波乱の夏休み

第23話 夏だ!海だ! うぇぇい——仕事ですか……?

「おはよーさん」

「え」


 幼馴染の一瑠が雑な挨拶をしながらドアを開けて部屋に侵入してきた。そういや、合鍵持ってたんだっけ。


「なにフライパン構えてんの?」

「いや、普通泥棒かと思うだろ」


 一人暮らしのマンションのドアが急に開いたら怖いわ。


「へぇー、幼馴染がわざわざ朝食を作りにきてやったというのにねぇ」

「え、珍しいっ。なに? なんか企んでんの?」

「なーんにも企んでないわ」

「それ企んでいるやつの口調だろ」

「キッチン借りるわよ〜」

「はいよー」


 歯磨きと洗顔。そして制服に着替えている間に料理はほぼほぼ完成していた。


「うまっ、うまうま!」


 最高の塩加減の紅鮭に、卵焼き、味噌汁、白米……どれもうますぎて箸が止まらない。


「美味しい?」

「めっちゃ美味い! 美味いしか言ってない!」

「たまには栄養のあるもの食べなさいよ」

「食べてる食べてる」

「じゃあ最近食べた料理は?」

「カロリーメイト」

「それ、料理じゃないから」


 多忙だったマネージャー時代の癖でつい手軽に済ませられるものにしちゃうんだよなー。


「そんなに美味しそうに食べてくれるならたまには作りにきてあげよっか?」

「いや、いい。なんか怖いし」

「怖いって何よ」

「なんか……後からすっごい金銭要求されそう」

「アタシをなんだと思っているの」

「手料理もうまいし、俺の恋路も手助けしてくれる最高の幼馴染ですけど」


 そう返すと、一瑠は気を良くしてくれた。


「それで、この前のお出かけはどうだったの?」

「ごほっ、ごほごほっ!」

「ちょ、むせることはないでしょ……。はい麦茶」

「あ、ありがとう……」


 お出かけといえば、里緒菜さんのことを思い出して動揺するに決まっているだろう……ごくごく……。


「で、どうだったの?」

「た、楽しかったぞ! 里緒菜さんとも過去1喋れたしな」

「ふーん。里緒菜さん、ねぇ……」


 一瑠がニヤニヤと笑っている。


 う、うるさい! うるさいぞ!!


「少しは距離は縮まった?」

「た、多分………」

「多分って何よ」

「いや、さ。里緒菜さんってモテるじゃん、人気じゃん」

「そうね。いい子で可愛くていつも周りには人が集まっているわね。誰かさんと違って」

「俺のことはいいんじゃい!! その里緒菜さんと1日お出かけしたからって、他とはリードしたとは言えないし……」


 人気者の里緒菜さんことだからきっと他の人とも出かけている。一瑠とか一緒に出かけてたよな。その時の俺、女装姿だったけど。


「まだ自信がないってところね。全く……他と差をつけたいなら自分でいけっつーの!」

「いってっ!?」


 バシっと背中を叩かれた。


「はい、気合い入れたよ」

「あ、あざっす……」


 なんか今ならなんでも出来そうな気がする。


 でもまあ、一瑠の協力なしじゃ俺は里緒菜さんもここまで関われなかったよなぁ。




 期末テストをだいぶ前に終えてしばらく経った今日。ついにこの日がきた。

 

 帰りのホームルームは過去一番頭に入っていないだろう。


 担任が話を終えて教室を出ると、


「夏休みだぁぁぁぁぁーーっ!!」


 クラスの男子が大声でそう言うと、周りもつられて「うぇぇぇーい!」と盛り上がる。


 夏か……。去年はアイツらのことでほぼ潰れてしまったが……今年は違う。


 今年は、里緒菜さんと最高の夏休みを過ごすんだ——


 



「え、仕事?」


 事務所に呼ばれて早々に、親父に告げられた。


「そう。おーしーごーと♪」

「俺の夏は?」

「なーし」


 ひでぇ!! 高校の夏休み取り上げて何が楽しんだよ! 大学生からは夏休みはないのに!!!


「俺は週一の仕事でよかったんじゃないのかよ」

「今回は仕方ないのよー。なんたって"ご指名"だから〜」

「ご指名ってなんだよ」

「国民的女優、四葉椎波ちゃんの護衛のご指名よ♪」

「………はい?」








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る