殺し屋?いいえうちの嫁です

沙水 亭

殺し屋?いいえうちの嫁です

[『殺し屋』と『会社員』の朝]


佐々木ささき君、君は「殺し屋 ユリア」を幸せに出来るのか?』

『絶対に幸せにしてみせます。「殺し屋 ユリア」に殺された、佐々木ささき たけるが…。』


(懐かしい夢を見た、あれは結婚した時の…)

「…いい加減起きないか!」

佐々木ささき ユリア』の声と同時にドスッと鈍めの音と痛みが布団越しの『佐々木 たける』に響いた。

「ふぐぅお!?」

男として情けない悲鳴が上がった。

「おはよう、朝食の用意は出来ている、冷めないうちに食べよう」

ユリアの容姿は白色に近い銀色の髪、黒の瞳をしていて、一般の日本人女性より少し小柄な容姿をしている。(補足で年齢は26歳剛も同じ年齢である)

「てっ…手加減してください、ユリアさん…」

「…善処する」

手加減をしたつもりなのだが、と小声で呟くユリアだった。


…ー食卓にてー…

「ユリアさんは今日からお仕事ですか?」

ユリアは結婚した際に会社から一年の休暇をもらっていた。

「あぁ、今日から仕事だ…。」

ユリアは悲しげな声で剛の質問に答えた。

「やっぱり、人を殺めるのはつらいですよね…」

「あぁ、つらい、君から離れるのがつらい!心苦しい!」

ユリアは剛にぞっこんだった。

「…え~っと、人を殺めるのは?」

「ん?私が殺しているのは凶悪犯罪者だぞ?」

ユリアは普通の殺し屋ではない。

ユリアが所属している組織は国際的に認められている殺し屋、もとい特殊戦闘組織『actor《アクター》』と呼ばれている。

「だが、人を殺めるという行為はとても心が苦しくなる、一時期仕事に病んで有給を取ったりもした。」

「…ユリアさんにそんな過去が…、大丈夫です!ユリアさんは僕が支えます!」

(…殺し屋って有給あるんだ)

「…また君はそんなことを言って…私がますます仕事に行けなくなるじゃないか!」

《…○○テレビが8時30分をお知らせします》

『!?しまった!!』

「とりあえず、私は食器を洗う!君は…」

「はい!僕は戸締まりを」


「それではユリアさん行きましょう」

「あっ、そうだ」

ユリアは剛に『行ってきます』と『行ってらっしゃい』の意味を込めたハグをした 。

「ユ、ユリアさん!?いったいなにを?」

「なにって『行ってきます』もとい『行ってらっしゃい』を込めたハグだが?」

ユリアは不意打ちが得意でよく剛の心拍数をはね上げさせる。

「…君はしてくれないのか?」

「わかりました」

剛はユリアを抱きしめ

(愛してるよ、ユリアさん)

「!?」

ユリアは驚き赤面した。

「なっ、なにを言っているんだ君は!?」

「…遅刻しますよ」

「うぅ、わかった」

ひと悶着あったが二人はそれぞれの仕事へ行った



[殺し屋]


actorアクター」…殺し屋もとい特殊戦闘部隊この組織の正確な本部は判明していない。


ユリアのミッションはとある密売人の始末だった。

その密売人は国で禁止されている大麻の違法栽培を行い、警備の目を出し抜いて販売している。

ユリアはその密売人を始末するためターゲットの居るビルから近い高層マンションの一室でライフルを構えて機会をうかがっていた。

『やっほーユリア、元気にしてた~?』

無線越しに女の声が聞こえる。

彼女はユリアの同僚で名を『カレン』

『カレン』はレーダー、諜報、予測etc.

主にユリアのサポート役でいつも的確な情報をくれる。

「カレンか、そっちこそ元気か?」

『えぇ、元気よ~、それで?旦那さんとは良いカンジ?』

「…朝からいつもの仕返しをされた」

『あら?もう愛想つきちゃった?』

「…違う、心臓が跳ね上がった」

『は?』

ユリアはカレンに今朝起こったことを話した。

『…羨ましい、妬ましい、ねぇ?どうしたらそんな人と出会えるのよ、教えてよ!』

「うるさい!教えるもなにも貴様が開いた合コンのせいだろうが!」

『…今夜もやけ酒ね、さてユリア?そろそろターゲットが来るわよ』

「…了解、ターゲット確認…」

ユリアは愛銃のトリガーに指をかけ、発砲

ターゲットの死亡をカレンがドローンで確認これがユリアとカレンなりの始末方法だ。

『ひゅ~、流石ね 』

「これも、お前のサポートのおかげだ」

『あら?貴女そんな性格だっけ?…もしかして旦那さんのおかげかしら?』

カレンは少なからずユリアの豹変ぶりに驚きを隠せなかった。

「…そう、かもな」

『それじゃあ、もう今日の仕事は終わりよ、旦那とイチャついてきなさい』

「そうさせてもらう」

『…はぁ、今日はお高いワインで決まりね』

actorは基本的に1日1つの仕事で終わる、何故なら人を殺めることはたとえ殺し屋でも心にくるものがある。

そのため心を落ち着かせるために1つの仕事で抑えている。

こうして仕事を終えたユリアは帰路についた。



[会社員]


