第13話 はひっ! 私、男の娘なんです!!(涙)
サラサラにとかされた黒髪ロング。くるんと伸ばされたまつ毛とキリッとし瞳はクールさを思わせる。スッと鼻筋も通ってて、高身長。イケメン女子という言葉が似合う——
「おいこら、なに実況してるんだよ!」
「つい心の声が漏れた」
「漏れていたどころか嬉しそうに語ってたじゃないか」
「すみれ、可愛い」
「だから撮るなーーッ」
女装姿の
雅に軽く化粧などをされ、俺の女装はますます磨きがかかっていた。雅曰く、俺の女装した姿は、『イケメン女子』だそうだ。
「すみれ、可愛い。本当に男の子? 女装の方が向いてる。なんで男に生まれてきたの?」
「羞恥プレイなのこれ? 俺になんの恨みがあるの?」
女装に芽生えたくないぞ?
俺に女装をさせた雅だが、国民的アイドルとあって、マスクをつけ最低限の変装をしている。目元だけだと意外と誰とわからないんだよな。
「天姫と桐花にも見せてあげたい」
「絶対見せんなよ?」
「見せない。でも送った」
「はい?」
スマホの画面を見せてくる雅。そこには俺の女装姿が三人のグループLINEに送られており——
「いや、見せてるじゃん!!」
「見せてない。写真送っただけ」
「写真送ったら見られるに決まってんだろ!!」
既読がついていないなら、送信取り消しをすることで写真を見られず消去できると思い、もう一度雅のLINEを見たが……既読が二つついており、手遅れだと肩を下げる。
「二人も可愛いって言ってる」
「え?」
再び、スマホを覗く。
『可愛い! メイドさんにしたいっっ!』
『可愛い! お嫁さんにしたいです!』
「ほら、タク。観念してちゃんと女の子を演じて」
「はぁ……。分かりましたわ雅さん」
「女の子の声……!」
俺のボイスチェンジに雅は驚きの声を上げた。
女優のアイツのボイストレーニングによく付き合わされたからな。アニメ声ほどではないが、それなりに女性の声は出せる。
「これなら歌も歌える。pastel*loverの四人目」
「だから嫌だって言ってるんだろっ!!」
「わっ!」
「え?」
人混みの多いところで信号待ちをしていた時、誰かが俺の胸に飛び込んできた。慌てて肩を掴みぶつかることを回避する。
視線を下げると、水色の髪をお嬢様結びにした女の子だった。
「里緒ちゃん大丈夫?」
後ろから友達だろうか? 女の子が駆け寄る。
色素の薄い金髪のポニーテールにつり目の茜色の瞳。一見ギャルぽい見た目の———我が幼馴染、香坂一瑠さんではありませんか。
……は? 一瑠? じゃあ俺の胸に飛び込んできたこの子は———
「あの、ありがとうございます……」
微に頬を染め、お辞儀してくれる女の子。顔をあげたことでようやくハッキリした。
俺の胸に飛び込んできたのは
なんで一瑠と九重さんがこんなところに!?!?
と、声に出しそうだったが、今の女装がバレないよう言葉を控える。
「ほら、やっぱり靴が合ってないのよ。せっかくの機会だし、買い換えないと」
「うう、そうですね……。また人にご迷惑をかけるかもしれませんし……」
どうやら二人で出かけている最中のようだ。俺も誘ってくれよ……。
なぜ俺は女装しているんだと自問自答しつつ、二人の服装を見る。
九重さんはカラーワンピースと夏間近とあって涼しげなコーデ。
一瑠の会話を聞く限り、今履いているビジューサンダルが合わないらしい。
一瑠も白のTシャツとスキニーでまとめた上下白にカーキのジャケットを肩かけしていて、シンプルながらカッコいい服装だ。
二人とも美少女がさらに際立っている。実際、彼女たちの方にチラチラ視線を送る男どもがいた。
なんか俺の方にも視線を感じるのは気のせいだよな……?
