第639話 大集結
「その熱量……貴公の魔力と融合させたその属性は……ッ、太陽から降り注ぐ日差しなどというレベルではないッ!」
いや、だったらなんなんだよ。俺は何を纏ってるんだよ?
「馬鹿な……ありえん……ありえるはずが……バカな。我の月光眼とてそんなものは……しかし、この熱量はッ!」
しかも、何で自分だけ分かったかのように震えているんだよ! 俺、大丈夫なのか? ヤバイのか? どうなんだ?
「ヴェルト・ジーハ……貴公は、微量とはいえ……『コロナ』を?」
コロナ? なにそれ? 暖房? とかで聞いたことあるような単語だけど……
ただ、今気づいたんだが……俺は今、生まれて初めて、『あるもの』を見た。
俺自身というより、世界の変化?
どういうわけか、昼間なのに……空にオーロラが現れた。まっ、今は関係ねえ。
「コロナだかコロ助だか知らねーが、どっちみち、今の俺にはこれしかねーんだ! 後先考えねえ不良をつつくとどうなるか、思い知りやがれッ!」
「待て! 貴公は……世界を滅ぼす気か! 状況が何も分かっていないのか? 『フレア』を起こす気か」
あん? 世界を滅ぼす? んなオーバーな力を俺が使えるわけねーだろうが。だが、こいつの慌てようから、それなりにツエー力なのか?
「……ありえぬ……いくら自分の魔力と融合させたからと言って、生身で纏えるものなのか? マグマの熱などとは比べ物にならぬほどの……こんな……ことがっ! これは、クロニアの言っていた………」
まあ、この際、細かいことなんて気にしていられるか。
やるしかねーんだよ、全開で。
そう、全開だ…………
―――今日も走るか、リューマ。全開でな
ああ、全開でやるぜ、大和さん……
「いくぞッ! 全開だああああああああああああああああああああッ!」
「待てと言っているだろう! それほどの熱量! 更に超高濃度の放射風を! ……おのれええっ!」
ヴェンバイがマジ顔になって、両目を大きく開き、月光眼が強い光を放った。どうやら、こいつもマジモードのようだな。
「煌け、大月光眼ッ! 全てを防げッ!」
これを防がれたら、もう俺は全てを出し尽くすことになる。限界突破。臨界点突破。全身に漲る新たな力を、ガキの頃からの相棒の二本警棒に滾らせて、その壁を叩き――――
「…………時空間忍法・時間外世界……」
………………………………………………………………………………はっ?
「えっ?」
それは一瞬だった。
突如聞こえてきた謎の声
同時に、視界に入る世界全体に影が遮った。
「荷電粒子砲!」
「天候魔法・
「困ったワンパク君だ。……月光眼発動!」
何が起こったかは分からなかった。ただ、突如世界が一変し、次の瞬間にはとにかく強烈な何かが俺の発動させた力を防いで掻き消し、その反動で俺が飛ばされた。この……突如と変わった異空間……これは……まさか……
「にいさあああああああああああああああん!」
そして、俺が吹っ飛ばされた先には、俺を受け止めるように、あいつが待ち構えていた。
全身鋼で覆われた、涙もろくて臆病な子分……
「……ドラ?」
「うわああん、にいさ~~~ん、会いたかったっすよ~、にいさ~~~ん!」
俺をその背中で受け止めて、涙と鼻水を出しながら泣きじゃくる……ドラ……なんで?
それに……
「うおお~~い、ヴェルトくん、チミ~、チミ~、チミ~~~~。危険すぎて私も使ったことも無い技を、な~に、君はサラッとやらかそうとしていルクセンブルグ?」
「会うたびに新しい進化を見せてくれるが、今回の進化はやりすぎだな。ヴェルト氏」
「何がひどいって、自分が無意識に辿りついた力が、どれだけすごいことなのか分かっていないところが、酷すぎさ~」
「確かに、噂以上のワンパク君だ。だけど、まさかパパを追い詰めるほどとは驚きだよ」
目の前には、ハイソックスと短パンで絶対領域を強調し、更に見上げればツンツンと指で突きたくなるヘソ! タンクトップで見える二の腕、脇の下! そして……ラクシャサやエルジェラよりは劣るものの、それでも名所として登りたくなるような二つの山ッ!