佐々木ささきたけるはとある企業に勤務している。


「佐々木君、君もうやっちゃったのかい?」

彼は剛の上司で名前を「柳生やぎゅうじん」入社してから剛のことを気にかけてくれている。

「すみません」

「いや、別に怒ってるわけじゃないからね?ただ、上から君に過労の疑いがでてきてすこし僕が注意されただけだから」

「…なおさらすみません、これから気を付けます」

「それはそうと、佐々木君、明日は結婚記念日だろ?」

「はい、それがどうか?」

「明日はゆっくり羽を伸ばして来るといいよ」

「えっ、でも明日は仕事が…」

「心配ご無用だよ佐々木君」

剛との後ろから声が、彼は主任の「加藤かとう俊治しゅんじ」剛とユリアが出会うキッカケとなった人物で社内での印象も良い。

「明日は有給で処理した」

「へ?」

剛は驚きのあまり気の抜けた声を出した。

「主任の言った事は本当だよ佐々木君」

「いやいや、このままだと納期が…」

「佐々木君、君の仕事はまだ納期が1月も先だよ?焦ることは何もない」

「迅君の言う通りそう焦ることもないよ」

「と言うわけで君はこれから明日に続き土日と三連休だ、奥さんとハネムーンにでも行ってきなさい」

「なんて、むちゃくちゃな」

ドン引きする剛に主任は

「それが許される会社に君は居るのだよ」



[first Honeymoon…のはずが]


剛はいつもより一時間速く帰宅した。

「ただいま」

「む、おかえりいつもより速いな」

ユリアが玄関まで出迎えてくれた。

(エプロン、だと!?)

「…ふつくしい」

「!?な、なにを言っているんだ君は!?」

「ユリアさん、何着ても似合いますね」

「そ、そうか」

(変化球すぎる!危うく私の心臓が吹き飛ぶところだった)

「と、とりあえず夕飯は出来てる。冷めないうちに食べてしまおう」

「そうですね、僕も話たい事がありますから」

「?」


…ー食卓にてー…


夕飯は白米に鮭の切り身、味噌汁といったいかにも『和』というものだった

「ふぅ、ご馳走さまです」

「うむ、お粗末様」

「それじゃ、僕が洗い物をしますね」

「ありがとう助かる」

剛は洗い物を済ましリビングへ向かった。

「それではユリアさん」

「な、なんだ」

(まさか、離婚話じゃないだろうな?)

「実はですね、僕は明日から3日間の有給を貰いました」

「む?それがどうした?」

「主任と上司からこんな提案がありまして」

「ほうほう」


…ー会社にてー…


『佐々木君、ハネムーンの話なんだが』

主任の『俊治』はパソコンとにらめっこしている剛に話をしていた。

『まだ、ハネムーンに行くとは言ってませんよ?』

『まぁ、とりあえず聞いといたほうが良いんじゃない?』

『主任…』

『佐々木君、話の末端から言わせて貰うとハネムーンは『滋賀県』に行ったほうが良い』

『滋賀県?言っちゃ悪いですが滋賀って琵琶湖以外に有名な物ってありましたっけ?』

『…佐々木君、滋賀にはねいろんな観光地があるんだよ』

『たとえば?』

『たとえば、近江大橋や安土城跡地、彦根城などがある』

『へぇ~他にはなにがなんでもあるんです?』

(おっ、佐々木君が食いついた)

『他には佐々木君ご存じ琵琶湖、それも神社から見る景色は想像を絶するほどさ』

『そんなにキレイなんですか?』

『あぁデートスポットにおすすめだよ?』

『…わかりました、ハネムーンは滋賀県にしてみようと思います』

『おお、そうすると良いよ!』


「…ってことがあったんです」

「…すまないが私は明日も仕事が…」

『着信音』

水を差すようにユリアの携帯から着信音楽が鳴った

「すまない、少し席を外す」


「はい、もしもし?」

『ヤッホーユリア?』

「なんだ?カレン」

電話の主はカレンだった

『実はね?明日の仕事なんだけど』

「ほう」

『ターゲットが警察に逮捕されたのよ』

「…へ?」

突然の出来事に

『…明日の仕事は無し、お休みよ』

「…そうか、ありがとう、おやすみ」

『それじゃぁ、私はワインを飲ませていただくわぁ』


「すまない」

「いえ、大丈夫です、それじゃぁハネムーンはまた別の日にですね」

「あぁ、その話なんだが」

「はい?」

「明日休みになった」

「へ?」

さっきまで明日は仕事って言っていたユリアから出てきた言葉に剛は驚きを隠せなかった。

「それはどういう」

「…明日の仕事のターゲットがさっき逮捕されたらしい」

「だから、その、し、新婚旅行に行ける」

「そ、それじゃぁ早速準備を」

「…そういえばホテルか旅館の予約は入れたのか?」

「あ」

迂闊だった



[Let's Go Honeymoon]


