第4話 「俺が担当した国民的美少女アイドルは今日も大人気」
『みんなーっ! 今日はpastel*loverのライブに来てくれてありがとーーーっ!!』
国民的美少女アイドルユニット【pastel*lover】こと、パスラブリーダー、
昼休みの教室。
本来ならば机を寄せ合ってワイワイと騒いでいるはずの空間は、プロジェクターで映し出されたpastel*loverのライブをクラス全員で鑑賞しながらの昼飯という異様な雰囲気になっていた。
今映し出されているのは本日十二時解禁のpastel*lover一周年ライブだ。一周年と記念の年とあってインターネット購入のチケットは販売開始わずか一分で完売になってしまい、現地で見れなかったファンは多かっただろう。
改めてクラスメイトを見ると、文字が書いてある団扇やペンライトを持っていて教室がライブ会場化していた。
『次は私たちの新曲、『恋はポップとビターのカフェオレ』を聞いてください!』
この言葉に、映像の観客と教室のクラスメイトは大盛り上がり。曲が流れるとうるさい声はなくなり、三人の歌声だけが教室に響いた。
今日が終わると、教室内は再び大盛り上がり。
「パスラブの新曲、『恋はポップとビターのカフェオレ』神曲すぎない!!」
「『恋は甘いホイップと苦いコーヒーを混ぜ合わせたカフェオレ』の歌詞いいよねー」
「次のCDも絶対買う!!!」
その歌詞を作ったのは俺だけどな!HAHAHAHA!!
とまあ、見ての通りクラスはpastel*loverの話題で持ちきりだ。そんな国民的アイドルを育てたのが同じクラスの陰キャだとは誰も思わないよな! クックックっ。面白すぎる!!
「……あの佐藤さん」
「ん?」
悦に浸っていると、なんと俺の一目惚れ相手の
別の場所で昼ごはんを食べてきたのか、弁当箱が入った巾着袋を横にかけて隣に座った。
落ち着け俺。冷静に冷静に……少しはかっこよく見せよう。陰キャモード50%だな。
「皆さんが見ているのはなんでしょうか?」
「ああ、パスラブのライブだね。パズラブっていうのは国民的美少女アイドルユニットpastel*loverっていう三人組のことだよ」
その国民的アイドルを育てたのは俺なんです! なんて言えないよなぁ……。
「つまり、今の流行りというわけですね。私も流行りに乗ります!」
「う、うん。その解釈で合ってるは合ってるけど……」
なんだが言い方に違和感があるなぁ。
「私、恥ずかしながら流行りに疎くて……」
「そうなんだ。でも俺も流行りには疎い方だよ。流行ってもすぐに変わっちゃうしね」
「そうですよね。でもこの方達は……凄くキラキラしていて憧れます」
パスラブのライブ映像に、キラキラした瞳を向ける九重さん。俺も彼女たちのライブを最初に見た時はこういう風だったなぁ。
ライブ映像に夢中な九重さんの姿を手を顎に当てて眺める。
(あー、やっぱり可愛いなぁ〜〜〜)
◆
(一瑠side)
「佐藤さんはパスラブが好きなんですか?」
「う、うん。好きだよ……!」
「これだけ魅力的なら好きになりますよね」
「う、うん……っ」
里緒ちゃんに話しかけられ、生き生きとしている卓を一番後ろの席から見守る。その姿はまるで、好きなアイドルにと会話している、ファンのような反応だ。
なんだが見ているこっちも微笑ましくなる。
「なぁ一瑠〜」
「ん〜?」
余韻を邪魔するように、後ろから話しかけられた。その方を向くと……二人組の男子が立っていた。
右の金髪ピアスが
すると公道くんは、アイドル鑑賞をしているクラスメイトたちを見て、面白くなさそうに鼻を鳴らし……アタシの方を向いた。
「なぁ、一瑠。いい加減俺と遊びにいかねー?」
またこの話題。私は何度も誘われていたが、断り続けていた。私の方が折れて仕方なく遊びに行くということはない。
最近の噂だと公道くんはアタシを狙っているらしい。そっちも全然興味ないけど。
「今日の放課後、俺らカラオケ行くからどう? もちろん才崎さんもさっ!」
一真くんまで、テンション高めに提案してきた。
それを聞き、アタシと机を引っ付けてお弁当を食べる、
「今日は愛莉と二人っきりで出かけるって約束だからパス」
「そそ。一瑠との時間を邪魔してもらったら困る」
アタシ達がそう言って断ると、一真くんは残念そうにしていた。
これで諦めて帰ってくれると……思っていなかったけどさ。
「つかさ、前から気になってたんだけど……。なんであんな地味陰キャのザコウと絡んでんの?」
不機嫌そうな公道くんが聞く。
卓のあの下手な陰キャ芝居を、相変わらず信じ込んでいる公道くんに思わず笑いが溢れそうだったが……我慢する。
卓を陰キャ認定している人のほとんどは、スクールカースト上位の陽キャかその陽キャに媚を売って仲間に入れもらっている生徒だけ。容姿だけで見下している人間はほんとくだらないと思う。
「一緒にいたいって理由じゃダメなの?」
「そうだよ。一瑠が誰といようが自由でしょ」
「チッ……おかしいだろ……」
公道くんの表情はますます険しくなる。
「……俺よりもアイツの方がいいってことかよ?」
「もちろん。何倍もね」
そう言ってニコッと笑って見せると、
「あんなボッチで陰キャ野郎のどこがいいんだよっ!」
いきなり大声を上げたと思えば、公道くんが前の席の椅子を思いっきり蹴った。その拍子に机も倒れて……ガダンッ!!と大きな音が教室に響く。
ライブに夢中だったクラスメイトたちは一斉にこっちを向いた。
「……あ? なに見てんだよ」
ガンを飛ばす公道くんに対し、すかさずアタシが「ごめんねー。気にしないでー」と言うとみんなライブに視線を戻した。
このまま不機嫌なままで好き勝手されても困る。めんどくさいけど、アレで大人しくするかぁ……。
「
「ふっ、やっとその気きになったか」
なにを勘違いしているだろうか?
何故か満足げな公道くんの耳に小声で……ある事を呟く。
ボソボソ
「っ……。おまっ、なんでそれを知ってるんだよ……!?」
アタシが言い終わると、公道くんの顔がみるみる青ざめた。
そして、最後の一言を囁く。
「これ以上卓をバカにするならアンタに何するか分からないから」
意識してドスの効いた声で囁く。彼はビクリと身体を震わせた。
「おいおいなんだよ翔〜。何言われたんだよ〜」
何かいい事を言われたと勘違いしている一真くんが公道くんに膝をクイクイと押し付けるが、彼は固まったままだ。
「いや、ちょっ……俺便所いくわっ」
「おい翔! なんだよアイツ……。じゃあ俺も失礼するよ。またねっ」
慌てて教室を去っていった公道くんを一真くんも追いかけて行った。
やっと落ち着ける……。
「一瑠ってさぁ……佐藤のこと好きなの?」
「んーそうだねー。好きだよ」
好きじゃなかったら一緒にいないしね。
「にしてはアプローチとか全然しないよね。大丈夫?」
「最終的にはアタシのところに戻ってきてくれればいいし、今は様子見ってとこ」
「そんな余裕ぶってると、あの転校生や他の女に取られるよ」
「ふふ、大丈夫。そのための依存だから」
「?」
不思議にする愛莉を尻目にタコさんウィンナーを一口頬張る。
ねぇ卓。今だけは君の力になるけど——"恋する女の子は甘くないよ"。アタシも含めて……ね♪
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