「恋習(れんしゅう)」 ◇三人目の堕落(ヤンデレ)

(雅side) 


 兎は寂しいと死んでまう。

 よく聞く言葉だ。

 ただ、死んでしまうほどにという意味であり、正確的には「愛情をひとり占めして、安心したい」ということらしい。


 そして兎に関わらず動物にはある特性がある。


 権威性症候群

 この症状は犬に限った話ではない。

 兎は寂しいと死んでまうからといって、過度に甘やかすと兎は自分の方が立場が偉いと感じとり、人間を見下すようになる。

 

 つまり、自分が寂しがりだから甘やかしてくれることを覚えた兎が、その立場を利用し、好き放題やってしまうということだ。

 そうなると、いう事を聞かず攻撃的になってしまい、兎を飼うのではなく、兎に飼われてしまうという形に。いわば人間が自分の言う通りにしてくれる召使い的存在に成り下がるのだ。


 甘やかすという行為は時に、相手のリミッターを外してしまうことだってある。

 それが好きな人ならなおさら――

 



「私をいっぱい甘やかして。私も貴方を甘やかすから」


 ぼうっとした眼つきで私を見ているタクに両手をいっぱいに広げる。すると、ギュッと抱きついてくれた。


(〜〜〜!! か、可愛い!!)


 いつもぶっきらぼうな口調でツンデレなタクが素直に甘えてくれた。口元がニヤけるを必死に我慢する。

 

 さらに今のタクの格好は女装。

 ベッドに広がる黒髪ロングに、私と同じセーラ服。もう少したらスカートの中のパンツが見えそうだ。

 程よくついた筋肉に、傷一つない綺麗な肌。顔のパーツも身体つきも整っており、男の子だと信じられないほどの女装だ。

 好きな人だからより、綺麗に見えるのかな?


 私はタクの耳元で囁く。


「大好きだから独占欲したくなる。大好きだから普段とは違う自分を見せられる。大好きだから――甘やかしたくなる」


 スリスリとタクの顔に自分の顔を擦りつけ甘える。

 タクは抵抗するのをやめたのか、身体の力を抜き切って大人しくなった。


「みんなタクが依存レベルで好きなの。だからね、タクも私たちに依存してほしい」


 そう。みんなタクが大好き。

 大好きだから一緒にいたい。

 大好きだから独占したい。

 大好きだから一番になりたい。

 大好きだから堕ちる。

 だから――恋は人を動かす。


「みんなごめんね。抜け駆けする――」


 ここにはいない天姫おりひめ桐花きりかに悪いと思いながらも、我慢できなかった私は彼の唇を奪う。


「んちゅ……」

 

 唇を舌でなぞるようにキスする。 

 唇になんて味がないかと思っていたが、タクの唇は甘く、興奮する不思議なものがあった。


「ふぁ……くっ……」


 タクが声にならない息を漏らす。

 キスされるのが嫌なのか、恥ずかしがっているのか分からないが、蕩けた瞳がさらに私を刺激する。


「み、みやび……落ち着いてくれ……」


 身体を硬らせ、抵抗している。その姿でさえ可愛いと思えてしまう。

 私から離れようとするタクだが、私が首元に手を回しているので顔を離せない。


「大丈夫、怖くないよ。タクは私に身を任せてリラックスしてればいいから」


 全てを優しく受け入れてくれる全肯定な女性というのに男性は弱いとどこかで聞いたことがある。

 まぁ、私は狙ってやってるのではなく、ただタクを甘やかしてあげたいだけなんだけど。


「み、みやび……」

「ねぇタク。私をナデナデしてほしい。私を甘やかして」


 そう言うと大きな手が私の頭に置かれ、優しく撫でてくれる。

 頭を撫でられるたびに幸福が増すと同時に、もっと甘やかされたいという欲も増す。


 私は恋なんてしたことないから、恋愛の仕方とか分からない。

 でもこれだけは分かる。


 好きな人を堕とせば恋人になれる。


 自分だけに依存させて、自分だけを見てもらえるくらい夢中にさせればいい。

 でもその前に、私が夢中になってしまおう。


「タク……キス、して……」


 私の言葉に視線を逸らすタク。

 否定のサイン。なら、とっておきのを使おう。


「してくれたら、解放してもいいよ……?」


 タクが一番望むものを利用する。

 私の言葉に逸らした視線を戻して、お互いが見つめ合う形になった。


「……分かった」

 

 小さな声でそう言ったタクが少しずつ私との顔の距離を近づける。彼と唇が重なる瞬間に私も目を閉じた。


 チュッ


 二人しかいない空間に甘い音は響いた。優しいキスに音なんてないと思う。でも私には聞こえた。


 "タクが自分からキスしてくれた"


 この事実に、ぶるっと武者振るいがした。

 高ぶる熱を少しでも冷ますために、タクの首筋に顔をうずめて、いっぱい息を吸う。


「これで解放してくれるのか……?」


 期待している声。

 でも私は……


「だーめ。まだ解放しない」


 期待を裏切る。


「ちょっ、話が違っ——んむ!?」


 あんなに甘やかされたら止まらない。


 誰もいない部屋に私とタクの唇が触れ合う音と、お互いの服の衣擦れの音だけが響く。

 何度もついばむように触れるだけのキスを交わす。物足りなさを感じるが、このくらいにしとかないと天姫と桐花に怒られてしまう。


「んっ、逃げちゃだーめ。まだ甘やかされたい」


 引き離そうとするタクを抑え込むように、背中に手を回し、抱きしめながらキスを続ける。


 目は潤み、熱い吐息が出ているのは自覚している。自分が獣のように発情していることも。


「ふぅん?」


 スカート越しに何か硬いものに太ももが当たる。ツンツンと太ももで触ってあげるとビクッとタクが反応した。


「……へぇ」


 やっぱりタクも男の子なんだ……。

 性的な目で見られるのは嫌だが、タクなら嬉しい。タクも興奮してくれてるんだ。


「タクになら好きにされてもいいよ」


 耳元で囁き、タクの首筋にちゅっと口付けをする。もちろん跡をつけないように配慮してる。


「っ……」


 すると、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。

 タクは今、理性と快楽の狭間で必死に戦っているのだろう。そんな頑張るタクも可愛いが、私は最後トドメの言葉をかける。


「ねぇ、タク…… ——私とエッチしよ?」


 どうかこのまま私に堕ちて——



 朱兎雅あかうさみやび 【盲愛型ヤンデレ】


 相手に甘やかされたい、甘やかしたいという溺愛感情が強いヤンデレ型。

 普段は、クールで感情を表に出さない人がなりやすい。

 基本、相手に嫌われたくないと消極的で守りの態勢なのだが、甘やかしたいという一定の感情が強くなると積極的になる。これも守りの一種の行動らしい。

 特に甘えん坊モードになると、周りが見えなくなり、暴走してしまう。


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