「お、お前は……ッ!」
活路を見出すために、俺は天を力づくで味方につけようとした。
太陽を無理やり引っ張ろうとした。
その結果、太陽が本当に、俺の目の前に現れやがった!
「にひ! お久しブルドーザーだね♪ ヴェルトくん。仲間に入~れて♪」
この状況下、聞きたいことや言いたいことが色々あるはずが、そんな言葉が思い浮かばないほど、俺の心は持っていかれていた。
「く……クロニアッ!」
あとはまあ、ルシフェルとかハットリ、それに知らない女が一人居るけど、そっちはどうでもいいや。
「クロニア……なんでテメエがッ!」
こいつ自身が太陽に見えるほど眩い笑顔と、陽だまりのような温かさの空気……クロニアだ……
「いやいや、ヴェルト氏。久しぶりだね」
「っていうか、俺たちのこと全然気にしてないさ~。半年前とそういうところ、変わっていないさ~」
「おやおや、彼がクロニアにお熱だったという話は本当のようだね。全く、おませさんだね」
ドラの背中で仰向けになっていた俺は、額をクロニアにポンポンと撫でられて……ヤバイ……なんか、スゲー、ムラムラしてきた……
他の奴ら? 今はどうでもいいじゃん、そんなの。
「ハットリ……貴様の魔法か……そして、何しに来た、クロニア! ルシフェル! オリヴィア! ドラッ!」
俺の攻撃を全力で防ごうと身構えていたヴェンバイが、結構服とかボロボロの状態になっていた。直撃しなかったと思っていたけど、結構ダメージがあったのか?
「怒らないでくれたまえ、ヴェンバイ氏。これはヤヴァイ魔王国云々を抜きにして、我々の仲間であるハットリ氏が男として、この地に行きたいという願いだったのでね」
「許して欲しいさ~。まあ、それに……あのままやってたら、多分、二人はおろか、この辺り一帯の近海が大変なことになってたさ~」
「ひいいいい、お、オイラに怒んないでほしいっす~! それに、どうして大旦那がにいさんと喧嘩なんてしてるっすか! 仲良く御願いするっすよ~! 喧嘩オイラいやっす~」
「私は見届けに来ただけだよ。まあ、噂のワンパク君がこの地に居て、パパと戦っていたのは予想外だったけどね」
ルシフェル、ハットリ、ドラ……んで、そーいや、この女誰だ?
つか、女のくせに身長高いな。170cmぐらいありそうだな。俺よりちょっと低いぐらいか?
中世的な顔立ちに、ベージュ色のショートボブ。黄金の額飾り。
凛とすました顔つきは、どこかリガンティナのような大人の女を思わせる。
高身長のスラッとスレンダーで、多分、俺より年上だろう。
っていうか、女でいいんだよな? 少しだけ胸が膨らんでるし。
でも、何でこいつは黒い執事服のような男が着そうな服を着てるんだ? 男装麗人?
おまけに、黒いマントも纏って、完全に美形ドラキュラだな。
そして……オリヴィア……オリヴィア……あれ? オリヴィアって……ジャレンガの……
すると、女は起き上がった俺を……って、をいをいをいをッ!
「たった一人で弩級魔王とよく戦った。ワンパク君」
「いやいやいや、お、お前、何をッ!」
……な、何で俺……初対面の女に顎をクイって持ち上げられて、頭ポンポンされてんだ?
「よいしょっと……ふふ、パパに対してこの小さい体でよくやったものだよ」
「って、何でだよ! つーか何で? どういうこと?」
「混乱して震えているね。ヤンチャなバンビーノ」
よいしょって! 何で俺、初対面の女にお姫様抱っこされているんだよ!
「君とは初めましてだったね、ワンパク君。随分と怪我が酷いようだが、もう大丈夫だ」
なに? この女のクセに、美人というかイケメンっていうか、キザな女は! なんで、笑顔がイチイチキラキラを発生させてるんだよ!
とりあえず、なんか変な女が現れたぞ!
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