第一章 国民的アイドルのヒ・ミ・ツ

第3話 「俺の幼馴染は最高です!」

「今日も今日とて満員ですなぁ……」


 一人暮らしのマンションから電車で数駅の場所にある学校に向かうため、満員電車に揺られている俺、佐藤卓さとうすぐる


 何故、電車で通わなければいけないほど遠くの学校にしたかというと……Takである俺の学校が特定されにくくするためだ。Takは高校生であることは世間にしられているからな。


 電車内のポスターを見ると俺が担当したpastel*loverの三人が写っていた。

 どこへ行っても、雑誌でも、テレビのCMでもpastel*loverの三人をよく見る。こういう日常の何気ない時に、三人の知名度や人気者度を改めて感じる。


 本当に国民的アイドルに成長したんだよなぁ……。


「はぁぁ〜〜! きりたん可愛いなぁ〜」

「俺は断然、姫ちゃん推し!!」

「いやいや。クールビューティーな雅様だろ! あの冷たい目で罵られたいっっっっ」


 後ろの方でパスラブの推しメンバーについて言い合いをしている学生がいた。


 三人とも可愛いし、それぞれ魅力があって推しが分かれるのも無理はない。


「しかし、Takはいいよなぁ……。いつでもパスラブのみんなと会えるんだろ?」

「Takは俺たちと同じ高校生らしいぞ」

「マジか!? いっその事俺もプロデューサー目指そっかなぁ……」


 高校生プロデューサーというものは誰でもなれるわけではない。俺の場合は親父が事務所の社長だったこともあり、なんとかなれたんだけどな。

 最初の頃は「親の権力で好き勝手しやがって」と蔑まれていたが、成果をしっかり上げ黙らせた。


 芸能界では敏腕高校生プロデューサーとして有名な俺。


 しかし、学校ではというと……。



「ねぇ、またザコウがニヤニヤしてるよ」

「ザコウ気持ち悪いよね」


 超陰キャ男子だ。

 顔が隠れるほどのウィッグと分厚い黒メガネをかけてライトノベルを愛読するホームルーム前。自画自賛するほど完璧な陰キャであり、Takとバレない完璧な変装だ。

 ちなみにザコウというのは、俺の名字の佐藤と雑魚を組み合わせたあだ名である。ほぼ雑魚って言われてるもんだけどな。

 

「ふっ……友達なんていなくてもいいんじゃい!」


 この見た目のおかげか友達はゼロ。高校生二年生になって友達ゼロとか笑えるぜ、HAHAHAHA!!


「なにニヤニヤしてるのよ」

「いてっ!」


 誰かに頭をペシッと叩かれた。

 振り返ると……色素が薄い黄色のポニーテールがチャームポイントの香坂一瑠こうさかいちるがやれやれといった面持ちでいた。


 よし、陰キャモード発動だ!!


「お、おはようございましゅ香坂さん……!」


 震えた声にいかにも怯えてます感をアピールしている瞳。身体は小刻みに震えさせてまさに陽キャに絡まれている陰キャだ!(※本人の認識です)


