6杯目
七絵ちゃんが居なくなり、残された私は、チーズケーキを食べながら店内の様子を観察することにした。
今まではカウンターばかりだったから、あまり店内の様子が分からなかったけれど、私が座っているソファー席のテーブルが4組、一人椅子が向かい合ったテーブルが窓際に2組、そしてカウンターに6席。満員なら26席。
……それに対して、店員さんは……あれ?もしかして店長さんだけ?
そういえば、七絵ちゃんは別として、店長さん以外にお店の人見ていないかも。え?ということは、接客と調理と、会計と皿洗いと ……うわぁ、いくらお客さん少ないからって、一人でこなしてるの?
『ワンオペ』という一人作業の働き方が問題になっている、と昔見たニュースで取り上げていた。とある丼チェーン店で、会計は券売機だけど、調理と接客だけでも店員さん一人では対応が間に合わなくて、片付けられない食器がテーブルに山積みされている、という映像だった。
ブラック企業、過労死なんて言葉が頭に浮かぶけれど、こんなのどかな商店街でそんなこと……。
「カズちゃーん、カップ、ここに置いておくわね。お会計お願いしても良いかしら?」
猫のハナちゃんを愛でていた女性が、飲み終えたカップをカウンターまで持ってきて、奥にいる店長さんへと声をかけた。
「あ、すみません、わざわざ持ってきてもらって……。お会計ですね、いつもありがとうございます。」
「いいのよ。康子さんの代わりに、時々カズちゃんやハナちゃんの様子を見にくるのが私の楽しみなの。」
やんわりと微笑む女性に、店長さんはまるで子供扱いされている。……カズちゃん、だって。
「……ありがとうございます。でも、もうカズちゃんは、ちょっと……俺ももう30なんですよ?」
「あらあら。私にとっては、いつまでもやんちゃなカズちゃんなのよ。ふふ。ごめんなさいね。」
最後までにこやかに笑いながら女性がお店を後にした。
「ははっ。店長も、孝子さんにかかっちゃ、まだまだガキ扱いだなぁ。さて、俺もそろそろ帰るとするか。カズ坊、お代置いておくからな。」
「あぁ、立花さんまで……ありがとうございました。」
カランカランと、最後のお客さんを見送った後、店長さんは表の看板を店内へと運び込んだ。
そして、ドアプレートをくるりと回して私の方へと顔を向けた。
「じゃあ、ちょっと早いけど今日はもうお仕舞いにしたから、えっと、花子さんお話しても大丈夫ですか?」
はい、と返事をしようとした私の中から、違う音が出た。
ぐぅううう……。
おかしい。
今日はここでサンドイッチもチーズケーキも食べたのに、なぜまだ主張するんだ、私の胃袋!
ちらり、と店長さんを見ると笑いをこらえながら、こう提案してくれた。
「俺もこれから夕食なんだけど、良かったら一緒に食べながら話してもいいかな?」
こくり、と目を合わせないようにして私は答える。
「よし、えっとナポリタンでいいかな?作ってくるから、もう少し待っててくださいね。」
こくこく、と頷く人形と化した私を見て、店長さんはカウンターの向こうへと移動した。
ううう。
私のお腹の馬鹿……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます