第3話 降り立った日

その日、神子とその側近たちは今まで見たことのないほど慌ただしかった。


神子は、これまで何千何万と繰り返してきた神ー裁定者ーへの祈りを捧げていると突然神託が降った。


「あ、神子ちゃん?明日からそっち行くから」


じゃ、そういうことで。とそれだけだった。


「・・・・・・・へ?」


千年生きている神子もこれには理解が追いつかず、惚けることしかできなかった。


「よし!神子ちゃんにも伝えたし、行くか!」


「あんな神託で良かったのですか?」


今まで以上に適当な裁定者の姿を見てアカネは先行きに不安しかなかった。


「大丈夫だって。ちゃんと聖書で振る舞い方も勉強したし、なんとかなるさ」


「聖書って・・・、ただの漫画ですよね?」


「うっ。いいんだよそれで。とりあえず、一通りのお決まりというものはこなしたいからね」


今までが退屈すぎたためかテンションが上がりすぎている裁定者を見て


「そうですか」


と無表情にそう言った。


神託を聞いた後

それぞれの神子は今代の王に伝えるため城を駆け回った。


神子が息を切らして走っている姿を見た使用人たちは、目を擦りながら、自分のみた光景を疑っていた。


〜王国では〜


「王よ。神託が降りました」


「うん。・・・・・・・・は?」


落ち着いた雰囲気を醸し出し、覇気などを感じさせない普段の王だが、まさか自分の代で始まりの日以来の神託が降るとは、つゆにも思わず間抜けな顔になった。


「神託がおりました」


王が豆鉄砲を喰らったかのような顔になっている事を気にせず、神子は報告を繰り返した。


「・・・・・・・君、そういうとこあるよね」


「?」


神子は、王の言ってることがわからず


「しんた・・・・「ああーっ!それはわかった。すまんすまん」


全く謝る必要などないのだが、つい謝ってしまうところに王の性格が出ている。


「それで内容は?」


「はい」


一呼吸おき神託の内容を話し始めた。


〜帝国では〜


「皇帝、神託が降りました。」


「ふ〜ん。で?」


興味がなさそうに答えるのは、今代の帝国の王だ。


「・・・お伝えしてもよろしいですか?」


神子は、一千年の間、何代にも渡って皇帝に仕えてきたが、性格的に好きにはなれなかった。


「いや、いいよ。勝手にやっといて」


これである。これには神子も


「わかりました。では」


後悔なされるな


その呟きは、皇帝の耳には届かなかった。


〜聖王国では〜


「教皇。神託が降りました」


真実まことですか!?」


普段信者の前で感情をあらわにしない教皇が全身で感情をあらわにしながら驚いている。


「はい」


「なんと!!まさか私の代で信託が降りるとは、いやはや長生きはしてみるものですね」


今代の教皇はまさに好々爺という言葉がそのまま当てはまるような人であった。


「して、その内容は?」


その問いとともに神子は神託の内容を話し始めた。



「「「千年ぶりの、楽しんでもらわねば」」」


3人の神子はしめし合わせたかのように、決意をあらわにした。


こうして、神託の内容は秘密裏に伝えられ、裁定者に楽しんでもらうための準備が着々と進みはじめた。


(千年ぶりの休息とかなんとか考えてるんだろうな)


裁定者とともに下界に行くこととなったアカネは神子の考えを推測した。


しかし、「働いたのは最初の百年だけだなんて言わない方がいいですね」


「ん?なんだって?」


「いえ。なんでも」


それではいきましょうか。

こうして二人は、下界への第一歩を踏み出した。




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