翌日…

「さて、ユリアさん行きましょうか」

「そうだな」

ユリアと剛は滋賀県へ行くために駅へと向かった。

「滋賀県ってどんなところなんだろう」

ユリアは初めて別の県へ行くのだ、しかし不安ではなかった、愛する人を前にそんな無様な姿は見せたくなかったのだ。

「主任曰く、湖が綺麗なところらしいです、ついでに主任の出身地」

「湖が綺麗なところか、期待大だな」

ここで次の駅のアナウンスが流れた。

「そろそろ着くらしいです」

「とりあえずまずはどこに行くんだ?」

「う~んとまずは2泊するホテルに行って荷物を置きに、そこからはガイドさんが案内するらしいです」

「ガイド?どんな人だ?」

「さぁ僕も主任から聞かされたので」

「…なんだか嫌な予感がする」


ホテルに荷物を置いてホテルの玄関を出た、その時。

「やっほー、ユリア元気そうね」

「カ、カレン!?何でここに!?」

「俊君にガイドを頼まれてね~」

主任の言っていたガイドはカレンだった。

「カレンさん!?何でここに!?」

「う~ん同じリアクション、本当にお似合いなのね」

「カレン、確かガイドで来たって言ったな?」

「うんうん、俊君に頼まれてね」

「お前と俊治さんはどういう関係なんだ?」

「幼馴染みってところかなぁ」

「そうか。それじゃガイドを頼む」

「OK!カレンお姉さんに着いてきなさ~い」

「…僕存在空気でしたね」

「…カレンは自分のペースに飲み込むのが得意でな、情報採取の基本らしい」



[観光地名所巡りの旅]


「はぁい、まずここが名所の一つ城跡地、気分は信長、足取りは秀吉、心構えは家康ってかんじで見ていこう!」

「…何も無い」

「…何も無いですね」

「なんてことを言うのよあなた達、パンフ渡したでしょ?日本人なら信長公くらい知っときなさい?」

「わたしは日本人ではないのだが?」

「さぁ、軽い足取りで階段を上るわよ!」


「さぁ、次の名所は城跡地から移動して今度はちゃんと形のある城よ!」

「結構移動しましたね。ん?」

突然ユリアが剛の袖をツンツンと引っ張った

「…なんだあのかわいい生物は!?」

「かわいいですね、猫ですかね?」

(珍しくユリアさんが興奮している。かわいい)

「あ~、あれはゆるキャラね。とてもかわいいわよ」

「名前は何て言うんですか?」

「…そこは大人の事情ということで」

「「?」」


「さぁ、来ました!今回の大目玉、神社!」

「…綺麗な神社だな」

「えぇなんだか神聖な空気です」

「ふふふ、君達俊君がそれだけだと思ったら大間違い!本当の目的は」

「すまんカレン少し待っててくれ」

「すみません少しだけ失礼します」

「…あいつら人の話聞かずに絵馬書きに行きやがった」


「書き終わった?」

「あぁバッチリ書いてきた」

「えぇしっかり願い事してきました!」

存分にお願い事をしてきた二人。

「さて、目的は神社観光だけじゃなく、本来の目的は…」

「本来の…!?」

「目的…!?」

「あの夕焼けよ!」

「「おお!?」」

剛とユリアは神社入口から見える湖と夕焼けに感動した。

しばらく夕焼けを眺めていたとき

「ふふふ、それじゃわたしはここでおいとまさせていただくわ~」

「「えっ、ちょ」」

「何よカレンお姉さんともっと遊びたいの?」

「いや、帰りかたがわからんのだが」

「…仕方ないわね」

カレンに着いて行きホテルへ戻った。



[博物館]


湖を一週する勢いで観光した次の日

「さぁ今日は博物館に向かいましょう」

「博物館?」

「ええここには有名な博物館があるらしいです。」

「ほう、どんな博物館だ?」

「なんでも、様々なものが展示されているそうですよ」

「う~ん情報が少ないな、まぁ取り敢えず行ってみるか」


とある博物館にて…

「おお綺麗な博物館だな」

「主任が言っていた通りですね、取り敢えず色々見てまわりましょう」

最初は水生生物のコーナーへ

「…ふむ、これがビワコオオナマズ…大きいな」

「なんだか見ていると可愛く見えてきますね」

「…蒲焼きにしたら旨そうだな」

「…本気ですか?」

「ふふふ、さぁてな?」

その後二人は様々なコーナーをまわった。

二人はお土産コーナーにて世話になった人達へのお土産を、選んでいた。

「ふむ、カレンにはこれだろうか」

「主任にはこれ、上司にはこれ、と」

ここでユリアが何かを思い出した。

「あ、姉さんの忘れてた」

「え?ユリアお姉さんいたんですか?」

「…まぁ、いるにはいるんだが…」

「なにかあったんですか?」

「…姉さんはactorのリーダーなんだ」

「へ?リーダー?」

「リーダーなんだが、その」

珍しくユリアがキッパリと言葉を発さなかった、この事に剛はすこし物珍しく思っていた。

「…姉さんは、シスコンなんだ」

「…あ、はい(察し)」

「私が結婚するって知った時は君を本気で殺しに行く勢いで立ち上がっていた」

「…恐ろしい」

話を聞いていて背筋が凍えそうになった剛なのだった。



[温泉にて]


二人はお土産を買ったあと旅館へと向かった。(ホテルは1日目だけ)

「…ユリアさんよかったんですか?混浴で」

「かまわないさ、それにカレンにも言われたからな」

ユリアはカレンに『結婚してんなら混浴の一つや二つくらいあるんでしょ?』

『いやまだないが』

『は?ない?』

『あぁ』

『混浴行ってこい!この惚気のろけどもが!』

『惚気は関係ないのでは?』

というやり取りをしていた。

「…ユリアさん、行きますよ」

「ま、待ってくれ心の準備が」

今更になってユリアに羞恥心が出始めてなかなか暖簾のれんをくぐれなかった。

「よし、行こう」

そのとき剛が見たのは…

すっからかんだった、人っ子1人居やしない。それはユリアにとっては救いだった(もちろん剛にとっても)

