第6話 現実逃避と次へ
権能をフルに使い助けた馬車から出てきたのは、綺麗に腰の曲がったそれはそれは美しい見事な
「グスッ、ヒグッ、ウグッ」
「だから言ったじゃないですか」
裁定者は、この世界に意識が生まれた時から一千年。初めて嗚咽しながら涙を流した
「だって、だってよ〜。なんであんな綺麗な声して、老婆なんだよ・・・」
「無事で良かったではないですか。お礼もしてくれるそうですし。聖王国まで乗せてくれるそうですし」
そう、馬車から出てきたのは腰の曲がった老婆であった。あかねも最初は疑った。
老婆があんな大声で悲鳴をあげるなど考えなかったからだ。
”把握の権能”を使ってみてみたが、見事なまでの普通の老婆であった。
「なんでこうもうまくいかないんだっ」
これでは、聖書にあるお決まりが一つも果たせないではないかっ
「まあ、そう言わずに。先は長いのですから」
「え?」
「あなたは、”不老不死”。この世界が消滅しない限り死ぬことはない。そしてこの世界もあなたが死なない限り消滅しない。時間は無限です」
「つまり?」
「チャンスも無限大です」
その言葉を聞き裁定者は、
「だよな!!!!」
一瞬で立ち直った。この単純さアカネにとって扱いやすいことこの上ない。
「亡くなった兵たちの埋葬も終わりましたので、屋敷に向かいましょう」
そう言って老婆は、二人を馬車の中へと案内した。
「あなた方はどちらから?」
「「え?あー」」
考えてなかった。塔の天辺と言えば早いが、そんなことを言っても信じてもらえないだろう。
(おいっ、アカネっ。どうする?)
(とりあえず、旅人設定でいきましょう)
「「旅人です」」
「旅人か。これまでどのようなところに?」
((ふかぼってきたっ))
「「あっ、えーっと。いろいろ?」」
「ふふっ」
「どうされました?」
突然笑顔を見せた老婆にアカネが尋ねると
「いえ、仲の良いご夫婦だなと」
それを聞いたアカネは顔を赤らめることなく
「いえ、それはないです」
と無表情で答えた。
「あらあら、お強い方なのに。もしかして冒険者の方達?」
”冒険者”
その言葉に今まで平静を保っていた裁定者のテンションが上がるのをアカネは感じ取った。
「いや。これからギルドに行こうかと」
明らかにテンションが上がっている裁定者は老婆との会話に入ってきた
「では、私から紹介状を書きましょうか」
なんと甘美な響きっ
「これでお約束が一つ達成されたっ!!」
腕を突き上げそう叫んだ
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