女装でテスト勉強で危険な香り
第12話 夏休み前のテストはね、いやいやよ〜
天姫と桐花のヤンデレ騒動から一週間後の金曜日。
俺は無事、睡眠との戦いである午後の授業を乗り越えた。疲れた腕をぐーいと伸ばしながら明日の二日間は何をしようかと考えた時だった。
「再来週からテストだぞー」
担任である田中が教室に入ってくるなり、なんとまぁ憎たらしい発言したではありませんか。
今朝は卵焼きが綺麗に焼けて、占いも一位で、道に迷ったおばさんを案内して、遅刻したものの、いい事ばかりした。授業だって先生に二回ほど指名されたが勘で答えられたし、小テストもノー勉だったが、二択問題が全問正解と強運も持っている。
それなのに何故テストはあるんだ。
「何故テストがあるって顔してるな。それは——俺にも分からん」
ガタンッと机が動く音が複数。おそらく何人かズッコケたのだろう。ノリがいいなうちのクラス。
「ただまぁ、赤点取ったやつの夏はないと思えよ〜」
口角を上げ、嫌がる俺たちを嬉しそうに見渡す担任。
この笑顔だけは絶対に守りたくないランキング一位に君臨する。
テストからは逃れられないとなると、後は点数をどのくらい取るかだな。
うちの学校の赤点ラインは40点から。稀に教科の平均点が悪すぎて赤点のボーダーが下がることがあるが、基本的に40点以上取れば今年の夏はある考えるのがいいだろう。
しかし、今回の俺は違うのだ。
〜
「佐藤さん一位なんて凄いです!!」
「た、たまたまだよ」
「たまたまで一位なんて取れませんよ! あの、良かったら今度のテスト勉強はご一緒に……」
「もちろんさ。ところで、この後テストお疲れ様ってことで遊びに行かない?」
「ぜひ、お願いします!」
この流れなら絶対誘える。脳内シミュレーションは完璧……。
「なに気持ち悪い笑み浮かべてんの卓」
顔を上げると一瑠が目を細め、心の底から気持ち悪いというような表情を浮かべていた。
クラスメイトはザワザワと騒がしいことからどうやら帰りのホームルームは終わっていたらしい。
「俺、今回のテストは頑張る」
「はいはい。里緒ちゃんにいいとこ見せたいのね。で? 佐藤くんは前回のテストは何位だったのかな〜?」
「53位」
150人中53位だからいい方だもん。割って半分より上にいるからいい方だもん。
「目標順位は?」
「いちばん」
「ほーん。今回はアタシを抜くってことねぇ」
ちなみに一瑠は前回3位の超秀才。
ガリ勉な見た目してる俺が頭悪くて、ギャルな見た目をしている一瑠が頭いいと、見た目で人を判断してはいけないという言葉がよく分かる例だ。
「やっぱ30位目指す」
「それで自慢できるわけ? というか、いっそのこと里緒ちゃんに勉強教えてもらいなさいよ」
一瑠の言葉を聞き『その手があったか!! 天才だ!』と隣を見た時には既に遅く――
「九重さん勉強教えてよ!」
「ちょっと! 男子に里緒菜さんと勉強する権利なんてないんだから!」
「はぁ!? それこそ差別だろ! 女子の横暴を許すなーー!!」
「九重さん私たち女子グループと勉強しよ〜」
隣の席の九重さんの周りには既に多くのクラスメイトで埋まっていた。九重さんが見えないほどに。
一歩……いや、百くらい出遅れてしまったかぁ……。
「はぁ、卓はまだまだねぇ……。でもいつもの子たちと勉強するんじゃないの?」
前回のテストはpastel*loveの三人と事務所で勉強会を開いていたが、今回はどうだろう。
「ねぇ、もし勉強する相手がいなかったらアタシが教えてあげよっか?」
「おっ! マジ!」
「別にいいわよ。あっ、そしたら――」
一瑠が何か言おうとした時、ブーブーとポケットに入っているスマホが震えた。
「あー、アタシとの勉強会は無理そうね」
「ああ、すまんな」
俺も一瑠も相手が予想できていたので、そう会話をする。
LINEを開くと案の定、雅からだった。
雅:『タク』
卓:『おう、なんだ雅』
雅:『テストがあると絶望している頃かと思って』
卓:『ちょうど今その時』
雅:『タイミング良かった。明日
、土曜日に勉強会開くから教えてあげる』
卓『助かるけど、自分の勉強はいいのか? 赤点取るぞ?』
雅たち三人が通う女子校は県内でも有名な公立高校で、偏差値が高い。赤点ラインは60点。
60点とか普通にいい点数じゃん。俺、平気で取るのだが?
雅:『テストなんて90点取れば標定平均5だから大丈夫でしょ』
なにこの頭いい人のみに許された発言。ぐうの音もでねぇ。
雅:『それと明日は事務所じゃなくて違う場所で勉強するから』
卓:『事務所じゃない場所?』
雅:『詳しいことはまた夜に送る。あと、事務所の方にタク宛に荷物送ったから』
と、会話はここで終了。
それから電車でアパートに帰り、俺宛に届けられていた紙袋を開け中身を確認する。
ウイッグ(黒髪ロング)
セーラ服(半袖)
スカート
黒のストッキング
女性もののパ——
「って、なんじゃこりゃーーー!?」
リビングで一人、大声をあげる。
すぐさま雅に電話をかけた。
「おいこら雅、どうゆうことだ!!」
『どういうことって言われても見ての通りだけど?』
「なんで俺が女装しないといけなんだよ!!」
『だって勉強場所が……』
「勉強場所が?」
『女子寮だもの』
「ほうほう女子寮――えっ、ジョシリョウ?」
『女子寮。もしかして女子寮が分からない? 女子寮っていうのは――』
「女子しが住んでない男子禁制の場所ただろっ! そのくらい知ってるわ! だからってなんでこんなもの送ってきたんだよ!!」
『今自分が言ったじゃない。男子禁制の場所だから女装しないと入れないのよ』
いやいや、俺に女装させて女子寮に侵入しろってか!? バレたら『敏腕プロデューサーのTak、女子寮に女装して侵入。女装がバレるか試したかったのか?』で報道されしまうかも……。
「あの、そこまでしなくても……」
『誰のおかげで今まで赤点にならずに済んだと?』
「雅様と天姫様のおかげです、はい……」
思わず電話越しにも関わらず正座してしまった。
人間、恩には逆らえないよなぁ……。
◆
「うへ……暑い〜〜」
半袖のセーラ服だが、日差しには勝てない。長い髪が特に邪魔。
女装した状態で待ち合わせ場所にいくと、そこには既に制服姿の雅がいた。
「雅」
そう呼びかけると気付いたようで、胸からスマホを取り出し――
パシャパシャパシャ
「……」
「あの、無言で撮るのやめてくれない?」
「予想以上に似合ってる」
「そうか? スカートとかもちろん初めて着たが、スースーするなこれ。すごく違和感がある」
なお、送られてきたパンツと黒ストッキングが着てない。事務所に送り返してやった。
「タクって全然分からない。これから私たちと出かける時は女装するといい」
「絶対嫌だ」
「pastel*loverの新しいメンバー」
「男の娘ですけど?」
「これから四人で活動する」
「炎上するぞ」
「大人気だと思う」
男の女装に需要などあるのか?
「さ、早くいこっ」
「お、おう……」
と、歩き出したと思えばすぐに雅が止まった。
「お菓子買わないと」
いかにも今思い出した感を出さす雅。絶対女装姿の俺を連れ回したかっただけだろう……。
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