「すみれ、どうしたの?」
見惚れていた俺は背後からかけられた言葉に一瞬、肩が上がった。
俺の後ろからひょこっと顔を出す雅の存在に二人も気づいたようで、
「……タクの知り合い?」
「え、あ、いや……」
知り合いなんだけど、この女装状態で知り合いって……言えない!! それに、雅と知り合いとバレたら、俺がTakだという正体も……。
「もしかしてパズラブの
「ん? そうだけど」
「やっぱり!」
手を合わせ、ぱぁぁと明るくなる九重さん。以前、教室でライブ鑑賞していた時説明したけど、あの後、調べてくれたんだ。
「あっ、声を小さくしないといけませんよね……。私、最近クラスの方から教えてもらって、pastel*loverを知ったばかりですが……pastel*loverの皆さんは、歌もダンスも上手で凄くキラキラしていて、素敵です!」
「お褒めいただきありがとうございます」
九重さん、そんなにハマってくれたのか……。嬉しい! 自分のことのように嬉しい。
「ふーん」
「え、あ、なんでしょう?」
「なんでもないわ。お綺麗ですね、ふふっ」
雅と九重さんが会話を交わす中、一瑠は俺の顔を何やら険しい顔で見つめていたと思えば……何か気づいたようにニヤリと笑みを浮かべた。
まさか、俺だともうバレたのか……。
「そちらのお姉さんは、雅さんはどうゆう関係なんですか?」
一瑠が言う。
一瑠、絶対俺だと気づいてるだろ……。
「えっと……雅とは従姉妹です」
「そう。従姉妹のすみれ。久々に会ったの」
「すみれさんですか。お綺麗ですね」
ニコッと微笑んでくれる九重さんににドキッと胸が鳴ったが、我にかえる。
俺は男として九重さんに見てもらいたいのに、何故女装もとい男の娘の姿で褒められて喜んでるんだ……。
「従姉妹ですか。身長とか高いし、一瞬男の娘かと思っちゃいました」
ニタニタした表情で一瑠は俺を煽る。
この野郎……俺が女装して九重さん接してるの面白がってやがる……。覚えてろよ……。
「呼び止めてしまいすいませんでした。では私たちはこれで」
女装の俺をいじるどこかの幼馴染とは違って、九重さんは俺と雅の時間を邪魔したら悪いと引き上げてくれた。
女装じゃなかったら混ぜてもらって九重さんとお出かけできたのに、これも運の尽きかぁ……。
二人に手を振り、女装がバレずホッとしていると、クイクイと服を引っ張られた。
「タク」
「ん?」
雅の呼び方が戻っている。
「女の子に鼻伸ばしすぎ」
「嘘っ!?」
「嘘。鼻は伸びてないけど、目はエッチかった。変態……」
九重さんのこと、可愛いなぁと見ていたから今回だけは雅の変態を否定できななぁ……。
◆
お菓子を買い勉強場所である女子寮に着いた。この女子寮は雅たちが通う旭丘女子校経由らしい。二階建ての建物で、現在住民は六人だそうだ。
ちなみに外部からの来客は寮母さんに言えばOKらしい。雅がなんて言ったのか気になるところだが。
俺は雅の部屋に案内され、床にペタンと座っていた。
「お待たせ」
おぼんに氷入りのお茶の入ったコップ二つとお菓子を持ってきてくれた雅。日差しと暑苦しい女装で喉が渇いていた俺は早速、お茶を飲んだ。
「ぷはぁ、生き返る〜。ありがとうな。ところで猫は見当たらないのだが?」
猫を飼っているのいう話をされて部屋を見渡してみたが、姿は見当たらない。部屋じゃなくて寮全体で飼ってるってことか?
「猫は飼ってないよ。私がネコだもん」
雅がまたドアの方に行ったと思えばガチャリと金属の音した。
「雅がネコってどういうことだ?」
意味を考える俺に対し、雅が俺の耳元に近すぎ——
「にゃーん」
可愛らしくそう囁いた。
……えと、これはどういう状況?
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