第6話 ドロップアイテムを換金することについて

 ダンジョン:ポポのお花畑、の帰り道。

 その戦果を皆で共有した。


 ゴブリンの右耳30個×5ゼニ・D級魔石24個×100ゼニ・B級魔石1個×10,000ゼニ・レッドキャップナイフ1本×不明・レッドキャップカード1枚×不明。


「ウダユウ、これ幾らくらいだ」

 

 俺はドロップ品が入ったサックを指差した。


「レッドキャップナイフとカードはわからんが、魔石と耳で、ざっと12,550ゼニくらいだな」


 え、12,000ゼニ以上!

 ええっと、俺ら、1ヶ月の生活費は600ゼニだな。

 20ヶ月分以上あるぞ。


 凄まじい戦果を叩き出した。


「トト、キリ、20ヶ月分もあるぞ!」


 トトの尻尾はピンっと真直ぐ伸び、

 また「肉の日だ」と呟いた。


 そんなトトにキリが抱きつき、牛が食べれるかも、と囁く。


「ミャー!」トトは絶叫した。


 それを合図に、俺ら4人は、狂喜乱舞する。

 あの貧乏生活は何だったんだ。世界が一変するぞ。


 なんか、嬉しくて涙がこぼれそうだったのは内緒だ。




「イチ、問題がある」

「問題とは、なんぞ?」

「俺達に実績がない。駆け出しのD級冒険者だ」

「おう、そうだな」

「盗品を疑われるかも、だ」

「あ、ああ、・・・そうなるか」

「耳だけでも怪しい、30個もある。冒険者ギルドには、出せて耳10個にD級魔石1個ってところだ」

「他で換金できないか?」

「店と直接の取引は足元をみられるぞ」

「んじゃ、どーすんだ。B級の魔石だってある」

「B級魔石か、それが一番の問題だな。レッドキャップのナイフとカードだってそうだ。相場すらわからん」


 トトの尻尾がだらりと落ちた。


「に、肉の日が・・・」

「トト、大丈夫だよ。カンゾウさんがいるじゃない」


 キリが答えを導きだした。


 カンゾウさん。その人は座会最高幹部の1人、王都商業ギルドの重鎮でもある。トトと同じ銀猫獣人であり、希少な同族、トトを可愛がっていた。


「そっか、カンゾウ兄様にお願いすればいいんだ!」


 だが、俺とウダユウは身震いをした。

 座会のカンゾウと聞けば、裏社会も口を閉じるのだ。


 トトとキリには滅法甘く、俺らには鬼の様に厳しい。できれば避けて通りたい。ま、まあ、散々ぱらお世話にはなっているのだけれど・・・


「ウダユウ、答えはでたな」

「う、これは仕方ないな」

「明日、カンゾウさんに会いにいくか」




 打合せ通り、冒険者ギルドでゴブリンの右耳10個とD級魔石1個を換金した。買取カウンターで耳とD級魔石を渡すと150ゼニを受け取った。


 俺らにとって150ゼニは、まとまったお金と言える。肉をたらふく食えるはずだ。


 牛肉は、ちょっとむりだが。


 トトをあれだけ、煽ったのだから、約束通り肉の日とした。


「ええ本当に?、今日は駄目だと思ってた」

「牛肉以外なら、なんでもいいぞ」


 とは言え、俺らは安宿街に軒を連ねる屋台しか知らない。だってほら、干し肉でさえ御馳走に思える境遇なんだから。


 トトに好きな店でいいぞ、と言う。彼女はモツ肉専門屋台に飛び込んでいった。


「はは、まあそうなるわな。ウダユウ、今夜は酒でも飲んでみるか?」 

「おお、いいな、飲んでみるとするか」

「私も、飲んでみたい」とキリも賛同した。


 早速、トトが店のオヤジに、モツをいっぱいと、注文している声が聞こえた。

 

 ちょうど、安宿街の屋台が賑わう時間帯だ。

 俺らも、初めての酒をたのんでみた。

 羽目と言うものを、はずしてみるか。


 そんな夜は、最高に楽しかった。




 次の日、座会に赴きカンゾウさんを訪ねた。


 ウダユウとキリは、二日酔いで倒れていた。

 俺はウダユウを激しく疑ったが、真っ青な顔で、すまない、と言う。うぬぐぐ、仕方あるまい。

 なので、俺とトトの2人で面会だ。




 カンゾウさんの執務室に通された。 

 書類の処理中なのか、机に向かってカリカリとペンを走らせている。


「カンゾウ兄様、おはよー」

「おはようございます」


 ペンが止まる。


「トト、ちょっと待ってくれるか、そこに座ってろ」

「はい」


 ペンが再び、カリカリと走り出す。


 カンゾウさんは35歳くらいだ。座会の幹部としはとても若い。銀髪はトトと同じだ。背も高く均整のとれた体格をしている。いまだ独身だ。さぞかしモテるのだろう。


「イチマツ、お前も座れ」

「あ、はい」


 座会とは、商会のことだ。フィツベル王国でも最大手となる。表と裏を牛耳る組織で、その幹部となれば大物貴族の権力に匹敵すると言われていた。カンゾウさんは裏側に影響力があるらしい。うん、やっぱり怖いよね。

