第18話 「国民的女優は人見知りガール」
「
親父との昼飯を終えた後、椎波のマネージャーの田所さんから連絡を貰い、今は事務所近くの噴水で椎波待っている。なんでも久々に俺と二人きりで会いたいとか。
待ち合わせを事務所の近くにしたのは、万が一二人でいるところを記者に撮られたとしても、事務所が近くに有れば迎えに来たと誤魔化せるからだ。
「椎波迷子になってんのかなー」
キョロキョロと周りを見るがそれらしき人はいない。
チラチラ
……って、まぁさっきから視線が凄いからそこの木影から覗いているのは丸見えなんだけどな。
仕方ない。行くかぁ。
気づかない振りをして木陰に近づく。
「……ひゃっ。タクさんが近くに……。バレませんように」
いや、もうバレバレなんだけどな。
「椎波、何してんだ」
「ぴゃ!!」
深く帽子を被り眼鏡をかけているが、椎波と分かる。
声をかけるとビクッと肩が上がり、小さな悲鳴が漏れた。
あー、俺怪しいやつとかじゃないんで、周りの人は変なやつだみたいな視線向けないでくださいね。
「久しぶりだな椎波」
「お、お久しぶりです……タクさん。えへへ……」
人見知りで臆病な少女。これが国民的女優、
◆
「あぅ……驚かさないでくださいよ……」
「悪い悪い。椎波がいつまでもかくれんぼしてるから、つい」
椎名は人混みが苦手で、多分、通行人が減るまで待つつもりだったのだろう。だが、休日だしまだ二時だし人通りは多い。キリがない。
「お、お久しぶりですタクさん」
「ああ、久しぶり。元気そうで良かったよ」
「は、はい。タクさんの方こそお変わりなく」
見た目は変わってないけど、俺の心境とPastel*loverはだいぶ変わったよ、なんて言えないな。
通称『絶妙の
演技の使い分けが上手いことから絶妙の演技。四葉ということでクローバー。合わせて『絶妙の
椎名は俺より二つ年上の姉さんだが、プロデューサーという立場なので呼び捨てにしている。
今や国民的女優だが、最初に椎波と会った時はそれは衝撃的だったなぁ。
「タクさん。いつものよろしいでしょうか……?」
「ん? ああ、いいぞ」
俺は手をそっと出す。すると椎波が握った。恋人繋ぎの手にぎゅぎゅっと力が入る。
「あり……がとうございます」
頬を赤らめる椎波。
本当ならこれは撮影や舞台やなど、緊張する場面でするお守りみたいな行動だ。まぁ今回は久しぶりに会うってことでやってるのだろう。
「撮影お疲れ様。長期の撮影で大変だっただろ? よく頑張ったな」
「えへへ。頑張った……!」
オドオド緊張していた表情が「どやー」とやり切ったような顔になった。
「タクさんは何かありしたか?」
「まぁ色々あったなぁ……」
遠くを見つめる。
ほんと、ヤンデレとかヤンデレとか……。
「色々とは……?」
それまでは一歩引いていた椎波が、ガッツリ食い付いてきた。眉根にしわに寄せて、視線を鋭く見据えている。
「いや、色々……」
「色々……。もしかして誰かとデート?」
はい、斜め下の回答を頂きました。
「してないしてない……! まだしてないからっ」
「ま、だ?」
ヤベッ、墓穴掘った。
「タクさん、誰とデートするんですか……?」
「いや、あの……」
初恋の相手、
「タクさんは私のこと……嫌いですか?」
戸惑いの顔で尋ねてきた。
その表情とその聞き方はずるい。
だが俺も男だ。はっきりと言っておかねばならないと。
「椎波のことは嫌いじゃないよ。でも、だからデートすると言われたら、ちょっと違うかな」
その答えに椎波は不満そうな顔をした。
「むぅ……じゃあ、タクさんは私のことは好きだけど、デートするつもりはないのですか。弄ばれました。私は所詮、愛人だったのですか……」
いや、理不尽な。何故そうなる。
「いやいや。第一、椎波だって好印象を抱いた男子とすぐにデートに行くのかって話だろ?」
椎波がうっ、と息を飲む。
「でも私だってデートしたいです。タクさんとでーと……」
やめて。そんなうるうるした、雨に日に段ボールに入っている子犬のような目な悲しい目を向けてこないで。
「タクさん……」
俺の最初のデートは九重さんだと決めて……。
「タクさん……」
九重さんだと……。
「タクさん……」
「……分かった。分かったからそんな泣き目で俺を見ないで」
なんか周りの目も痛いから。
「ありがとうございます♪」
俺がそう答えると、椎波が満面の笑みになった。
おやおや、椎波さん。さっきの涙目はどこに……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます