レベッカ一行の世界漫遊の旅 4 (母を求めて?千里? 11)

 と、共食い…。


よりによって神に最も近い存在であり…この『アトランタ』の地においては、神殿が建てられ、尚且つ神として崇められている正真正銘ドラゴンであるセネカさんが…。


「ま、まさか…お父様は鶏肉料理も魚料理も怖いんですのっ?!」


ミラージュがサミュエル王子の分のワイン瓶に手を伸ばした。


「あ、それは俺のワイン…」


ミラージュは隣で訴えるサミュエル王子を完全無視し、ワインをラッパ飲みすると叫んだ。


「何て情けないことを言うのですかーっ!!」


キィィィイーンッ!


どうやらその際に、うっかり軽い超音波を発してしまったようである。


「うわっ!耳が痛いっ!」


サミュエル王子は両耳を抑え、ワイングラスにはピシリと軽いヒビが入る。


「キャアッ!ミラージュッ!お、落ち着いてっ!ここはお店の中なのよっ!」


私は慌ててミラージュを止めた。


「あ…も、申し訳ございません…。つ、つい興奮してしまって…」


ミラージュはため息をつくと、再び傍らに置いたサミュエル王子のワインをラッパ飲みする。


「ああっ!だ、だからそれは俺のワイン…」


サミュエル王子が飲み干されたワインを恨めしそうに見つめている。


興奮しまくっているミラージュとワインを飲まれ、落ち込んでいるサミュエル王子はおいておき、私はセネカさんに尋ねた。


「あの…ひょっとすると、ドラゴンの方々は…もしや菜食主義ですか?」


「う~ん…そうとも言えるし、そうではないとも言えるな」


何だか訳の分からないことを言う。


「ちょっと!お父様っ!何を訳の分からない事をおっしゃってるのですかっ?!」


ミラージュが見せびらかすように鶏肉料理を食べながらセネカさんに迫る。


「だからやめろってばっ!私の前で…と、鶏肉料理を食べるなっ!」


怯えたように叫ぶセネカさん。


「何ですってっ?!こんっなに美味しい食事を口にしない人生なんて半分死んでるようなものですわよっ!」


ミラージュはかなり大げさな事を言ってはいるが…確かに食べたいものを食べられない人生なんてつまらない。きっとセネカさんだって、本当は鶏肉料理を食べたいに決まっている。その証拠に先ほどからテーブルの上に乗った鶏肉料理や魚料理に目が釘付けになっている。


そこで私はミラージュとセネカさんの力になってあげようと思った。


セネカさんの見ている目の前で、テーブルの上に乗せられた大きな七面鳥の丸焼き料理をナイフでスライスした。

途端に香るスパイスに溢れ出るジューシーな肉汁。そしてその様子をじっと見守るのはミラージュ。

ついでにサミュエル王子はまたもやテーブルの上で眠りについてしまわれた。


ゴクリ


セネカさんの喉が鳴るのを見過ごさない。


プスリ


美味しそうな鶏肉料理をフォークに刺して、セネカさんの前に差し出した。


「ほら~どうですか?このお肉とぉ~っても美味しいですよぉ。ほら、スパイシーな香りが食欲をそそられると思いませんか?」


「う…」


セネカさんは今にも口を開けそうになったが、激しく首を振る。


「いいや、駄目だっ!と、鶏肉なんか食べたら…と、共食いになってしまうっ!」


「そうなんですか?残念ですね…では仕方がないのでこのお肉は私が食べてしまいましょうか?」


そして、自分の口元へフォークを運ぼうとして…。


「ま、待てっ!」


慌てた様子でセネカさんはフォークから鶏肉をパクリと食べた!すると途端に目を見開く。



「な、何だ…こ。これ…は…とても美味しい…!なんておいしい料理なのだっ!」


そしてあろうことか、セネカさんは目の前の七面鳥料理にかぶりついた。


「美味いっ!美味すぎるっ!最高だっ!」


そして…美味いを連呼しながら、ついにセネカさんは鶏肉料理を食べ尽くしてしまった。


「いや~もう菜食主義なんかやっていられるかっ!これからは肉がメインだっ!」


間食して満足げに笑うセネカさん。


…どうやらこの美少年は一皮むけてレベルアップ?したようであった―。




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