 

 トトは用意された紅茶と茶菓子を遠慮なく頬張っていた。俺は緊張して指一本動かすのにも間違っていないかと気を使う。


「待たせたな。お前らからここに来るのは、めずらしい、どうした?」


「カンゾウ兄様、昨日は肉の日だったの」

「ん、そうか、美味しかったか?」

「うん、たくさんお金がもらえたから、いっぱい食べられたよ」


 おい、トトさん。質問に答えてないぞ。

 カンゾウさんは、それで何の用事だと俺に視線を送る。


「ドロップ品を換金して欲しくて参りました」

「ほう、見せてみろ」


 俺は目の前のローテーブルにドロップ品を並べた。 


「イチマツ、盗品じゃないだろうな」

「カンゾウ兄様、違うよ。昨日、ダンジョンでドロップしたものなの」


 トトは、ニヒヒと笑顔で即答する。


「うむ、トトは頑張ってるな」

「うん」

「それにしてもだ。B級の魔石がある。どう手に入れた?」

「レッドキャップを倒したんだよ」


 トトが、すべて返答してくれる。


「そのナイフとカードは、レッドキャップのドロップか?」

「そう、すごいでしょ」

「ああ、とんでもないな。特にカードだ」

「そうなの?」

「ああ、カードの話は後だ。なぜ倒せたかを、知りたい」


 俺はカンゾウさんに、スキルを獲得したことを話した。

 トトが罠を踏んでから、昨日のレッドキャップ討伐までの経緯を説明した。


「イチマツ、誰かにそのことを話したか?」

「いや、誰にも話してないです」


 カンゾウさんは沈黙した。深く考えているようだ。


「・・・イチマツ、その件は誰にも話すな」

「は、はい」

「特に、お前の能力とキリがハイホビットであることだ」

「ハイホビットですか?」

「ああ、伝説の種族、その1つなる」


 おお、ウダユウが言ってたことと同じだ。

 まじで、伝説少女だったんだ。


「お前の能力は・・・、モノリスの因子だと思われる」


 モノリスの因子・・・どっかで聞いたぞ。

 それも、ここ二三日の間に・・・気を失った時か?


 カンゾウさんは、いつになく真剣な表情だ。


「俺も詳しくはない。だがな、モノリスって単語は太陽の塔に繋がる。ハイホビットもそうだ。・・・でだ、それらは国が乱れる時に出現する」


 カンゾウさんが、意味不明で意味深なことを言い出した。


 そして、カンゾウさんは、国内情勢の話を語りだす。俺とトトには、さっぱりわからん話だが、どうやらフィツベル王国に動乱の兆しがあるらしい。


 いまいち把握できない、どういうことよ。





「とにかく、今日の要件を済まそう。魔石とナイフは買取ってやる。カードは、イチマツ、お前が大事に持っとけ、役に立つときがあるだろう。レッドキャップナイフはB級装備品になるが、買取っていいなら50万ゼニだそう」


「5、50万ゼニ!」

「魔石と併せて512,300ゼニだ。ゴブリンの耳はいらん。冒険者ギルドで処理しろ。それでいいか?」


「お、お願いします」


「あとな、お前ら座会の専属冒険者にならんか?」


 なぬ、一流の証、専属契約のことか!

 B級以上になると国や商会から、冒険者ギルドを通して専属契約のオファーがあると聞く。


「トトの豪運が本当なら、契約したほうがいいだろうな」

「カンゾウ兄様、本当だよ」

「ああ、そうだな、カードのドロップがその証拠になる。俺もはじめて見た。トト、良い物を見せてくれてありがとな」


 トトは褒められて、ニヘッと微笑む。


「一応、契約ごとなので、ウダユウに相談させてください」


 カンゾウさんは、うむ、と頷く。


「おう、しっかりしてるな」

「ウダユウに口酸っぱく言われてます。勝手に契約は結ぶなと」

「そうだ、ウダユウが言うことは正しい。では金を用意する」


 カンゾウさんが執務室を出ていく。


「イチちゃん、今日も肉の日?」

「ああ、今日も肉の日でいくか」

「やったー」


 トトの尻尾はご機嫌だ。ピンッと立ち上がっている。


 カンゾウさんが戻ってくると、硬貨を並べた


 金貨5枚・銀貨12枚・銅貨3枚。


 銅貨すら手に届かなかったのに、まるで夢のようだ。

 小袋にしまう手が、震えた。


「イチマツ、冒険者ギルドにオファーを出しておく。ウダユウとしっかり相談しとけ」

「は、はい」

「座会は手厚い。おすすめする」

「わかりました。ありがとうございます」



 それから、カンゾウさんとトトが雑談をする。

 それは、トトが日常であった、楽しかったことを一方的に話している風景だった。




「カンゾウ兄様、またくるね」

「いつでも待っているぞ、トト」


 俺らは、深くお礼の挨拶を済ますと座会をあとにした。



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