「あーはいはい。そういうのはいいから。早く元の口調に戻して」

「んだよ、つれないな」

「つれないって、アタシがアンタのことどれだけみてきたと思ってるの?」

「俺ら幼馴染だもんな」


 俺と一瑠は幼稚園、小中高と同じの幼馴染。いわゆる腐れ縁というやつだ。家は隣ではないが、徒歩で行ける距離にはある。

 幼馴染と昔からの付き合いがあるため、俺がTakだと知ってる数少ない人間もある。


「正体がバレたくないから変装するのはいいけど、なんで陰キャの格好にするのかしら……」

「変装といったら陰キャだろ」

「アンタのは逆に陰キャ陰キャし過ぎて悪目立ちしてるわよ。今時こんなボサボサに髪なんているわけないでしょ」


 俺のボサボサウイッグの毛を指でくるくると掻き回す一瑠。そんなつまんなそうな顔するなよ。


「てか、一瑠の方こそ俺といると悪目立ちするぞー」


 先ほどから鋭い男子の目線が俺の身体を貫きそうなくらいに突き刺さる。女子はこちらを見ながらヒソヒソ話していた。


 学校での香坂一瑠は見た目のこそギャルだが、根は誰にでも対等で面倒見のいいお姉さん的立場だ。容姿も相まってスクールカーストは上位。

 俺はというと、もちろん最下位。


 そんな俺たちが一緒にいれば、傍からは、『スクールカースト上位の香坂さんが腐れ縁のザコウにわざわざ話しかけあげてる』という風に見えるだろう。


「別に。他人の評価なんてどうでもいいでしょ。アタシは卓と絡みたいから絡んでるんだし、それを邪魔するならアタシも一言言ってやる」

「ほぇー、カッコいいな一瑠! 惚れ惚れするぜ!」

「どーも」


 ポケットから爪やすりを取り出して興味なさげな返事をされた。せっかく褒めたのに。


「……今週も忙しいの?」


 主語がないが、おそらくTakとしての活動を聞いているのだろう。ここんとこ、放課後や休日を返上して活動していたからな。


「いや、暇だぞ」

「あら珍しい。じゃあ久々に遊びに行こっ」

「すまん。それは無理なんだ」

「なんでよ。あっちが暇なのに遊びにいけないとか、まるで恋人ができたみたいじゃない」


 惜しい一瑠。まだ恋人ではないが流石幼馴染、いい線いってる。


「一瑠。ちょっと耳貸して」

「えっ、なによ」

「実は……俺、好きな人ができたんだよ」

「はぁ?」


 ワントーン低い声が俺の耳に響き渡る。

 一瑠ちゃん一瑠ちゃん。女の子が低い声で「はぁ?」とか言っちゃいけません。


「本当なの? 冗談じゃなくて?」

「本当なの。冗談じゃなくて」


 同じ言葉で返えすと、若干うざそうにしていた一瑠だったが、突如腕を掴まれ引っ張られる。


「卓、ちょっと来て」

「おい、ちょっ……もうすぐ朝のホームルームだろ!?」

「ちょっとそこの男子。香坂一瑠は佐藤卓を保健室に連れていってるって担任に伝えといて」

「りょ、了解です!」

「俺は保健室行きなの!? いたっ、痛いよ香坂さん……!?」


 何故か頬をつねられ教室から連れ出されるのであった。




 バンッ!


 連れてこられたのは保健室ではなく屋上。壁際に追い詰められた俺は、一瑠に壁ドンされていた。トキメキより恐怖が勝つけどね……!?


「で? 好きな人ができたってどういうこと?」


 一瑠の声に感情が入ってない。俺は一体、なにをやらかした……。


「えとー…、転校生の九重里緒菜ここのえりおなさんに惚れたというかぁ……」

「あー…里緒ちゃんねぇ……」

「里緒ちゃんだと!? お前らもう仲がいいのか!」

「ええ。というか、副委員長の私が放課後に校内案内をすることになってるから私から話しかけたんだけどね」

「こ、校内案内だと!? 頼む! その役割俺と変わってくれ!!」


 校内案内とか絶好のアプローチチャンスじゃないか!


 ピョンと両脚を曲げて跳び、手をハの字にしてその状態で床にベタリと着地し、頭を地面ギリギリに下げた華麗なDOGEZAを披露した。この土下座に勝てる者はいない!


「……ふぅん。じゃあ私の言う事一つ聞くならいいわよ」

「ありがとうございますぅぅぅ!! この佐藤卓、好きな子のためならなんでもやります!!」

「はいはい元気がいいことで。ちなみにフラれたらどうするわけ?」

「フラれる……! 考えてもなかった」

「はぁ……頭の中お花畑すぎるでしょ……。そのポジティブさは一体どこから出てくるのよ」

「俺の中」

「紛らわしいから黙っといて」

「うっす……」


 例え幼馴染だとしても真顔で見下されると怖い。

 

「まぁフラれたその時は一日中アタシが慰めてあげるから思いっきりやりなさい」

「おお! 神様! 仏様! 一瑠様!」


 持つべき物はやっぱ幼馴染だよな!

 

 憧れの転校生美少女の九重里緒菜ここのえりおなさんとお近づきになれると舞い上がっていた俺は、一瑠が不気味な笑みを浮かべてることに知らなかった。


「……ふふ、卓は可愛いなぁ。もっとアタシにしてくれればいいのに……」







 香坂一瑠こうさかいちる ×××型ヤンデレ


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