2人目の堕落(ヤンデレ)
第10話 活躍のその裏で① *
(
———長い前髪と眼鏡で、表情の見えない男の子。
それが隣の席、
転校初日。
クラスメイトたちの前で噛まずに無事、自己紹介を終えた私は、先生に座席の指定をされた。どうやら佐藤卓さんという男の子の隣らしい。見ると、窓際なのでちょっとラッキーだ。
「隣の席ですね。よろしくお願いします」
「………」
「?」
隣の席の男の子、佐藤卓さんに声もかけるも反応がない。
(聞こえてなかったんでしょうか……?)
「あの……」
「あっ、えと……」
もう一度。少し大きめに声をかけると、今度は気づいたようだ。
「ご、ごめん……緊張しちゃって……」
「あはは……」と苦笑を浮かべながらは頬をかく佐藤さんの姿に、なんだか安心感があった。
今まで男性との関わりが少なかった私。知らぬ間に苦手意識が出来てしまった。話しかけられればもちろん対応はするけど、愛想笑いで誤魔化せるもの時間の問題。
でも……佐藤さんはなんだか接しやすい。
初めて会ったはずなのにそんなことが頭をよぎった。
それからも佐藤さんはやや緊張した面持ちだったけど、私に一生懸命話しかけてくれた。
私は平等に接してもらえることが嬉しかった。まだ私について何も知られてない状況だとしても、こうやって普通にお話しすることがなによりも楽しかった。
長い前髪に瓶底眼鏡の優しい男の子——それが佐藤卓という男の子と私は認識した。
◆
「里緒ちゃん、売店初めてなんだぁ」
一緒に行動させてもらっている、
私は今、一階の売店でお昼ご飯を買ってきたところだ。今日は売店で買うと決めていたので、お弁当は持ってこなかった。
「はい、実は初めてなんです。前の学校は売店はなく、食堂だけでしたので……」
「売店がない学校とかあるんだね。アタシ、売店は高校建てるときの絶対条件みたいなものかと思ってたよ〜」
「ふふ、たしかに売店があるところが多いですからね」
一瑠さんは笑うと私も釣られて微笑む。
一瑠さんは優しい方で、この学校で当然友達なんていない、不安がたくさんの私のことを気遣って、真っ先に話しかけてくれました。そしてなにより、明るくて気さくな性格なので、緊張せず、楽しく話すことができる。
そんな一瑠さんと雑談をしながら二階の階段に差し掛かった時……彼女の足が止まった。
「ん? なんだろあの人混み……」
一瑠さんの視線の方を見ると、自動販売機付近に生徒がたくさんいた。皆さんの視線の先に、何か注目してしまうものがあるのだろう。
「ちょっと見てみよっか」と言う一瑠さんについて行き、私も野次馬に向かった。
「何かあったの?」
一瑠さんが手前の男子生徒に聞く。
「ああ。俺も途中からしか見てなかったけど……あのメガネ男子のキーホルダーが潰されそうになった時に、ザコウが飛び出して……」
キーホルダー? ザコウ?
