第25話 「お出かけ……ですか……」
「せっかくなのでこれからお出かけでもしませんか?」
「え」
話も終わったし、アイスコーヒーコーヒーも飲み終わったし、勘定でもしようかとぼんやり考えていた時だった。
椎波からそんな提案が……。
「お出かけしましょう?」
「いや、俺……これから別のことでもしようと……」
「私とお出かけは嫌……ですか?」
「いや、そうじゃないけど……」
「お出かけ……」
「うっ」
上目遣いで、うるうるした瞳……。加えて手を胸らへんに添えて、さらに悲しさを演出している。
意図的にやっているのだろう。さすが国民的女優。……胸が揺らぐ。
こんなことされたら……お出かけにいかざるおえない……。
「……分かった。そのかわり、あんまり目立つことは禁止だからな」
「ありがとうございます、タクさん」
俺と椎波はあくまで芸能人という枠に入っている。行動は慎重に……。まあたとえ、椎波の正体がバレたとしても、俺も正体をバラせば、プロデューサーとその女優がただ休日を一緒に過ごしていた、ってだけになる。
何もトラブルがない、楽しいお出かけになること祈る……。
◆
「ああ、タクさん……人が多いです………人が人が……あうう……」
「そりゃそうだろう。休日の街中に出たんだから」
カフェから街中へ。夏休み期間とあり、見渡す限り人人人……大混雑。人見知りで人混みが苦手な椎波は、俺に隠れるように背中の服をぎゅっと握って歩いていた。
「カフェでは割と普通に話せていたのに」
「あの店は常連だからです……」
「なるほどな」
今は人も多いし、本来の人見知りモード発動ってか。
「仕事の時とか……普段は平気なように演じてますが、タクさんの前だとどうしても安心して素の自分になってしまいます……」
椎波は国民的女優とあり、仕事内容はドラマの撮影や雑誌の撮影が多い。近々バラエティにも参加しそうな感じだし、今の人見知りモードではとても乗り越えられないだろう。
だから椎波は普段も演じている。
だからより疲れる。
だから俺の前ではせめて休んでほしいと言った。
「まあ俺の前では気を抜けって言ったしな。椎波が嫌じゃなければ、俺はこのままでもいいぞ」
「ありがとうございます。私、タクさんがプロデュースで良かったですっ」
純粋な笑顔を向ける椎波。
くっ、こんな笑顔を見せられたら、プロデューサーをやめようと考えていることなんて絶対話せない………!!
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