「恋撃(こうげき) II」◇2人目の堕落(ヤンデレ)
気づくと鼻がふれるくらいに近くになっていた。目の前の女の子は誘惑するような妖艶な瞳をこちらに向け、不敵に微笑んでいる。
それは俺の知る
『たっぷり
俺は桐花が言った言葉を思い出したし、理解した。慌てて彼女を退けようと手を伸ばしたが……
「ダメだよたっくん。暴れたら危ないよ」
「!?」
男子と女子じゃ力無さは歴然のはずなのに、俺は桐花に片手で抑えられた。
もしかして俺の力が弱いんじゃないかとさえ思えてくる。
「暴れたら怪我しちゃうよ。まぁ怪我したその時は私が癒してあげるだけだけど」
これは間違いなくヤンデレ化している。なんとかして暴走を止めないと……。
「お、落ちつけ桐花。な?」
「落ち着け? 私は落ち着いてるよ。むしろこっちが本性だし」
俺の手を押さえていた片手が離れ、再び両手で抱きつかれる。首に回されている腕がギュッと強くなった。
「元気いっぱいで人懐っこい崎宮桐花はいない。目の前にいるのは、たっくんのことしか毎日考えてない女の子だよ」
耳元で甘い言葉が囁かれる。まるで思考を溶かすような声だ。
頭がおかしくなりそうで、目を瞑りブンブンと顔を左右に振り正常な状態を保つ。
「たっくん、好きだよ」
至近距離での告白。
荒い息が俺の口に当たり、なんとも言えない感じになる。
「だからね、たっくんも私を好きでいて欲しい。それで好き同士で恋人になって結婚しよ♪」
今度は恋人すっ飛ばして結婚かぁ……。
「でもたっくんは他の女の子が好き」
「えっ……」
天姫の時も思ったが、やっぱり俺に好きな人ができたと知られてるかぁ……。
「パズラブの誰かだったらまだ許せた……いや、どちらにしろ許せないかなぁ」
右手で俺の頬をさすられる。それがこそばゆくてピクッと反応してしまう。そんな俺の姿に桐花はクスリと微笑ましそうに見つめ言葉を続けた。
「私以外の女の子を好きになったたっくんには……たっぷり
言葉を挟もうとした時、耳に何やら生暖かい湿ったものが入った。
「お、おい桐花!?」
反応が遅れたが、すぐさま気づいた。
俺は桐花に耳を舐められている。生暖かい感触とともにぴちゃ、ぴちゃ……という湿った淫らな音が耳を刺激する。
抵抗しなければいけないのに、身体から力が抜けて押しのけることができない。
「ん……はぁ……可愛い、たっくんぅ……♡」
予想外の出来事に心臓の鼓動も早くなり、身体もより一層熱くなってしまう。
甘えん坊で戯れつく姿は仔猫のようで可愛らしいいつもの桐花でない。今は男を誘惑するサキュバスのような色気を漂わせている。
「……気持ちいだけじゃあ
そう囁かれた次の瞬間、耳に痛みが走った。
「いつっ!?」
突然の刺激に思わず声が漏れる。
耳がズキズキと痛むので耳を噛まれてたんだ。
「ごめんね。痛いけど我慢して欲しいなぁ〜」
と、言葉面だけは優しい桐花は耳を噛むのを再開した。
最初のようにズキリと痛む噛み方と、はむはむと歯を当てず唇だけでの甘噛みを交互に繰り返される。
痛みと快楽で頭がくらくらしてしまう。
「ふふっ、顔がとろんとしてきたねぇ。今は私以外のことは考えられないみたいって顔してるよ〜。はぁ……好きだよ♡好きだよたっくん〜♡」
楽しげに囁く桐花。
俺は耳舐めになんとか耐えながら訴えようと口を開く。
「き、きりか……っ」
「むー? なーにぃーたっくん?」
「やっ、やめてくれ……。これ以上続けられるとどうにかなりそうだ……」
俺だって男だ。こんなことされたら理性が飛びそうになる。
「やめて欲しいの〜?」
「あ、ああ……」
桐花は俺の顔をのぞき込み……それから心底満足そうに微笑んだ。
このままじゃ堕ちる——残りわずかな理性でそう悟る。
「えー…ヤダ!」
その言葉にサァァと血の気がひく。
「嫌だよ。たっくんはこんなに気持ちよさそうな顔をしてるのに止めちゃうなんて可哀想。これはお仕置きであって治癒でもある
幼い顔立ちに似合わぬ大人びた表情を浮かべる。
このままじゃ本当に………。
「たっくん分かった? 痛みと治癒は同時に行うもの。飴と鞭で初めて快楽なの」
羞恥と背徳の狭間で脳がとろとろに溶けていく。
次第に桐花の声がどこか遠くからふわふわ漂うように聞こえてきた。
「たっ、たのむきりか……っ。おねがいだから……はなしを……」
薄らと涙が出たのは分かっている。
絶え間なく俺の耳を刺激する桐花。俺はこの甘美な拷問に屈さぬよう歯を食いしばり言葉を続ける。
「話をしたい……お前を嫌いたくないから……っ」
「……分かった。これ以上は止まらなくなっちゃうから今回はここで
俺の耳から宣言通り離れる桐花。
地獄の耳舐めが終わりホッと一息つく。だが桐花はまだ俺の上に乗ったままだ。不利な状況なことには変わりない。
「ねぇ教えて? どこの女を好きになったの? 女優の子? 歌手の子? それとも……」
熱い吐息とともにシャツをギュッと握られる。
言い逃れなんてできない。
「俺は……転校生の女の子に一目惚れした」
「っ……」
桐花の動きが一瞬緩まった。
身体も動くようになり、それを見逃さなかった俺は、自由になった手で桐花を押しのけた……と思えば体勢が逆になった。
桐花が俺の裾を引っ張り自分の方に抱き寄せた。つまり俺は今、桐花を押し倒している状態。
「あはっ♪たっくんに押し倒されるのって……すっごく興奮する♡」
高揚した頬を触りうっとりした様子の桐花。とても幸せそうだ。
というか……桐花のヤンデレが全然わっかんないんだけど!?!?
相手の傷を癒やしてあげたい。
相手を攻めたい。
???
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