者だ。でだ、さっきソールバルトがちょっかいを出した女の子は銀猫獣人だ。わかるよな! 座会のカンゾウさんが可愛がってる子だよ。すぐに謝罪することをすすめる」


 場は騒然となる。

 こんな少年少女が座会の専属冒険者だと!


 大きな臭いおっさんこと、憤怒のソールバルトの行動は早かった。トトに向かってすかさず土下座したのだ。


 その顔は青ざめてる。


「俺が悪かった。あんたには近づかないようにする。許してくれ」


 なんだこれは、土下座しよった。

 座会の力なのか?


「おじちゃん、トトは別にいいよ」と即答。


 ウダユウは落ち着いたようだ。

 土下座するソールバルトを起こした。


「怒りにまかせてしまい申し訳ありませんでした。お怪我はありませんか?」


「お、おう、問題ない。俺こそすまなかった」


 ソールバルトのおっさんは力なく潮たれている。


「ダリアさん、破損した備品は俺が弁償しますので」

「いやいやいや、すまん。それは俺が弁償する」


 と、ソールバルトがウダユウの申し出に割り込む。

 本当に悪かった。全部俺の責任だから・・・と、


 ギルバートさんも、そのほうが、ゆくゆく丸く収まるからと。先輩がそう言うなら仕様がない。


「しかし、君は強そうだね。ソールバルトを力で抑えるなんて、しかも投げたよね」


 あ、はい。ウダユウ兄さんは大きな臭い人間を投げました。それは大きな放物線を描き、俺も驚きましたとも。


「今後の行方が楽しみだよ」


 行き先は厄災と魔物が跋扈する太陽の塔です。

 ちっとも楽しみではありませんです。


「何か困ったことがあったら相談にのるよ」


 ギルバートさんはそう言って自分の部屋に戻って行く。

 一騒動あった広場は三三五五と人が散って行った。




 一件は落着したが、用件が済んでいない。

 そうそう、物件を見学しにきたのだよ。


 しかし我々は、なんだか気まずい雰囲気になり、部屋を見学したものの、この高級アパートに引っ越す気はなくなった。

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