二人は衣服を脱ぐと温泉へと向かった。

「ユリアさんまずは体を洗いましょう」

「そうだな」


「さて、湯加減はどうかな?ふむふむいいかんじですね」

剛は湯加減を確認するとすぐさま温泉に入った。

「癒されますねぇ~」

「…熱い」

「ユリアさん無理しないで入らなくても隣に少しぬるい温泉ごありますから」

「むぅ私は君と共に入りたいのだが」

「…それじゃぁ隣に行きましょう」

(危うく心臓と頭が破裂しそうだった、いやこれからか…)

「これなら熱くはないな」

湯加減を足で確認するユリアを見て自然と剛は笑みを浮かべていた。それはまるで子供をみる親のよう。

「改めて思うんですけど」

「ん?」

「ユリアさんって結構スタイル良いんですね」

「そうか?姉さんのほうがスタイル良いぞ?」

「ですけど僕はユリアさん一筋です」

ユリアは赤面し

「…ありがとう」

感謝の言葉を述べた。

「…さて入りましょうか」

「…そうだな」

入浴した。


ひと風呂浴びてホッコリした二人は定番と言えるコーヒー牛乳を飲んでいた。

「まず蓋を開けます」

「こうか?」

「そうです、そして…」

「そして?」

「一気飲み!」

「い、一気飲み?」

困惑するユリア。無理もない、日本生まれ日本育ちの剛と、海外で生まれ海外で育ったユリアとはコーヒー牛乳の飲み方一つ違うのだ。

「こ、こうか?」

「そうですそうです」

「…悪くないな」

「ふふふ、これぞJapanese ONSENの醍醐味ですよ」

「そうなのか?」

「…個人差があります」

こうして二人の初新婚旅行は幕を閉じたのでした。めでたしめでたし。


[???]


「なに?違法取引がバレた?」

「はい、おそらくグループに裏切り者がいたようです」

「さっさと裏切り者をあぶり出せ、炙り出して吐かせろ」

「ハッ、では行って参ります」

「それと、『シンデレラ』に気を付けろ」

「了解です」



[突如訪れた静寂]