いまいち状況判断ができないが、一瑠さんはピンときたようで……野次馬の中をかき分けて行った。私も後に続く。
「へぇー、どれどれ〜。あー、公道くんかぁ……」
「お知り合いですか?」
「知り合いってほどじゃないけど……。アイツのことを一言でいうなら、不良だね」
「不良さんですか……」
呆れた表情を浮かべる一瑠さんの目線の先を見ると、公道さんと思われる、派手目の容姿の男の人が何やら怒っていた。
手前の方で、その公道さんに絡まれているのが……。
「えっ、佐藤さん……!?」
思わず声が出てしまった。
佐藤さんは、大人しい方でこういう絡まれる場面には無関係だと勝手に思っていたから。
「もう少し近くで見よっか」
「え、あ……」
一瑠さんに手を引かれ二人の声が聞こえる距離まで移動する。
「努力して努力家になった奴なんていない。元々努力家だから努力してる。それが自然にできるようになって初めて"天才"が生まれるんだよ。努力できる奴が一番強いし、成長し続ける。つまり努力家もまた才能だ」
佐藤さんが真剣な表情で語る。
ふと、以前の学校での出来事を思い出した。
前の学校での私のあだ名は『才女様』
それが褒め言葉だとしても私はこのあだ名が好きになれなかった。
【天才とは1%のひらめきと99%の努力である】
かの有名なエジソンの名言で誰もが知っている。
歴史に名を残すような人や、後世に残るような発明をした人は天才と呼ばれている。しかし、彼らのほとんどは努力の積み上げでできた人工の天才。
つまり天才のほとんどは努力でできている。
考えれば誰でもわかること。
しかし、彼らの努力を私たちは見ていない。だから天才や才能といった言葉でいいくるめる。
私は『才女』というたった二言で今まで積み上げてきた努力を表現されるのが嫌だった。誰かに努力を知って欲しい。
「んだと!? 陰キャが調子にのってんじゃねぇぞ――!」
公道さんが佐藤さんを思いっきり殴った。私はその光景に「ひっ」と小さい悲鳴が出た。
殴られた佐藤さんはよろめきながらも公道さんから目を逸らさなかった。
それから——彼から目が離せなかった。
「人の心を動かすのは、いつだって
一瞬怯えたように顔をあげる公道さん。その瞳に映るのは私の同じ印象の長い前髪に瓶底眼鏡の男の子——のはず。
たが私は一瞬、彼の瞳を見た。
力強くて鋭い眼光でありながらも綺麗な瞳だ。
そして言葉を聞いた時、胸の奥底に溜め込まれていたモヤモヤが一気に無くなった気がした。
努力の結果を行動という披露の場で発表する。人はそれに魅せられる。
今、私を含めるこの場にいる全員が何も言わずにただ、彼に注目している。
すなわち彼の言動に心動かされているのだ。
公道さんは、真っ赤な顔でわなわな震えている。言い返せないのかただ佐藤さんを見つめるだけであった。
「ちょっと君たち!! 何をしてるんだ!!
突然の大声に私だけではなく、集まっている全員がビクッと肩を上げ声の方向を見る。
「おっと、先生がきちゃったかぁ〜」
生徒たちをかきわけ二人の共へ向かった先生方。二人も気づいたようで、公道さんはどこかに行ってしまった。
放課後になると佐藤さんの席を囲むようにたくさんの人が話しかけていた。私も混ざりたかったが、勇気を出せなかった。と、いうよりは……
『人の心を動かすのは、いつだって
あの言葉と瞳が忘れられない。
出任せではない、実際に経験してきたようなあの口調。
私はまだ佐藤卓さんの本当の姿を知らない。
クラスメイトに苦笑の笑みを浮かべながらも対応する佐藤さんを尻目に、自分の手をギュッと握った。
——貴方なら本当の私を知ってもらえるんですか?
———※———
(???side)
「むぅ〜。暇だなぁ〜」
いち早くスタジオに到着した私は、練習着にパパッと着替え、寝転びながらシャツをパタパタと動かしていた。
「そうだ! たっくんを呼ぼう! でも週に一回だけだよなぁ〜」
『タクくんはこれから週に一度しか来れなくなったって』
七月七日のスタジオでの会議で天姫ちゃんがそう報告した。理由は——なんか言っていたがあんまり聞いてない。だってそれは嘘だから。
「今週は私が選ぶのかぁ〜」
週に一度しか来れないたっくん。その日を私たちが自由に決めていいと社長が言ったらしい。ここはちゃんと聞いていた。
「週に一度……んー…ん…。よしっ、会いたいと思った時に使ったもん勝ちだよね!」
LINEでメッセージを打ち送信!
『たっくん! 今日練習に来てよー!』
するとすぐにピコン! とスマホが鳴った。
『了解(犬のスタンプ)』
「やったねぇ〜。にししっ〜」
たっくんから送られたスマホを見ながら私は頬を緩める。
週に一度だとしても会えることが嬉しい。
「さてと……今日は私が独占する番だね♪」
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