第19話 「幼馴染の策略」

「一瑠、助けてくれーーっ!」

「ひゃっ、ちょっとノックぐらいしなさいよ!」

「ぐへっ!?」


 翌日の日曜日。 

 幼馴染の香坂一瑠こうさかいちるの部屋に入ると何か投げられ、それが俺の顔面にヒットした。

 確かにノックもしないで入ったのは悪かったが、物を投げるなよッ!

 

「あっ、ごめん。反射的に投げちゃった」

 

 まぁ急に人が大声上げて入って来たらビックリするか。次は俺も気をつけよう。


 それからしばらくして落ち着いた頃。


「なるほどねぇ」


 俺は四葉椎波よつばしいはの名前は伏せ、女の子からデートに誘われたのだがどうすればいいと聞いた。


 一瑠は棒付きのキャンディを咥くわえて雑誌を眺めながら、


「つまり卓は、その女の子よりも里緒ちゃんと先にデートしたいと困ってるわけね」


 おお、すげぇ。さすが幼馴染。後も簡単に俺が言い出せなかったことを当てた。


「なら誘えばいいじゃない」

「それができないから一瑠に相談してるんじゃん」


 誘えてれば苦労はしてないさ。恋って難しいね。俺が奥手なだけか。


「でも今回はちょうどアタシも卓に用事があった」

「お?」

「卓にとって朗報なこと。なんと里緒ちゃんが卓と話してみたいと言ってましたぁ。パチパチ〜〜」

「お、おー!」


 一緒に拍手をする。


「だからアタシが『一緒にお出かけしたら?』と提案してみるわ」


 マジか……!? 実質デートじゃね!


 俺は両肩を掴んで一瑠の瞳を見る。


「一瑠」

「え、なに……?」

「あ、ありがとうぅぅぅ!!」


 感謝の気持ちを込め精一杯頭を下げる。なんか熱いものが込み上げくるなぁ。

 九重さんは今、俺に興味を持ってくれていると……。なんでそうなったか分からないが、とにかくチャンスだな!


「……」

「ん? 一瑠?」


 ボーと俺を見つめている。どうしたのだろう?


「痛い痛い」

「ハッ、すまん」


 ペシペシと俺の手を叩いてくる。

 つい肩を掴む手に力が入ってしまった。慌てて解放する。


「良かったわね」

 

 爽やかな笑顔で言う。


「なぁ一瑠。なんで俺のためにそこまでしてくれるだよ。凄くありがたいけどさ、一瑠にとってメリットあるの?」


 幼馴染だからという世話焼きを超えている気がする。一瑠だってモテるだろうし、俺にばっか構っていいのか?


 一瑠はうーん、としばらく考えてた後、


「君が好きだからって言ったらどうする?」

「……えっ」


 意地悪そうな笑みを浮かべながら尋ねた。


 一瑠とは物心ついた時からの付き合いだ。下手に嘘ついたらすぐ勘づかれるが、信頼している部分が多い。


 昔と打って変わって背中まで長く伸びた綺麗な薄い黄色の髪を今は下ろしており、パッチリとした目。着衣でも主張する胸とキュッとした腰つき。ムッチリした下半身。紛れもない、美少女だ。


(あれ? 幼馴染ってこんな可愛かった……? いやいやいや。俺は九重さん一途だ)


 状況を飲み込むことに少し時間がかかった。が……


「ふふ、卓ってば女の子慣れしてなすぎ。それじゃあ里緒ちゃんに好きって言われたら失神しちゃうかもよ」

 

 一瑠が俺の顔に覗き込み微笑む。

 

 内心めっちゃドキドキした。だって

今まで幼馴染として、それこそ気の合う男友達のように接して来た女の子から「好き」という言葉が出たから。


「あっ、さっきの言葉、ちょっとドキドキした?」

「し、してないけど」

「その割には目は泳いでるけどなぁ。まぁとにかく、里緒ちゃんとのお出かけ頑張ってね」

「お、おう」


 複雑な気持ちを感じながらも、今は一瑠に促されるがままに行動する俺であった。



(一瑠side)


 ぶっきらぼうなタイプが弱々しくなる姿というのは庇護欲をそそるし、可愛さが倍増するように感じる。そして、他人と関わることでまた新たな良さが見つかる。

 これだから幼馴染告白前はやめられない。


 卓を見送り、自分の部屋のベッドに寝そべる。


「卓は可愛いなぁ」


 何も知らないまま純粋に私の指示に従っていく。

 ただ肯定し、優しい幼馴染でいる。そうすれば卓を思い通りにすることができる気がするから。


『君が好きだからって言ったらどうする?』


 相手が無知だからこそのからかいの言葉。でも普段私がこんな事を言わないから驚いていた様子だった。

 いつかはあの真剣な眼差しで告白されたいという乙女チックな感情もある。

 けれどまだ、都合のいい優しい幼馴染のままでいる。来るべき時が来たら私は——


「さて、私も動こうかな。と一緒に……」


 

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