剛はいつもの通り仕事を終え帰宅した。

しかしいつも出迎えてくれるはずのユリアが来ない。

不審に思った剛はリビングに向かうと、一つの紙が置かれていた。

紙には『すまない、少し買い物に出かけてくる。ユリア』と書かれていた。

しかし剛は違和感を抱くユリアは携帯を持っているはずで、いつも買い物なら携帯で連絡するはず、それにユリアは携帯の充電をし忘れることなどなかった。

とりあえず剛は身近でユリアに関係のあるカレンに電話をかけてみた。

「もしもし?カレンさん?」

『は~いカレンお姉さんですよ?』

「カレンさん、ユリアさんを知りませんか?」

『ユリア?ユリアならもう帰ってるはずでしょ?』

「それが、帰ってきたら一枚の紙が置かれていて」

『紙…ねぇその紙には他になんて書いてあったの?』

「いえ、特には」

『紙の裏は見た?』

「紙の裏…」

剛は紙を裏返し見た、そこには数字の羅列があった。

数字は321456987*21478963*321456987、と書かれていた。

「カレンさん、裏に、321456987*21478963*321456987、と書かれていました」

『…なるほどね、剛君、それはSOSの信号よ』

「え、SOS?」

『えぇ、携帯のキーボードと数字を当てはめるとSOSとなるのよ』

この数字の一つ目は3から始まり7で終わるなぞるとs、二つ目は2から始まり3で終わるなぞるとoとなり、最後は一つ目と同じsとなる。

「ではユリアさんは助けを求めていると?」

『えぇ、いまユリアの携帯をハッキングしてGPSを起動させたわ』

『ユリアはいま剛君のいるところから約1km北に行った廃工場、ベタな誘拐場所ね』

「では今から向かいます!」

『…そうね、今すぐ向かって上げなさいな』

「それでは!」

剛は電話を切った。

「ユリアさん、今から行きます!」


一方カレンは…

「はぁ、かなりの緊急事態ね」

カレンはため息をつきながら固定電話をとりとある番号を打つ。

「もしもし?緊急事態なんだけど、救援頼めるかしら?」

『場所は?』

「場所は例の事件があった場所」

『了解』


ユリアはというと…

「チッ、なんなんだこの女、睡眠剤打ち込んでも全然堕ちねぇじゃねぇか!」

男は拘束したユリアに注射器に入った薬剤を打っていた、しかしユリアには薬剤耐性があるのでなかなか効き目がでなかった。

かしら、やはりこいつ人間じゃないですよ!」

頭と呼ばれる男がユリアの前に立ち

「流石は『殺し屋ユリア』並み以上の耐性をもってやがる」

「こいつがユリアってやつですか?」

「あぁこいつのせいで俺らの計画が台無しだ」

「こいつが例の裏切り者っすか?」

「いいや、裏切り者を保護した、さて」

頭はユリアの顔をつかみ。

「てめぇ、あの裏切り者をどこにやった?」

「さぁ、わからんな、地中海にでも沈んでるんじゃないか?」

ユリアはシラを切った

「ハッ、ならてめぇも一緒に地中海の底にバカンスにでも行くか?」

「私はそこらの池の底が良いな」

「さっさと吐けば沈めずに済むんだがなぁ?」

頭が尋問していると見張りの手下の男がやってきた。

「頭!なんか入り口に妙な男が」

「はぁ?なんだ追い返せ」

「そうしてるんですが、全然話を聞かなくて」

「…わかった、お前達はこいつを見張っとけ」

「了解です!」


「さっさと立ち去れ、ここはあんたのような一般Peopleが立ち入る場所じゃねぇ」

「帰るさ、ユリアさんを返してもらったら」

剛は強がって頭に言った。

「ほほう?あの女を知ってるのか、ならあんたは一般Peopleではないな、ん?」

頭は剛の左手の薬指にはまってる指輪(ユリアと同じもの)を見て。

「へぇ、あんた、あの女の旦那か?」

「それがどうした」

「お前をあの女の前でいたぶれば、情報を吐くかもしれん」

「なっ」

「お前達、この男を女の前に連れていけ」

「了解です頭」

「は、離せ!」


剛は男達に連れていかれた。

剛が連れていかれたところはユリアがいる廃工場の奥だった。

「ユリアさん!」

「な!?なぜ君が!」

いつも冷静沈着なユリアが驚いた。

「さて、感動の再会はここまでだ」

頭が剛の前まで歩いてきて。

「ユリア、もう一度聞こう…裏切り者をどこにやった?」

「…知らない」

頭は剛の顔を蹴り飛ばした。

「グッ!」

剛はたまらず苦痛の声を漏らした。

「な!?」

ユリアは手錠を解こうとするが虚しく、カシャンカシャンと音が鳴るのみだった。

「さて、もう一度聞こう…裏切り者をどこにやった?」

「…奴は」

「だめです!言ってしまえばこの男の思惑おもわく通りになってしまいます!」

剛は情報を言おうとするユリアに言ってはダメだと大声で叫んだ。

「だが!君が傷つくのはもう…」

「…美しい夫婦愛…ねぇ」

頭は優しげな笑みをこぼしながら剛の顔を掴み。

「安心しな情報をくれればお前たちはいつも通りの日常に戻れる、なぁ?たった一つの情報でお前は傷つかずにすむんだからよぉ」

頭は剛の右腕を蹴り飛ばした。

「がぁ!?」

腕に激痛が走り、感覚が無くなっていった。

「黙ってろ」

頭はそう言い捨てるとユリアのもとへ戻り。

「これが最後だ、裏切り者をどこにやった?」

「…奴は…」

ユリアが言おうとした…


一方その頃


パリンと二階部分の窓ガラスが割れた。

「なんだ!?」

手下の男が確認に向かう。

「…石?イタズラか?…ごふっ」

「…少し眠ってなさい」

手下はその場で崩れ落ちた。

「おい、なんかあったのか?」

もう一人の手下がやってきた、が侵入者は身軽な動きで手下の目の前へ行き。

「なんだ!?この女!」

「ふん!」

侵入者(女)は素早くハイキックを繰り出した。ゴッと鈍い音が鳴り手下は静かに倒れた。


時は戻り


「か、頭!!」

「あん?なんだ」

手下の男はとても慌ただしい様子だった。

「侵入者が!」

「侵入者?誰だ」

「女です!もうすでに2人やられました!」

「…てめぇの差し金か?」

頭はユリアに問い詰めるが。

「私は知らない」

「…ならお前は」

剛に問い詰めるが。

「身に覚えがない」

「…なら、ここの居場所がどこかで漏れていた?」

頭がそんなことを呟いていると。

『鈍い男は嫌われるわよ?』

奥から女の声が聞こえてきた。


[血を被ったシンデレラ]


「誰だ」

頭は女に質問をする。

「ユリアの姉よ」

女はユリアの姉だった。

「姉だぁ?心配で見に来たってか?うちの部下を倒して?」

「えぇそうよだって、この世にたった一人の妹だもの」

「…姉さん」

「あれがユリアさんのお姉さん…」

ユリアの姉は剛の前まで来ると。

「…とても勇敢だったわ剛君、だけど勇敢と無謀は別物よ?」

剛の勇敢な行動を称賛した。

「そんで今から10対3をするってか?これでも一応全員暗殺も戦闘も出来る特殊部隊なんだが?」

「知ってるわよ、βベータチーム」

「…何故知っている」

「そりゃ、BOSSだもの」

「まさか!『シンデレラ』か!」

「ご名答、さて密輸、監禁、拉致などなど。こんなことしてただで済むなんて思ったら大間違いよ?」

「頭、どうします」

先ほどとは一転頭は見てわかるほど真っ青な顔になっていた。

「…このままだと俺たちが皆殺しにされてしまう」

「「!?」」

「『シンデレラ』はそこの『殺し屋ユリア』とは違う、一人で軍隊の一個小隊をものの数秒で壊滅させる化け物だ。そんな奴からしたら俺らはチンピラ同然」

「そんな、それじゃぁ俺たちは」

手下の男達はとうとう弱音を吐いた。

「いや、まだだ、まだ最終兵器が残ってる」

「!!そうかあれを使うんですね頭!」

頭は頷くとユリアと剛を助けている隙を突いて手下の2人を奥へと行かせた。


「…さて、大丈夫?2人とも」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとう姉さん、どうしてここが?」

