7杯目

ちゅるっ、ちゅるるん。

もぐもぐ、もぐもぐ……。


店長さんと向き合って食べる晩御飯。


というか、男の人と二人きりっていうこの状況に、彼氏いない歴が長い私は、ちょっと混乱していた。


「あ。タバスコやチーズ、好きにかけてくださいねー。」


店長さんは変わらず、マイペース。


「あ、大丈夫です。そのままで十分美味しいです。」


「そっか、ありがとね。」


眩しいくらいに爽やかな笑顔が、目の前に。うーん。しかし、ナポリタンは美味しい。美味しいは正義。


「本当に、花子さんは美味しそうに食べてくれるんで、嬉しいねぇ。」


ん?


「店長さんの作るご飯もケーキも、本当に美味しいですよ?」


そっかそっか、と頷きながら笑う店長さん。


ご馳走さまでした、とフォークを置き、ナプキンで口元を拭いていると、店長さんが食べ終えたお皿を下げて、二人分のコーヒーを運んできてくれた。


「じゃあ、仕事のことなんだけどね。」


熱々のコーヒーを一口飲んで、店長さんが話を切り出してきた。私は鞄の中から手帳を取りだし、いつでもメモが出来るようフリースペースを開く。


「さっきのお客様の話にもあったんだけど……。」


そう始まったのは、喫茶店 太陽が出来てから今に至るまでのお話だった。


「うちの父と母が始めた喫茶店でね……太陽っていうのは父の名前なんだけど……、その父も二年前に他界して、それまで店を父と母の二人でやっていたから、俺も仕事を辞めて、こちらに専念することにしたんだ。」


店長さんは、もともと料理人として、レストランで働いていたらしい。道理で料理が美味しい訳だ。


「それからしばらくは、俺と母と、時々、七絵が手伝いにきてくれて、店も賑わっていたんだけどね。」


今のような状態が続いていたら、経営を続けていくのは難しいだろうと、私でも分かる。だから、それまでの賑わいを知る常連さんが、心配して来てくれるだろうということも。


「店では、俺が料理を、喫茶のケーキを母が作っていて、それに、母も……今の七絵みたいに、時々占いをしていたから、それを目当てに来てくれるお客様もいてね、……母がいる頃は、この商店街の社交場のようでもあり、近くの高校の学生さんにとっては、悩みを相談できるお母さんがいるって、俺が学生の時でもそこそこ有名だったんだよ。」


そう言いながら懐かしそうに目を細める店長さんの目元には、濃い隈があった。何があったんだろう……。

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