第二章 国民的女優のヒ・ミ・ツ

第17話 「国民的女優が帰ってきたようです」

「ふぉれ、じむしょやめていい?」

「卓ちゃん、食べながら話さないの」


 休日の昼。

 軽く変装をして事務所近くのファミレスに来た俺と親父。それぞれ、生姜焼き定食とカツカレーを食べながら会話を交わしていた。

 

「ゴクン……。だから俺、事務所辞めていい?」

「またどうしたの? テストの点数が悪いことなんていつも通りじゃないの〜」

「テストは関係ないわ。いや、無視したらいけないけど……」

「そんなに落ち込まなくて大丈夫よ! 次頑張ればいいもの!」


 親父にバシバシと強く肩を叩かれてウンザリする。


 テストで30位を目指していた俺だったが、終わってみれば80位と前回の53位よりも下がってしまった。


 九重さんにいいところを見せるはず

が……。まぁ一瑠が気を利かせ一緒に帰らせてくれたのはありがたかった。

 その帰り道の公園内にある野外ライブでpastel*loverがゲリラライブをしたのは驚いた。三人に連絡しても内緒と言われるだけ。ここは思い切って親父に聞いてみるか……。


「親父。この前さ、佐原公園内の野外ライブでpastel*loverのゲリラライブがあったけど、何か知ってる?」

「んー、知ってるけど教えなーい」

「なんだよそれ。俺一応プロデューサーなんだけど?」

「今は一目惚れの転校生美少女を追いかけるただの高校生でしょ?」

「うっ……」

「その子との進展はどうなの?」

「い、一緒には帰ったぞ! 一回だけだけど……。それも一瑠のおかげ」

「やっぱり卓ちゃんは奥手ね、もう! もっと強引にいきなさいよっ! 一瑠ちゃんには今度何か贈ろうかしら」


 ルンルンに語る親父。

 話を逸らされた。これじゃあこれ以上はpastel*loverのゲリラライブについては追及できないな。


 すると親父が急に「あっ!」と何かを思い出したかのように声を上げた。


「卓ちゃん、あの子が帰ってきたわよ」

「あの子? どの子だ? 連れ子?」

「私が浮気したとでも?」

「ごめんなちゃい」


 圧をかけて言う父親に言い返すこともできず、俺は潔く謝る。


 俺には母親はいない。正確には俺が小さい頃に亡くなった。だから父親として、母親としてこうやって俺のことをここまで育ててくれたことには本当に感謝してる。まぁ合体してオネエになったのはビックリしたが。それでも自慢の親であることには変わりない。


「で、誰だ!」

「まだ分からないの〜?」

「分からないわ! 俺が専属で担当した子以外にも人はたくんさんいるんだよ!」


 一週間だけ面倒みたりとか、短期間の時も含めると……数えきれない。今思えば俺ってめっちゃ多忙だったんだな……。


「それもそうね。じゃあ教えてあげるわ。卓ちゃんが担当した国民的女優、四葉椎波よつばしいはちゃんよ♪」

「ああ、椎波か」


 四葉椎波しいはよつは。彼女もまた俺がプロデューサーをした内の一人。国民的女優にして、今、ドラマや映画に引っ張りだこの売れっ子である。

 最近はまともに会ってなかった。今は撮影で関東方面に行っていると聞いていたが、どうやら撮影は終わったようだ。


 椎波は普段はああだが、俺の前だとなぁ……。


「なぁ、卓。実はお前に頼みたいことがあるんだ」


 黙々とカツカレーを食べていた親父が急に改まった様子で告げてきた。

 嫌な予感しかしない。

 真面目に話せばイケボなんだよな。久しぶりに聞いたから誰やねんって吹きそうになった。


「な、なに?」

「次は四葉ちゃんの面倒、お願いね?」


 そんな真剣な瞳されたら断れないな。全く、この人はずるいや……。


 俺は長い溜息を吐き、頷いた。




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