「それはね、カレンちゃんが教えてくれたの」

「カレンさんが?」

「えぇ、彼女は最初から私が必要だったてわかっていたのね」

そう言うと彼女は立ち上がり頭たちに向けて。

「さて、それじゃ始めましょうか」

と言い放った。男たちは少し笑ったかのように見えた。


[舞踏会の始まり]


ユリアの姉がユリアと剛を助けるために敵の陣地に踏み込んできた。

「ユリアさんのお姉さん、男が何人かいませんが」

剛が違和感に気付きユリアの姉に報告する。

「…2人ほど足りないわね、それと私のことは『ジュリア』って呼んでね?」

「はい、ジュリアさん」

「…とりあえず警戒しておいたほうが良さそうだな、姉さん(なんだか胸の中がモヤモヤする)」

ユリアはささやかな嫉妬をしていた。

「さて、お話は終わったか?」

「えぇ待たせちゃった?」

「ふふふ、そう言ってられるのも今のうちだぜ?」

頭は不適な笑みを浮かべていた。

「?何を企んでいる」

ユリアの質問に頭は答えた。

「さすがに『殺し屋ユリア』と『シンデレラ』がいるんじゃ勝ち目はねぇ…だが」

「ここら一帯を吹き飛ばす砲撃を受けたらどうなるだろうなぁ?」

「…超巨大な大砲があるとでも言いたそうね?」

「姉さんそうだった場合全員…」

「そうね、木っ端微塵よ」

「ほう、勘がいいじゃねぇか」

頭は感心したような表情で続ける。

「お前も男なら少しは知ってるよな?」

剛に向かって発言した。

「何をだ」

「戦車の一つや二つはよぉ」

頭は奥のガレージに向かい手招きした、すると。

シャッターが音を起てながら上へ上がった。

「これって…」

「ほう、知ってるようだな」

「…su-85」

「正解、ソ連時代の駆逐戦車だ」

奥から現れたのはsu-85と呼ばれる駆逐戦車で主砲は85mm戦車砲を搭載していた。

「あんなのにどうやったら!」

焦る剛に対してユリアは冷静だった。

「姉さん、策があるんだろ?」

ユリアの質問にジュリアはこう返した。

「え?そんなの無いわよ」

二人は無言になった。

「え?嘘だよな?姉さん」

「そうですよ!こんなときに!」

「…本当よ、だって人間三人と戦車一両じゃ勝ち目無いもの」

「ふふふ、ハハハ流石の『シンデレラ』でも手の出しようがないか、さぁ!さっさとくたばりやがれ!!」

主砲が三人に向いた。

「くっ、なんとかユリアさんだけでも」

「まて!私なんかじゃなく君が!」

剛はユリアだけでも逃がそうとするがユリアは頑なに拒否した。何故なら彼女にとっての彼は自らの命より重いからだ。

「…策は無い、手の撃ちようもない」

ジュリアは独り言のように呟いた。

「そうさ!てめぇは絶体絶命なんだよ!さっさと情報を吐けば良かったのに残念だったな!これで俺たちは回り道をしなくても良くなったわけだ!」

「…でもね」

「あん?最後のひと言か?」

ジュリアは笑みを浮かべこう言った。

「私の策はない、『彼』の策はある!」

「は?」

刹那、次の瞬間su-85の真横に巨大な穴が空いた。

「!?どこからだ!」

「何がおこった!?」

ここにいる人皆が驚いていた、ジュリアを除いて。

「もう、ちゃんと当てなさいよ」

「わかるわけねぇだろが、こちとら工場の外から狙ってんのに」

突如空いた穴から背丈よりも30cm大きい黒い兵器を担いだ男が現れた。

「てめぇはなにもんだ!どうしてここがわかった!なんなんだその兵器は!」

「俺は…そうだな『ブルーローズ』とでも呼んでくれ、それと場所はカレンから聞かされた、最後にこいつはコンパクトレールガンだ」

男は『ブルーローズ』と名乗り担いだ銃はレールガンだと言う。

「…お前たちが『殺し屋ユリア』と『佐々木剛』だな?」

ブルーローズはユリアと剛に近づき言った。

「あぁ」

「はい」

「さて、ジュリア!」

ブルーローズはジュリアと呼ぶと一丁の銃を投げ渡す。

「あら、私の銃をありがとう王子様」

「愛銃を置いて行くなよまったく」

ブルーローズがジュリアに渡した銃は『Blood-dyed glass shoes』通称『血染めのガラス靴』と呼ばれる、組織が誇る最強のマグナム拳銃だった。見た目は青くガラスのように見える。

「戦車は任せる、私はユリア達を安全な場所に避難させてから手伝うとするわ」

「了解BOSS」

そう言うとジュリアはユリア達を連れて開けた穴から出ていった。

「さて、じゃ始めるか」


[青い薔薇]


