第9話 専属冒険者の契約を巻く
ポポが降臨した次の日。
俺はみんなと安宿の食堂で朝食を食べていた。
食堂は多くの客賑わい朝から忙しそうだった。
「相変わらず北部森林都市は閉鎖中だ。調査隊が派遣されたが音信不通だとよ」
「またか、調査隊は何回目だ?」
「知らねえな」
「あれから12年か早いもんだねぇ。厄災が棲み着いてるって噂だしよ」
隣の席に座る行商人の会話が耳に入ってくる。
キリは、この会話に小さく反応した。
小さな拳を、ぎゅと握り食事を中断する。
キリの出生地は北部森林都市だ。
ホビット族の多くは、この地方に住んでいた。
「キリちゃん、どーしたの?」
と、トトはキリの頭をなでる。
ポッケから干し肉を出し、それをキリに差し出した。
「ありがと、なんでもないよ」
笑顔で受け答えると、干し肉をトトに返した。
トトは首をかしげたが、ニヘッと笑いかえす。
「キリ、遠からず北部森林都市に行くことになる」
うん、と頷くキリ。
え、なにそれ、俺は知らないんですけども、
北部森林都市に行くだって、どういうこと?
疑問が湧き上がると、ウダユウが即答した。
「イチ、太陽の塔は北部森林都市にある」
あら、左様でございますか。
って、危険じゃねえか!
凶悪な魔物が跋扈していると聞くが・・・
「太陽の塔に行くのは簡単じゃない」
そりゃそうだろ、調査隊は音信不通だもの。
ますます、行きたくない。
すると、ドタバタと荒い足音がした。
「イチマツさーん!」
振り向くと見知った顔がそこにあった。
冒険者ギルド、人気受付嬢のマリエさんだ。
「おろ、どうした?、マリエさん」
「ギルドマスターがお呼びです」
え、なんでだよ!
「イチ、契約の件じゃねえか」
おお、そうだった。たぶん、それだ。
「マリエさん、すぐに向かいます」
「わかったは、私は先に戻ってるね」
ドタバタとマリエさんは戻って行った。
うむ、受付嬢も大変そうだと思う。
4人で冒険者ギルドの受付に行くと、マリエさんが出てきた。早かったわねと、一言、俺らを先導して応接室に招いた。
応接室にはギルドマスターがソファーに深く腰掛けていた。
太い上腕二頭筋が目に飛び込んでくる。
白シャツがパツンパツンであります。
白髪は短く、口髭はキレイに整う。
彫り深い顔立ちに鋭い眼光が俺らを見据えた。
英雄ペイジ・フランクリンだ。
おお、迫力満点だ。パチパチパチ、ちと感動する。
「D級冒険者のイチマツ・ウダユウ・トト・キリを呼んでまいりました」
マリエさんに紹介され、ペコリと挨拶をする。
「D級冒険者のイチマツです」
ウダユウ・トト・キリとそれぞれ挨拶をした。
「ギルドマスターのペイジ・フランクリンだ」
マリエさんが応接室を出ていくと、ソファー座るように指示された。
「座会のカンゾウからオファーがあった。まずは、おめでとうと言っておこう」
「あ、ありがとうございます」
「早速、座会からのオファー内容を説明する」
以下、要約。
・座会の専属冒険者とする。
・5年契約とする。
・座会の依頼を最優先する。
・年間報酬 イチマツ 1,000万ゼニ
ウダユウ 500万ゼニ
トト 500万ゼニ
キリ 800万ゼニ
・年間報酬の1割は冒険者ギルドのフィーとする。
・住居手当は賃料9割を座会が負担する。
・獲得したアイテムは座会又は冒険者ギルドで適正に査定し、その買取優先順位は座会を筆頭とする。
破格の条件を提示された。
えぇ、と俺らの年間生活費っていくらだっけ、1日に5ゼニだから、年間で1,825ゼニだ。最底辺の支出である。
D級で 1,500ゼニ〜3,000ゼニ
C級で 50,000ゼニ〜500,000ゼニ
B級で 1,000,000ゼニ〜5,000,000ゼニ
A級で 8,000,000ゼニ〜10,000,000ゼニ
上記は冒険者が普通に活動する年間報酬の金額で、依頼達成報酬と素材やアイテム換金の合計額となる。
イチマツ達に提示された金額は年間報酬として確定したもので、素材やアイテムの換金額及び特別報酬は別途となる。
格差社会だ。なんだこの数字は・・・
専属冒険者ってのは、こんなにも、か!
俺らはB級上位からA級上位の査定を受けた。
しかも、素材やアイテム換金は別途で貰える。
なんにも結果を残してないにもかかわらずに、だ。
身震いを起こす。
ウダユウを見ると口が空いていた。
「お前ら、これはおかしな話だと理解してるな?」
俺らは、こくこくと頷く。
「オファーどうする?」
「契約します」
ギルドマスターは、大きく頷くと契約書を取り出した。
俺とウダユウで契約書に目を通す。
問題がないことが確認できた。
ウダユウとの打ち合わせ通り契約を巻く。
朱肉用意され、全員の拇印を押していく。
「カンゾウは旧知の仲だ。おおよその話は聞いている。その話を聞いた上で、オファーの内容も納得した。その価値があるとな」
俺らは、こくこくと頷くばかりだ。
「しかし、問題がある。ギルド内でのバランスだ。突然の好待遇はやっかみを受けやすい。お前らは業績を積まないといけない」
「と、言いますと?」
「まずは、C級に上がるために実績を積め」
あまり考えてなかったが、やっかみは発生する危惧があるのか、そりゃそうだろ。この金額だ命だって狙われかねない。
羽振りよくやってると、足元掬われるかもな。
「マリエを専属の受付とする。都合いい依頼を回す」
「ありがとうございます」
「ギルド職員の根回しは済んでいるが、あまり派手に遊ぶなよ。装備品もしばらくは質素にしろよ。では、あとはマリエに引継ぐ」
「承知しました」
退室を促されたので深く頭を下げて応接室をあとにした。
マリエさんの元へ向かうと、冒険者が打ち合わせに使う個室に案内された。
「あなた達、やったわね。大出世じゃない。うらやましいわ」
マリエさんは、笑顔で俺らを褒めてくれた。
それから、今後について打ち合わせいく。
まずは、銀行だ。
冒険者ギルドの銀行口座を開設した。
パーティー専用の口座と個人口座を開設する。
契約書が座会に届けば、ここに年間報酬が入金される。
当面は座会からの依頼はないらしいが、冒険者ランクを上げろとカンゾウさんから指示を受けているらしい。
なので、ギルドマスターが言う通り、マリエさんが用意する依頼を受けることになった。
マリエさん、一通りの打ち合わせが終わると依頼を幾つか提示した。そのほとんどが、ポポのお花畑にまつわるものであった。
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