第9話 「アイドルとファンと努力」
「……はぁ? なにしゃしゃり出てんだよ、ザコウ……」
俺の突然の登場に顔をしかめ、気に食わなそうな顔をする公道。
コイツと話すのは朝ぶりだな。あの時は公道の一方的だったけど。
と、話が脱線したな。
さてと、公道とお喋りする前に……。
「まずは……はい、君。これ大切なものだろ」
メガネの男子生徒に桐花モチーフのキーホルダーを投げて渡す。
「あ、ありがとう……」
「なんのなんの。それと俺は今から公道と話すから離れた方がいいよ」
メガネの男子生徒はいそいそとその場を離れていった。クリーニング代は言われなくても払うだろ。
「お、おいなんだアイツ……」
「公道に歯向かうとかやばくね……?」
周囲に注目されているのは視線でヒシヒシと感じる。だが気にすることなく公道の前に立つ。
「さて公道。俺とお喋りしようぜ」
「は? ……なんでお前なんかとお喋りしないといけないんだよ」
「アイドルとオタクを侮辱したお前に魅力について語った方がいいと思って」
「アイドルとオタクの魅力? 俺にはそんなもの必要ない。美少女は勝手についてくるし、オタクなんてキモい連中にはなれないスペックの良さがあるからな。くっくっ……所詮、顔も運動も勉強も全部"才能"なんだよ」
勝ち誇ったような顔で俺を見下す公道。自分の才能に自惚れているのがよく分かる。
「まぁお前が言うことは合ってるよ。才能は生まれつき持ってる人間と持っていない人間がいるがいる。すなわち才能は、神がくれるものだ。——でも努力っていうのは誰もくれない。何故なら努力は自分で掴みにいくものだから」
俺の言葉に公道は「はぁ?」と馬鹿にしたようにニヤニヤ笑みを浮かべるが、お構いなしに言葉を続ける。
「努力して努力家になった奴なんていない。元々努力家だから努力してる。それが自然にできるようになって初めて"天才"が生まれるんだよ。努力できる奴が一番強いし、成長し続ける。つまり努力家もまた才能だ」
「努力努力って……陰キャがなに語ってるんだよっ。俺はなぁ、努力なんてちまちま細かいことしなくても——」
「お前みたいに努力もせず見下してばかりの才能はいつか破滅するぞ。それか努力している奴にアッサリと抜かれるかだな」
「んだと!? さっきからゴチャゴチャ語りやがってッ。陰キャが調子にのってんじゃねぇぞ――!」
殴りかかる公道の拳を避けることなく顔面に喰らう。
「ッ……」
頬に強い痛みが走り、よろめくが……なんとか耐えた。
口の中で鉄の味が広がる。手で拭うと赤い筋が。どうやら唇を切ったようだ。
「はっ、口で勝てないから手を出すとは……。中身は案外そうでもないんだな……」
「テメっ…… 」
もう一回殴りかかろうとしてきた公道の拳を今度はかわし、両手で肩をドンッ!! と壁に押し付ける。
「ぐっ……このっ……」
歯を食いしばり抵抗する公道の肩にさらに強い力を加えて押さえつける。
公道は俺にこれほどの力があったのかと驚くとともに、俺の変貌ぶりにようやく気づいたようだ。
俺はすぅと軽く息を吸い、そして——
「"人の心を動かすのは、いつだって
目の前の公道に感情をぶつける。
「人間、自分が他の人より上位にあると見下し、優越感に浸ることだってある。そうしないと精神が安定しないからな。でもそう思うのは心の中だけ……。お前みたいにいつまでも見下すというおもちゃに縋ってないんだよこっちはっ!!」
握っているシャツをグッと上にあげ、力を込める。
「そして何よりも許せないのは努力してるアイドルとオタクを馬鹿にしたことッ。たった一日のライブためにアイツらは何ヶ月も前から準備してる、努力してるんだよ! そして、その成果を見るために俺たちファンはライブを楽しみに待ってる。チケットを買うためにお金を貯めたり、競争倍率が高いチケット合戦を制すために今か今かと画面と睨めっこしている!」
「つまり、両者とも一瞬の幸せために
莫大な努力を積んでる。だから……努力しているアイドルとオタクを舐めんじゃねぇぞ――っ!!」
「〜〜〜〜っ!!」
俺の大声の発言に対して、公道は歯を食いしばって怒りを抑えているようだった。
「ちょっと君たち!! 何をしてるんだ!!」
「「!?」」
複数の先生が野次馬をかきわけ俺たちの方に向かってくる。どうやら騒ぎを聞きつけたようだ。
「チッ……」
公道はシャツを掴んでる俺の手を振り払い反対方向へ歩いていった。
「君は二年の佐藤くんだね。何があったんだい?」
「いえ、なんでもないです……」
「なんもなくはないだろう? 口から血も出ているし……」
「いえ……」
その後、なんとか先生たちを誤魔化し、右手と頬に傷を負った俺は保健室で軽く手当してもらった。
◆
「……ねぇ、昼休みの見た?」
「ああ。ザコウが公道と喧嘩していたやつだろ」
午後の授業が終わり迎えた放課後。
俺は自分の席で頭を抱えながら悶絶していた。
あの昼休みの後、俺と公道が言い争っていた出来事は校内中に拡散。休み時間になるたびに、教室には『公道と喧嘩したやつはどいつだ!』と覗きにくる生徒が多発していた。
(うるせぇなぁ!! 俺だってな言われて怒ることだってあるんだよ!! 自分が育ててきたアイドルと応援してくれるファンをボロクソ言われて黙ってられるか!!)
「しかし、あの公道と喧嘩するとは……」
「人間見た目じゃないんだなぁ」
(悪かったな地味で陰キャでよ!! 待てよ……これっ、九重さんの耳に入ったら俺が喧嘩なんてする乱暴な奴だって思われるんじゃ……。反応が怖すぎて隣が見れねぇぇぇぇ!!)
「ザコウ……いや、佐藤」
脳内で悶絶パーティーを開催してると、陽キャグループの一人が俺に話しかけてきた。
「な、なに……?」
頬をポリポリかき、何やら言いたそうな顔をしている。なんだコイツ、イケメン野郎だな、と思い見上げていると……ポンっと肩に手を置かれた。
「お前……いい奴だな!!」
「へっ?」
「変な奴だなと思っていたが、こんなに熱い奴だとは思わなかったぜ!!」
oh……ボク、イマナニガオキテルカ、ワカリマセン。
すると俺の席に続々と人が来た。
「公道ってさ、なんかいつも人を見下していて気に食わなかったんだよっ。お前があの時ガツンと言ってくれたおかげでめっちゃスッキリしたわ!」
「私も見たかったなぁ〜。ねーねー、公道にどんなこと言ったのか、教えてよ!」
教室がワッと騒がしくなったと思えば、俺の机を囲み色んな人が質問してくる。その勢いに押され、陰キャモードも忘れて、普段通りに接してたことに気づくのは……もう少し後のこと。
ポケットに入れていたスマホがピコンと鳴る。相手は一瑠だ。
『見てたけどカッコよかったよ。ところで、この機会にそのくさい下手芝居はやめた方がいいんじゃない?』
見てたなら止めてくださいよ一瑠さん。
というか……俺の
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