「さて、じゃ始めるか」

ブルーローズはそう言うとsu-85に向けてコンパクトレールガンを向けた。

「ちぃ!早速かよ!撃て!」

しかしブルーローズはレールガンを撃たずにsu-85に乗っていなかったかしらをレールガンで直接殴った。

「ガバッ」

頭は吹き飛び壁に激突、気を失った。

「か、頭!」

男達は吹き飛んだ頭に意識を向けてしまった、そのためsu-85の中に入ってきた異物に気がつかなかった。

「!?なんだこれは!」

バシュと音がなり青い煙が車内を包み込んだ。

「なん…だか眠く…」

それは催眠手榴弾だった。ブルーローズは意識がそれた瞬間にsu-85の上に乗り、少し扉を開け中に催眠手榴弾を投げ入れた。

「…こいつ(コンパクトレールガン)の出番なかったな」


[真夜中の12時]


ジュリアは剛とユリアを連れて走っていると。ガコン!と音を立てて工場の天井の一部が落ちてきた。

「邪魔しないで!」

ジュリアはそう言うと愛銃を放った。

次の瞬間マグナム弾が炸裂し吹き飛んだ。

「「…」」

二人は絶句しながら無我夢中で走った。


「さぁ!ヘリに乗って!」

外に出るとカレンがヘリに乗って救出しに来ていた。

「カレン!」

「カレンさん!」

「カレンちゃん、ユリアと剛をよろしくね、あと剛君は右腕が骨折してるようだから病院に」

「了解よ~BOSS」

ユリアが身を乗り出し。

「姉さんは!」

「私はもう一仕事あるから」

そしてヘリが飛び立った。

「…あの自分のためだけに生きていた妹が誰かのために本気で戦う、とか昔の私が見たら気絶ものね」


「助けにきたわよ~」

「遅ぇよ、もう終わったぞ」

ジュリアが先ほどの廃工場に戻るとそこには柱にくくりつけられた男達がいた。

「それで、収穫は?」

「こいつら、お前を殺して地位を奪い取るつもりだったらしい」

「あら、大変」

「危機感ゼロだなジュリア」

「ふふふ、貴方がいるからね、myダーリン?」

「やめろ気持ち悪い。さてお前達」

ブルーローズは頭達に向かい言った。

「…なんだよ」

「裏切り者はどうなるか知ってるか?」

頭は頭を左右に揺らす。

「…知らんか。裏切り者は…」

「…始末…か?」

「…違うな、裏切り者はもれなく開拓地にて、畑仕事だ」

「…ふざけてるのか?」

「わりと本気だ、始末して死ぬなら働いてくれ、人のためにな。まもなく回収班が来る大人しくしてろ」

数分後回収班が到着し裏切り者一行は御用となった。


「ブルーローズ、いえ『九郎くろう』久しぶりの任務どうだった?」

「…久しぶりに相棒をぶっ放てて満足だよ、『ジュリー』」

「懐かしい愛称ね」

「…ユリアに言わなくて良いのかよ例のこと」

「ん?明日言いに行くわよ」

「…そうか」

ブルーローズは『こいつ絶対に忘れてる』と思った。


[殺し屋?いいえうちの嫁です]


剛は病院のベッドの上で目を覚ました。

昨夜剛はヘリの中で意識を無くした、そのままカレンが病院に搬送し、右腕骨折、左足打撲などで入院せざるを得なかった。

「…ユリアだ入るぞ」

「どうぞ」

ガラカラと音を立てて個室の病室のドアが開いた。

「体調はどうだ?」

「えぇなんとか」

「…そうか」

なぜかユリアはうつむいて元気が無さげだった。

「どうしたんですか?ユリアさん」

「私は何が出来たのだろうか、昨夜だって君に救われた」

「ユリアさんもたくましく戦ったじゃないですか」

「それでも最後は姉さんやブルーローズのおかげだ」

「…ユリアさんらしくないですね」

「剛君?入るわよ」

病室に入ってきたのはジュリアとカレンだった。

「ユリアとなにかもめてたの?」

ジュリアは思っていたことを率直に話した。

「…カレンさんジュリアさんこんにちは、昨夜はありがとうございました」

「…私は何も出来なかった、結局姉さんやカレンに頼ってばかり」

「あら?懐かしい『ユリアちゃん』に戻ってるわよ?」

「弱虫ユリアちゃん、そんなんだったら剛君、他の女の子にとられちゃうわよ~」

ジュリアとカレンは茶化すような口調で話した、ユリアもさすがに怒るだろうと思った剛だったがユリアは予想外の反応をした。

「なんとでも言ってくれ、私は昔から弱虫でネクラで頼りがいの無い女だ」

「…これはかなり重症ね」

「…剛君あとは任せたわ」

「え!?ちょっとジュリアさんにカレンさん!?」

「「じゃぁねぇ~」」

二人は病室を出た。何もかも剛に任せて。

「…ユリアさん、僕はこんなユリアさんを見たくありません」

「私は君にはふさわしくない、どうせ合コンの数合わせで呼ばれた流れで付き合いはじめて結婚…君ならもっと良い人を見つけられるだから…」

「言わせませんよ、続きは」

「いや、言わせてくれ」

「…まったく頑固ですねユリアさん、そんな涙で濡れた顔で言っても何も思わないですよ」

ユリアの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「…辛いんだ、でもこのまま一緒に居続ければ君が危険に晒され続ける、それが辛い、かといって離れるのも辛い」

