アイドルたちの会議〜Part1
「ねぇ、あの反応どう思う?」
「辞めるってのは本当のことだと思う」
「タクの嘘はわかりやすい」
卓が去った後、
しかし今日は明るい雰囲気でない。
「でも、たっくんがここを辞める理由がわからないんだよねー」
「プロデューサーとしてやり切ったとかかな?」
「タクはサボり癖はあるけど、なんの理由もなく放り捨てるような性格はしてない」
うーん、と頭を悩ませる三人。
今までTakが辞めるなんて素振りを見せなかったのでますます理由がわからない。
「タクくんが辞めるだけならいいけど、問題は辞めた後に何をするか、だよねぇ……」
「辞めても私たちから会いにいけばいいものね。うーん……」
「事務所を辞めるほどの大切なこと……。んーんー……? 楽しいこと、夢中になれること……。恋をしたとか?」
桐花がぽつりとそう呟いた瞬間、天姫と雅の表情が強張る。そしてハイライトが消えた大きな目で、何やら真剣そうに考え込み始めた。
「好きな人ができたからその人のために事務所を辞めるってこと……?」
「可能性はあると思う。今日のタクのあの浮かれ具合からきっと良いことがあったのは違いない」
「たっくんに好きな人かぁ……。私たちもそれなりに可愛いと思うけどなぁー」
「ま、まあタクくんは私たちのことをアイドルとしてしか見てないからね」
「それは当たり前のことだけど、こうも脈がないとなんか悲しくなっちゃうよー」
今や国民的なアイドルの三人だが、Takと会う前は名も知られない地下アイドルとして活動していた。ライブを開催するも客が集まらないので逆に赤字になってしまう。ライブをする場所だってタダではないのだ。そのため、バイドで稼いだお金を赤字費用にあてたこともあった。
そんな苦労をしてきた彼女たちは、人気者になった今でも決して調子に乗ることなく、その謙虚さと誰に対しても平等な振る舞いは芸能界でもお墨付でpastel*loverはアイドルの鑑と言われるほどだ。
彼女たちを一番変えたのはTakという存在だ。
無名だった彼女たちに声をかけて、共に苦労を分かち合い、三人のために必死に活動する彼の姿に、やがてプロデューサーから異性へと気持ちが変化したのは言うまでもない。
つまり、この三人にとってTakこと佐藤卓は国民的アイドルにしてくれた恩人であり、想い人であるのだ。
「とにかく、タクくんがここを辞める前に本当の理由を探らないと。さっ、そろそろ練習始めよっか」
パンパンと手を叩き笑顔を浮かべる天姫たが、本心で笑っているとは思えない。他の二人もだ。
「あっぶねあぶっねー。なんとか誤魔化せたと思うが、あの三人に転校生に一目惚れしたからしばらく事務所抜けるなんてバレたら……なんか恐ろしいことになりそうだ」
危なげなく誤魔化せたと思っている卓。しかしその安堵はやがて恐怖に変わることを彼はまだ知らない———。
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