第22話 好きな子とお出かけ……これって実質デートだよな!?③

 ファミレスを出た後、場所を駅ビルのアミューズメント施設へ移す。


 やはり週末だけあって人が多い。

 家族連れや友達同士、あるいはデート中であろう男女が視界に入ってくる。


「九重さん何す——」

「じー…」


 九重さんはクレンゲームのぬいぐるみと睨めっこをしていた。店内のブースには溢れるばかりの様々なぬいぐるみが置いてあり、どれを取るか迷うだろう。


「九重さん、どれで迷ってるの?」

「この子とこの子ですね」

 

 九重さんが指さしたのは、水色と白の可愛らしい見た目をしたサメと緑と白のワイルドな見た目をしたワニ。よく見ると、ヒンヤリぬいぐるみと書いており、これからの夏に便利そうだ。


 てか、うさぎとかペンギンとか可愛い系じゃないのが意外。


「じゃあどっちも取ってあげるね」

「えっ」

 

 ここは男、佐藤卓の出番ですよ。

 驚く九重さんの声をよそに、200円を入れ、クレンゲームスタート。


 狙った場所へアームを動かすコツは、クレーンのアームの肘(出っ張った部分)がアームが開いたときに先端が来る場所と同じということを知っておくこと。


 まずはサメのぬいぐるみだ。

 横向きなので、ぬいぐるみの頭とお尻をアームで挟み込んで持ち上げる。

 

「わぁ!」


 アームはぬいぐるみを掴んだまま、落ちた。


「じゃあもう一個」


 再び200円入れ、スタート。

 先ほどと同じように取り、ワニのぬいぐるみも落ちた。


「佐藤さんクレンゲームが得意なんですね!」

「まぁ中学の頃やりまくってからね」


 あの頃はひたすら取れるまでやっていたからよく散財したよなー。これも今日のための取組だと思えば痛くも痒くも……もはや感謝しかない。


「二つとも九重さんが貰っていいからね」

「そ、そんな……佐藤さんが取ったので佐藤さんの物ですよっ」

「俺、九重さんのために取ったんだけど……。じゃあこのぬいぐるみはどこかに置いてかないといけないね」

「うぅ……ではせめてお金を払わせてください」

「それもやだ。浮いたお金はまた欲しいものができた時に使ってよ」


 ちょっと強引に言いくるめる。

 そして袋にいれたぬいぐるみを九重さんに渡す。


「も、もう……佐藤さんはお人好しです」

「九重さんにそう褒めてもって嬉しいよ」

「もう。けど……ありがとうございます♪」


 袋をギュッと抱きしめて、無邪気に笑う姿に思わず頭を撫でたくなったが、当然できるはずもなく。


 ……うん、九重さんに喜んでもらえてよかった。


「次はどこ回りたい?」

「んー…」


 悩んだような様子だったが、すぐにやりたいことが思いついたようだ。


「次はコインゲームをやりたいですね」

「どんどん行きましょうか」


 その後も色々と遊び尽くす。


 好きな子と過ごす時間はあっという間で……。


「今日はありがとうございました。凄く楽しかったです」


 電車を降り、朝の集合場所だった噴水前に着く。 


 悲しいことにお別れの時間だ。


「俺も楽しかったよ」

「ぬいぐるみ、本当にありがとうございました。ではまた明日学校で」

「う、うん……明日学校で……」


 九重さんがくるりと背中を向ける。


「あのっ、九重さんっ!」

「はい?」


 何か関係を進めないと……いけっ、佐藤卓っ。


「し、下の名前で呼んでもいい……?」


 突然のことで九重さんも驚いていたが、やがてクスリと笑い。


「はい、いいですよ。では私も卓さんと呼ばせてもらいますね」

「あ、うん……ありがとう九……里緒菜さん」

「では卓さん、また明日」

「また明日」


 里緒菜さんの背中が見えなくなったところで安堵のため息をつく。


「だぁぁぁ! 緊張したぁぁぁ〜」


 心臓のバクバクが止まらない。

 告白はまだ仲を深めてだけど、下呼びはかなり進歩したのでは……!


 今日はとてもいい日だ。一瑠に大感謝だな!



◆◇


「どうだった?」

「確かに私たちとは反応が違いますね。彼女がタクくんの好きな人……」


 今日一日、卓と里緒菜の追跡していた一瑠と天姫。


「これを見ても諦めきれない?」

「当たり前じゃないですか。むしろお互いの関係があまり進んでいないようでホッとしました。これは——」


 と、言いかけた時、深く帽子を被り眼鏡をかけた女の子が通り過ぎる。

  

 帽子から覗くのは青緑色の髪。

 天姫はその顔が見覚えがあり——


「天姫ちゃん?」

「いや……なんでもないです」


 脳裏に浮かんだ人物を口に出さず、何もなかったように振る舞う。


「(あの人は確か……)」





 

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