「…うるさい口ですね」

剛はそう言うとユリアの顔の前まで来た。

「ユリアさん、僕は貴女がどんな人でも、どんな仕事をしていようと、僕は離れません、いや離しません」

剛の目は今までユリアが見たことのない位に真剣だった。

「僕は貴女と出会いお付き合いした時に一度、ユリアさん、貴女に殺されてます」

比喩ではあるが剛の心は『殺し屋ユリア』によって射貫かれたのであった。

「…僕はね、いつものユリアさんに戻って欲しいんですよ、だから」

剛は更に顔を近づけ。

「こうします」

口付けをした。それは結婚式依以来だっただろうか、いつもはしたいができなかった。

しかし今日の剛は一味違うかったそれは覚悟の現れでもあった。

「!?…ぷぁ、何を!?」

「…こうしてまでも僕の元を去ろうとするなら…容赦しませんよ?」

「!?…へ、変だぞ!今日の君は!」

「君?僕はそんな名前じゃないですよ?」

剛は赤面しているユリアに顔を近づけ

「僕の名前を言ってみてください」

「…剛君」

「…君は無しで」

ユリアは恐れていた、友人はともかく恋人を呼び捨てにすることを。なぜかはわからない、だがユリアにも剛はいつもと違うことだけはわかっていた。

ユリアは恐る恐る答えた。

「…た、剛」

「…よくできました、ユリア」

「!…ずるい」

「ん?」

「いつもいつもずるいんだよ!剛!」

「へ?」

突然声を荒げたユリアに剛も驚かずにはいられなかった。

「いつも私の弱い所に漬け込んで!だから離れられないんだよ!離れたくないんだよ!大好きだよ!」

「!?ゆ、ユリア?」

「あら、すごい大胆なセカンドプロポーズ」

「うわぁ~、私は絶対に出来ない。見てるだけでも恥ずかし」

聞き覚えのある声が二つ。

「「!?」」

密かに入室していたジュリアとカレンに二人は気づかなかった。

「「どうしてここに?」」

「あら息ピッタリ」

「…盗聴機仕掛けて、盗み聞きしてたらBOSSがとつるって言うからついてきた」

ユリアはなまはげか?と思うほど顔を赤くし口を小鳥のようにパクパクとしていた。

「盗み聞きとは、趣味が悪いですよジュリアさん」

「ごめんねー、でも、仲が戻ってなにより。さて網の外の私たちは帰ろうかしら」

「…蚊帳かやの外ですよ…BOSS、ユリア、大事にしなさいよ」

「言われなくとも」

二人は去って行った。

「さて、私もそろそろ帰らないと、時間だし」

「なら、最後に」

そう言って剛はユリアに口付けをした。

「…明日来る」

「待ってます」

ユリアは家に帰って行った。


[青い薔薇と会社員]


日は落ちて辺りは暗く街灯がキレイなイルミネーションになっていた。剛は独り5階病室で窓の外のイルミネーションを見てた、その時。

ガタン!!窓に何かがぶつかった。

「!?な、何!?」

何かが窓をガラガラと開け。

「痛ぇ、窓閉まってんのかよ」

「だ、誰?」

「ん?もう忘れたのか?俺だよ、ブルーローズだ」

「あっ、あの時の、どうしてここが?」

「ジュリアが教えてくれたのさ、あ、これお見舞いの品ね」

そう言うとブルーローズは机の上にフルーツバスケットを置いた。

「どうして僕なんかに?」

ブルーローズは椅子に座るとナイフを取り出しリンゴの皮を剥いた。

「ん?どうしてか?ってか、それはな?」

「それは?」

リンゴをウサギの形に切り紙皿に載せテーブルの上に置いた。

「未来の弟が入室したんだ、お見舞いにこなかったらジュリアなに言われるかわからん」

「へ?未来の弟?」

「おうよ、あ、ユリアは妹になるな」

「えっと、いまいちわからないんですけど」

剛は混乱しながらも骨折してない腕でリンゴを食べた。

「近い内にな、ジュリアと結婚するんだよ」

「…そうなんですか?」

「そ、それに剛の通勤してる会社には知り合いもいるしな」

「?誰ですか?」

「たしか、今は『主任』だっかな?」

「…マジですか?」

「マジだ、それと明日退院だったな」

「はい」

「まっ、落ち着いたら男ふたりで飲みに行こうや」

そう言うとブルーローズは窓に脚を掛け。

「あっ、そうそう、俺の名前を言ってなかったな」

ブルーローズは剛の方に振り返り。

「俺の名前は『神崎かんざき 九郎くろう』だ、じゃぁな」

そう言うとブルーローズ、もとい神崎 九郎は去って行った。


[いつもの日常、とは少し違う]


「さてと、行ってきます!ユリア」

「待って」

ユリアは剛に駆け寄り、口付けを一回。

「行ってらっしゃい剛」

剛はいつもの会社へ、ユリアはと言うと。

「さてと」

ユリアは座り少し大きくなったお腹を擦った。

「ふふ、元気だな」

二人の間には一つの小さな命が宿っていた。ユリアは育児休暇を取り、これから産まれて来るであろう新たな命に備えていた。

「楽しみだな、姉さんはどういう顔をするんだろう?」

ユリアは少し笑うとちょっとした掃除をした。

いつもの日常とは少し違うが、それでも変わらない。剛はユリアを知りユリアは剛を知った。それでもういつもの日常だ、今も、これからも。いや、これからはもっと賑やかになるであろう。一人の殺し屋と一人の会社員、そして『愛娘まなむすめ』の三人は。



fin。

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殺し屋?いいえうちの嫁です 沙水 亭 @shastytpp

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