第21話 好きな子とお出かけ……これって実質デートだよな!?②
俺たちは電車に乗る。
目的地は隣町の映画館だ。
休日の電車はそこそこの混みようだった。
九重さんを壁際に立たせると、守るようなポジションを取る。
傍目からはどう見えてるのだろうか? 彼女を守るカッコいい彼氏……なんてな。
「九重さん大丈夫?」
「はい、佐藤さんに庇っていているので。佐藤さんの方こそ大丈夫でしょうか?」
「俺は大丈夫だよ」
まぁ、後ろのオッサンに押しつぶされないように踏ん張ってるんだけどな。
着くまで何の話題を出すか考えていた時だった。
「きゃっ」
急ブレーキで電車が揺れる。
勢いで窓に頭をぶつけないよう九重さんを抱き留め、その場で踏ん張った。
「ふぅ、凄い揺れだったね」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
九重さんに怪我がなくて良かった良かった。
「……」
「ん? どうしたの九重さん? 俺の顔になんかついてる?」
「あ、いえ……なんでもありません」
揺れも収まったし、柔らかく細い腰を離す。その時、九重さんが「あっ」と残念そうな声を漏らしたのは空耳だろう。
駅前のシネコンに着き、あらかじめ予約しておいたので問題なく入場する。
席は一番後ろの席。
それからジュースとポップコーンを買いに行った。
映画は、告白された年に、肝臓がんと診断されたヒロインと彼氏の主人公が、誰よりも今日を大切に、1日1日を人生最高の日にしようとする奇跡の実話を基にした心温まる感動のラブストーリーだ。
選んだのは九重さん。俺としてはアクションものやアニメが観たかったが、こればかりは女の子に選択権を譲らないとな。
『私、やっぱり生きたいよ……君ともっと色んなことしたいっ』
映画中盤。
余命宣告された日が刻々と近づくにつれ、不満を漏らすヒロイン。そんな彼女を複雑な感情で受け止める主人公のシーン。
ちなみにヒロイン役は椎波だ。
ヒロインのために主人公が全力を尽くし、毎日を楽しませてくれる分、その楽しみに終わりがあるという事実。
そんなヒロインの複雑な感情が上手く表現できている。流石、『絶妙の《《演技クローバー》》』
出会った頃はあんなに怯えてたのになぁ……。
映画館を出て近くのファミレスに入る。
それぞれ注文し終わり、ウェイトレスが下がったところでホッと一息つく。
「映画、面白かったですね」
「主人公の熱い想いに涙腺が崩壊しそうだったよ」
「ふふっ。泣かないように拳に力を入れていたのは見逃しませんよ?」
「あはは、バレてたか……」
好きな人の前でボロボロ泣きたくないっていう男の意地が出てしまったな。
しばらく映画の感想を言い合った後、ずっと気になったことを切り出してみた。
「一瑠から聞いたんだけど、なんで俺と話してみたいって思ってくれたの?」
俺の質問に九重さんは数秒黙ったが、すぐに口を開けた。
「少し前に公道さんという方と言い争いをしてましたよね」
「あ、あ……」
公道翔斗、イケメン野郎。そういやアイツ、あれから元気なくなったけど大丈夫なのかねー。
「お2人のやりとりを実はあの場で見てまして……」
「え、マジで?」
あの時の俺、結構頭に血が昇ってて何言ったかあんまり覚えてないんだが……変なこと言ってないよな?
「えと……怖かった?」
「い、いえ! その……怖いとかは全然なかったです。むしろ凄く正義感に溢れた方なんだなと思って……。あの日の行動と言葉を見て、佐藤さんに興味が湧いたというか……」
「っ……」
恥ずかしいのか、それ以上は口をモゴモゴさせた九重さん。
好きな人に自分の行動が褒められることがこんなにも嬉しいなんて……。
あれ? これは意外とチャンスなのでは? 転校初日に君のことを綺麗だと、見惚れたと褒めて……
「その、俺も九重さんのこと……」
「お待たせしましたー。ダブルチーズハンバーグとカルボナーラになりますー」
ちょうど俺が話し出そうとしたタイミングで、店員が注文の品を運んできた。
「わぁ〜! 美味しそうですね。ところでさっき何か言いかけてましたが何でしょう?」
「ああ、うん……やっぱりなんでもないや」
愛想笑いを返し、2人して食べ始める。
こういう褒め言葉はちゃんと面と向かって話さないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます